57 追跡
「すぐにセドリック・マッケンジーを探し出さないといけない。マッケンジー院長もな」
――僕ならどちらもできる。
ルーカスの声はエルシー以外の人間イーサン、さらにテオにまで届いたらしい。
「今の声は?」
「そこにいる猫さ」
メガネの奥でまばたきを繰り返すテオに、イーサンが告げた。
朽木の上から他の切株へと飛び移ったルーカスは小さくひと鳴きする。
「この猫が?」
「神の足跡山脈からずっと探していたやつだ」
半信半疑のテオに対し、さらに信じがたい説明を補足した。
「遺跡から……って、この猫が封印されていた龍だというのかい?」
エルシーやイーサンがなかなか声に出せなかった結論を、テオは問いただした。イーサンも明言はしなかったが、沈黙が質問に対する答えであることは明らかだ。
――やあ、シャルブルームの科学者くん。年寄りのマッケンジーは魔法院にいるよ。
ルーカスの挨拶に、テオは目を瞠り、イーサンと猫を交互に見る。
「まずはマッケンジーの息子を押さえる。お前をどうするかはその後だ」
不良魔法使いの言葉にエルシーは胸をなで下ろす。気まずい雰囲気だが、すぐに戦闘がはじまるわけではなさそうだ。無言で猫を抱きかかえたエルシーは小さな声でルーカスに尋ねた。
ずっと気になっていた疑問だ。
「どうして私に話しかけてきたの?」
当初、エルシーにしか話しかけてこなかったこと。その呼びかけが何を意味するのか知りたかった。
――それは、君が……
周囲には二人の会話が聞こえていないようだ。
「私は魔法院へマッケンジー院長に会いに行く。イーサン、君は息子のほうを頼む。くれぐれもエルシーを危険にさらさないように!」
テオの言葉がルーカスの答えを遮ってしまった。
「セディーのことも確かめなきゃ……」
ルーカスやイーサンの言うことを信じたくはなかった。セドリック本人から話を聞きたい。
少しでも早く。
――急ぐかい?
「え?」
エルシーはルーカスの問いが理解できなかった。今も自分の腕の中にいる猫の姿をした生き物が何を言おうとしているのかを。
――少しでも早くセドリックに会い行きたいのかな?
「もちろん。彼が何を考えているのか……本当に私たちを襲った魔法使いなのか確かめたいわ」
ニャアァン。
一際高く鳴いた猫の声を合図に、エルシーの体は風の渦にのまれた。
「エルシー!」
イーサンが血相を変えて叫んでいるのが見える。しかし、応答することは叶わずエルシーはルーカス共々空間の裂け目に消えた。
突風にあおられ、目を閉じたくらいの感覚だった。
次にエルシーが目を開けたときには、見知らぬ街並みが広がっていた。
「えっ、ここはどこ?」
――君が会いたがっていたセドリックの気配を追ってみた。きっと近くにいるはずだ。
「それじゃ、さっきのは瞬間移動の魔法?」
さすが龍だと感心した。呪文を唱えることなく高等な魔法を使えるのはやはり至高の存在ゆえだろう。
イーサンとの衝突だけは避けてほしいのだが――。
「あ……イーサンのこと置いてきちゃった」
それはルーカスの配慮かもしれない。エルシーは、セドリックに会って彼の真意を確かめたいと望んだ。できればイーサンやテオの介入がないところで。
「ありがとう、ルーカス」
気をよくしたのか猫はぐるぐると喉を鳴らした。
――あの魔法使いならすぐに追いついてくるだろ。ほんの時間稼ぎでしかないよ。
「セディーが私たちをだますなんて信じられない。もし事実だとしても、直接会って理由を聞きたいの」
イーサンたちが同席したら、わけを聞く前に断罪されかねない。
――危険なことだよ。本当に行くつもりかい?
「危険なものですか! あなたもついてきてくれるんでしょう?」
エルシーが尋ねると、ルーカスは降参とばかりに首をすくめるのだった。




