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不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
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5 封印された龍、そして人

 あり得ない。

 エルシーは氷の中に閉じ込められている龍の姿に呆然と立ち尽くした。


「すごいぞ……大発見だ!」

「何を言っているの?」


 またウィルの目が輝いている。

「ウィル、この龍が本当に生きていたら大変なことになるわ」


 おそらく生きている。死んでいるならば、龍のしかばねを氷漬けにしておく必要がないからだ。

 神殿への出入りが禁じられた理由がわかった。退治されたと言われている龍は死んでいなかったのだ。龍の命は簡単に奪えるものではない。

 龍の鱗は極寒ごっかん酷暑こくしょに耐えられると多くの書物に書かれている。龍の体にはいまだ解明されていないことがたくさんあるのだ。


 しかし、氷漬けとはいえ龍の姿をじかに見られるとは思っていなかった。

 ウィルが「大発見」と言ったのは当然のことである。いにしえの時代に龍たちは複数の大陸を渡って子孫を増やしたと聞く。現在、シャルブルーム王国で生存確認ができたものはほとんどいない。

だとすれば、この一頭が最後の龍かもしれないのだ。

 氷の中にある龍の体は、光を浴びると鱗があちらこちらで反射する。


 ――きれい。


 そう言いそうになって、エルシーは手で口を塞いだ。

 暴走し、各地で被害を出した龍が、まだ生存している。見惚れた自分を不謹慎だと戒めた。

 それでもまじまじと観察してしまうのは、研究者としてのさがだろう。氷の透明度が高く、ずいぶんと先まで見通すことができた。


「あれ?」


 翼を広げた体勢で動きを封じられた龍の真正面に小さな影を見つけた。龍と比べたところで仕方がない。少し経ってから、エルシーは悲鳴のような声をあげた。


「人間だわ!」


 黒い塊に見えたものが頭髪では……と考えたとたん、氷に閉じ込められた光景が示す意味を悟った。


「あの人、龍と一緒に封印されているんだわ」


 エルシーは氷塊に手を当て、氷の表面にひたいをつけて目を凝らす。

 まちがいない。頭、胴体、手足と人体の見分けがついた。


 ――あの人は生きてるのかしら?


 龍と共に氷の中に閉じ込められたのならば、生きているとは思えない。


「今、何か声が聞こえたような……」


 隣で異常に気づいたウィルが、氷塊から離れた。新たな発見に気をとられ、エルシーはウィルの言う「声」には気づかなかった。

 ウィルは壁の大穴から様子をうかがっていたが埒が明かない。確認のため壁の向こうへ姿を消した。


 ドオオォォン


 次の瞬間、外からの爆発音にエルシーは耳を塞ぐ。体に衝撃が伝わり神殿まで大きく揺れた。


「エルシー、盗賊だ!」


 血相を変えたウィルが駆け戻ってきた。


「野郎、どこに行きやがった!」


 盗賊と聞いてもエルシーはピンとこなかったが、ウィルの後を追ってきた男たちが壁の穴から姿を現した。


「逃げろエルシー!」


 体格のいい男がウィルを羽交い絞めにする。ウィルは必死で抵抗し、相手の腕を振りほどいたが、新たに現れた男に殴られて背中から倒れた。


「ウィル!」


 エルシーは盗賊がいようと関係なかった。倒れて動かなくなったウィルに駆け寄り、彼の体を揺すり呼びかける。


「しっかりして、ウィル! ウィル!」


 反応がない。エルシーは動揺するあまり、ウィルの胸に耳を当てても心臓の音が聞き取れなかった。自分の鼓動の音が耳につくからだ。彼の顔から血の気が引いていく。


「さっきテントのあたりにいた小娘じゃないか」


 盗賊の一人が、エルシーの長い髪を引っ掴んでウィルから引き剥がした。顔をのぞき込まれてエルシーは体をこわばらせる。

 物資を運んできた男たちだ。


「遺跡っていうからお宝の一つくらいあるかと思ったのに、がらくたばかりだな。女だってろくなのがいなかったが……こいつはましなほうだぞ」


 村人を装って物資を届けたのは、調査隊の動向をうかがっていたのだろう。


「離して!」


 エルシーは力の限りもがく。気分を害した男に平手打ちされ、華奢な体が床に飛んだ。


「大人しくしてろ! 金目のものを探し終わったら可愛がってやるからな」


 エルシーは調査隊の仲間を案じた。ひどい目に遭っていないだろうか。


「おい、さっさと片付けるぞ」


 ウィルを殴り倒した男がナイフを取り出した。飛び出しナイフの刃がきらりと光る。


「片付けるって……まさか」


 尻もちをついたままエルシーは後ずさりした。立ち上がろうにも腰が抜けたのか動けない。それでも意識のないウィルの身を優先に考えた。


「やめて! その人に近づかないで!」


 ナイフを手にした男がウィルに近づいていく。


 ――お願い! 誰か彼を助けて!


 心の中でエルシーは叫んだ。

 ビキっと、低い音が神殿全体に響き渡った。


「なんの音だ?」


 盗賊たちが顔を見合わせる。

 コツン、ゴツン、と小さな破片が床に落ちた。きらきらと反射する欠片を見て、エルシーはハッとした。

 氷の塊を見上げると、縦に大きなひびが入っていたのだ。


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