56 ルーカスの導く真相
「セディーが魔法使い? そんなはずないわ! 彼は子どものころから魔法が使えずに嫌な思いをしてきたのよ」
エルシーの言葉に、ルーカスは尻尾を揺らした。
――本人がそう言っているだけだよ。
以前イーサンから同じように指摘されたことがある。
「でも、でも……」
次の言葉が見つからない。セドリックが魔法を使えるとしたら、なぜそれを隠す必要があるのだろう。周囲から冷遇されるだけで得することがあるとは思えない。
ルーカスは体を起こすと前傾姿勢でうなりはじめた。
「ようやく姿を現したか。長いかくれんぼだったな」
「イーサン!」
不良魔法使いが険しい顔つきで歩いてくる。エルシーはとっさに自分の薬指を見た。彼が駆けつけてきたということは、今回はお守りの指輪が反応したのだろう。
「遺跡からずっとついてくるとは、よほどエルシーを気に入ったんだな」
――久しぶりだね、魔法使い。できれば会いたくはなかったけど。
エルシーはハッとした。今度はイーサンにもルーカスの声が届いているらしい。
「封印が解けた段階で気づくべきだった。お互い生き残ったことに――」
軽い口調で話すイーサンだが、その表情を崩すことはなかった。鋭いまなざしが金茶色の猫を捉えている。
息が詰まりそうな緊張感が漂う。
――お互いに……?
イーサンと猫のルーカス。互いに面識のあるのはたしかなようだ。
魔法使いが封印から解放されたとき、ルーカスも一緒にいたということだ。あのとき、エルシーも神殿で巨大な氷の塊に閉じ込められたイーサンの姿を目撃したが、猫はどこにも見当たらなかった。氷柱に一緒に閉じ込められていたのはイーサンと――。
事情を飲み込めたエルシーの顔から血の気が引いた。
「待って。じゃあ、あなたは……!」
エルシーが言い終わらないうちに、ルーカスはウニャッっと短い返事をよこした。
「今までずっと俺を避けていたのに、見つかるとわかっていてなぜここへ来たんだ?」
イーサンは警戒しながらも猫……猫もどきに尋ねた。
――君たちが、あの魔法使いの正体に気づかないからだよ。君といい勝負だよ、彼は。
不良魔法使いは小さく舌打ちした。
「やはり魔道具を使っているのか」
イーサンのような上級魔法使いに位置する者たちは、互いの気配で同業者であるかわかるという。
「マッケンジーが俺と互角だって?」
――若いほうだ。彼の魔力には異常なゆがみがある。
セドリックは魔法使いであるとルーカスは再度断言した。
「魔道具で自分の魔力を覆い隠していたってことか? 魔法が使えるふりをするやつはいても、使えないふりをするやつなんてめったにいない」
――僕には人間の理屈はわからないよ。けれど魔法使いたちの魔力の有無に関しては感覚的にわかる。
「セドリック・マッケンジーには何か狙いがあると考えるべきだろうね」
振り返ると、テオまでやってきた。イーサンの姿を追いかけてきたらしい。
「セディーが魔法を使えないふりをしていることを言ってるの?」
「それもあるが、疑わしい点を見つけたからね」
テオはイーサンに向かって小さな固形物を軽く投げた。受け取ったイーサンの手のなかにはジャムの小瓶がある。
セドリックが研究所へ火事の見舞いに来たとき、エルシーに贈ったものだ。
「薬草研究の研究班に調べてもらってやっと結果が出たんだ。妙な薬が入っていたよ。摂取し続ければ、いずれ依存症になる薬物だ」
「うそ……っ」
エルシーは口元を手で覆った。なんとか自分が納得できる理由を考えてみたがセドリックを正当化できるものはなかった。
同僚たちと食べてほしいと言われて渡されたジャムだったのに。
「調べたすべての瓶に薬が入っていたらしい」
「決まりだな。ローブをまとった魔法使いの正体はセドリック・マッケンジーだ」
追い打ちをかけるイーサンの言葉に、エルシーは足元が崩れていく気がした。




