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不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
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66 記憶の糸を縒って

 静かに雨が降りはじめた。

 雨粒に頬を打たれてエルシーが目を覚ますと、マッケンジー邸の庭に立っていた。龍は静かに二人を見下ろしている。

 隣りにはイーサンがいて、互いに顔を見合わせた。同じ体験を共有したことを確かめたかった。

 すべて黄金龍自身の「記憶」らしい。


 ――人間を傷つけるつもりはなかった。でも、仲間のむくろを明け渡すことはできなかったんだ。いにしえからの決まりなんだよ。


 エルシーは思い当たることがあった。龍の亡骸なきがらは人の目に晒してはいけない。龍族の約束事があると龍百科で読んだことがある。


「今のが事実なら、どうして弁解しなかった? 正当防衛として認められただろう」


 イーサンの問いに、龍は笑った。笑ったような気がしただけだが。


 ――騎士や魔法使いが束になってかかってきたというのに? 事情を説明するため国王のもとに出向いても「龍が王宮を襲撃した」と騒がれるのがオチだよ。


 混乱した人間の集団心理は、恐怖心を煽るだけだ。

 ルーカスは、山脈に身を潜めて、騒ぎが鎮まるのを待つつもりだったという。


「それでも、俺たち殲滅部隊がきたってわけか」


 不良魔法使いは悔しげな表情を見せた。

 すべてが誤解で、龍ばかりが悪者にされた。必要のない殲滅部隊が送り込まれ、結果として犠牲者だけが増えたのだ。

 払った犠牲もさまざまだった。命を失った者、心身に深手を負って騎士や魔法使いを廃業せざるを得なかった者、イーサンのように長い時間を奪われた者。


「なぜイーサンと戦うことになったの? 遺跡で戦うことになった理由があるの?」


 龍が答える前に、イーサンはハッとした。黄金龍を見上げ、頭を振り「くそっ」と吐き捨てる。


「あのとき、騎士が――」

「騎士?」


 殲滅部隊はほとんどが騎士と魔法使いで構成されていた。イーサンとマッケンジーもその中に含まれていたのである。


「遺跡に龍が潜んでいると村人からの情報提供があったんだ。確認するために何人か偵察に行かせた。数名の騎士とマッケンジーだ」


 マッケンジー自身が言っていたではないか……魔法使いとして名を上げたかったと。自分が龍を退治したと世間をだましたほどだ。


「あいつらが龍に襲われたと逃げ帰ってきたんだ。騎士の一人は瀕死の重傷だった」


 ――仲間を弔っていたところに彼らはやってきたんだ。龍狩り以上に卑劣だった。いきなり魔法で僕を拘束したうえ、剣で斬りかかってきた。


 深手を負った仲間を連れ帰ったマッケンジーは、饒舌だった。自分たちが攻撃をしかけたこと以外は、龍が遺跡をねぐらにしていることも詳しく報告したのだ。

 だからイーサンや他の隊員が遺跡に駆けつけた。


「俺は、何をやってたんだ……っ」


 イーサンは空を仰いだ。


 ――君も犠牲者だ。僕を封印したことで君の時間も止まってしまった。君は死を覚悟していたんだろうけど、それよりもつらい結果だったね。あのとき、愛する者のために別れを選んだのだから。


「どうしてそこまで知ってるの?」


 エルシーさえアンジェラについて詳しく知らないのに、ルーカスは不良魔法使いのことを熟知しているような口ぶりだ。

 黄金龍は、遺跡でイーサンと戦っているときにアンジェラの姿を見たと言った。しかも、龍には氷の中に封印されている間意識があったというのだ。


 ――氷に閉じ込められた僕たちの前で彼女は泣いていたんだ。それに、君の意識ともつながったことがある。だから、君については詳しいつもりだよ。


「な……何勝手なことしてやがる! 人の頭ん中のぞいてんじゃねぇ!」

「イーサン、やめて!」


 イーサンの顔は怒りのあまり真っ赤になっている。今にも龍に殴りかかっていきそうな勢いだったので、エルシーは慌てて不良魔法使いのシャツをつかんで引き留める。


「龍が気の毒に思ってくれてるのよ。イーサンだって反省するところがあるんじゃない?」


 ぐっとイーサンは言葉に詰まった。彼も龍と対決するまでの経緯について後悔しているはずだ。両者とも戦いを望んでいたわけではなかったのだから。


 今なら龍とイーサンは和解できるかもしれない。

 ところが、エルシーの夢見心地の時間は現実に引き戻されてしまった。

 マッケンジー家の正門で押し問答がはじまっていたのだ。


「王立騎士隊だ! 庭にいる龍を確認させてくれ!」

「ですから、庭への立ち入りは当家の主に許しを得ませんと……」


 王都の、しかも個人の屋敷に龍が現れたのだ。目撃者が然るべきところに通報してもおかしくない。

それが王立騎士隊だったとしても。

 魔法院の頂点に立つマッケンジーの屋敷が龍に襲撃されたとなれば、やはり騎士隊が派遣されるのは必至だ。騎士隊の制服を着た男たちが詰めかけ、門番相手にすごんでいる。


「面倒なやつらがきたぞ。あいつらと一戦交えるのは勘弁してほしいな」


 国王直属の騎士隊に逆らうのは、国王に背くのと同じことだ。一歩間違えば反逆罪に問われかねない。


「こうなれば龍とは無関係だと証明するしかない」

「えっ、イーサン何を言ってるの?」


 イーサンは神妙な面持ちで龍を見上げた。龍は黙って彼の決断を待っているように思われた。


「ここで……騎士隊の前で龍を退治するんだ。今度こそ!」


 不良魔法使いの言葉に、エルシーは愕然とした。



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