47 揺らぐ心(1)
次の休日。エルシーは無断で街へ出かけた。謎の魔法使いの正体について手がかりがつかめず、イーサンたちは研究所の職員をしらみつぶしにあたっている。
――今日は魔法衣のことを優先しよう。
気持ちを切り替えて、外出の目的を果たそうと自分自身に言い聞かせた。
不良魔法使いを同伴せずにドリスの店に顔を出すと、美しい店主は意外そうに声をかけてきた。
「エルシーちゃん! 今日はどうしたの?」
「ハリソンさんはどうしてるのかなぁと思いまして」
ハリソンが採寸をしてくれたとはいえ、魔法衣を作ってくれると確約を得たわけではなかった。気になって仕立て屋の動向をうかがいにきたのだ。
「ふふ、仕事をしてるか見にきたのね? ちゃんと部屋に閉じこもって作業してるわ。あの人、これまでにないってくらい夢中で仕事してるのよ。食事だって普段の二倍は食べてるわ」
食事量がやる気につながっているかは微妙なところだが、エルシーは黙っておくことにした。
仕立て屋の部屋がある二階への階段を上る。階段の踊り場で立ち止まり、扉に向かって呼びかけた。
「ハリソンさん、エルシー・ハミルトンです。お邪魔でなければご挨拶をさせてください!」
前回まで固く閉じていた扉は簡単に開いた。
「お嬢ちゃんか。ちょうどいい、入ってくれ」
扉から出てきたのはハリソンだったが、以前とは見違えるほど活力にあふれていた。刺々しさはなく、子どものように目が澄んでいるのだ。
「とりあえず試作品を作ってみたんだ。お嬢ちゃんにも見てもらおうと思ってな」
通された部屋は、女性の針子が暮らしているのではと思わせる仕立て道具がそろっており、糸や生地が色や材質別に並べられていた。
「うわ……っ」
エルシーは職人の部屋というものに圧倒された。とくに注意を引いたのは、部屋の中央に置かれたトルソーである。すでに魔法衣らしい服が着せられていた。
イーサンが昔着ていた魔法衣のデザインを参考にしたらしい。生地の色合いも以前使ったものに近い色を使用している。
「仮の生地で作ってみたんだ。本物を取り寄せるには時間がかかるからな。本人に着てもらわないことには細部は調整できない」
「採寸してから数日しか経ってないのに……すごいです!」
エルシーは感動した。ハリソンの見事な技術と彼の職人魂に。目を輝かせるエルシーにハリソンもまんざらでもないようだ。
「文様は昔と同じものを使うつもりだが、一応イーサンのやつにも希望を聞いてみてくれるか?」
「はい。帰ったらすぐに聞いてみます!」
エルシーは、トルソーを見つめ完成品を思い描いた。それを身にまとったイーサンの姿も。うっとりとしている乙女の姿に、仕立て屋は上機嫌になった。
「歴史は繰り返すってのは、このことだな」
気をよくしたハリソンが饒舌になる。
「前にもそうやってあいつの魔法衣を眺めて喜んでいた子がいてな」
――子って、女の人ってこと?
「それは、イーサンが神の足跡山脈に行く前のことですか?」
ハリソンはようやく自分の失言に気づいたらしい――話す相手を間違えたと。
「いや、それは……昔のことだからなぁ」
笑って誤魔化そうとしたが、エルシーは簡単には引かなかった。
考えてみればイーサンの年齢なら恋人がいてもおかしくない。元々彼は自分のことを話したがらない。恋愛についてならなおさら無理だろう。
「その人は、ハリソンさんのお店にイーサンの魔法衣を見にきたことがあるんですね」
エルシーの問いに、ハリソンは頭を抱えることとなった。
「……あいつの代わりに魔法衣を取りにきたんだ」
彼のような魔法使いが、魔法衣の取り扱いを許す相手。よほど信頼している人物なのだろう。どうして、その可能性を考えなかったのだろう……エルシーは自分の不甲斐なさを呪いたくなった。
「その人のこと、わかる範囲で教えてください」
ハリソンはエルシーの頼みに、再度首をひねった。




