44 魔法院(2)
盗賊たちにエルシーの誘拐を唆した人物は、ウィルを敵として認識していた。彼を魔法使いと勘ちがいしているのだ。
だから、本来のイーサンの姿は知らない。
マッケンジーの条件とは逆だ。
「院長の言葉を信じるのかい?」
「神殿や龍のことをだまし通してきたんだから、鵜呑みにするつもりはない」
――信じるつもりはない、が……
必要なのは、納得できる判断材料だ。
「ベン、外に出ろ」
イーサンの言葉にマッケンジー、テオまでも目を丸くした。
「顔を貸せって言ってんだ」
そう言い放ったイーサンは、不良魔法使いと周囲を言わしめるほどふてぶてしい顔をしていた。
イーサン、テオ、マッケンジーの三人は魔法院の中庭までやってきた。 敷地内でも防御魔法の影響を受けない場所だからだ。
マッケンジーを魔法院の外に連れ出したイーサンは早速話の本題に入った。
「おまえが研究所に放火したかを確かめる。やましいことなければ魔法で火柱を作ってみろ。小さいので十分だ」
「火柱……なぜ?」
「おまえを試すためだ」
院長はイーサンの真意を測りかねていたが、やがげ呪文を唱えはじめた。
「炎の渦よ、すべてを飲み込め。風よ、炎に標を指し示せ」
マッケンジーのかざした手のひらから小さな火柱が生まれた。
その場に合わせた小さな火柱である。上級の魔法使いならばそういった微調整はお手のものだ。
イーサンは黙ってその様子を観察する。隣りでテオはほうっと溜息を漏らした。オレンジ色の炎に注視した後、イーサンは小さくうなずいた。
「ベン、帰っていいぞ」
不良魔法使いの一言で、マッケンジーの手のひらから火柱が消えた。
「私の無実が証明されたのか?」
「研究所への放火については、だ。俺の言っている意味はわかるよな?」
許しを得た以上、マッケンジーは長居する必要がなくなった。バツが悪そうに魔法院に戻っていく彼の後ろ姿はやけに小さく見えた。
「あの仕事は、ヤツじゃ無理だ。器がちがう」
隣りで何か言いたげなテオに理由を話した。
「研究所の放火について言っているのかい?」
イーサンは自分の体に戻ってから、人の気配や同業者の魔力に対して鋭敏になっている。研究所の火事の焼け跡に残っていた魔法使いの気配はマッケンジーのものとは異なっていた。念のため、本人が魔法を発動させているときの気配を確認してみたが、やはりちがう。
エルシーが目撃したローブ男は、マッケンジーの魔力をはるかに上回っていた。彼の言葉を借りれば、謎の人物との間にも実力の差がありすぎるのだ。
「それほどちがうものなのかい?」
「ああ」
上級魔法使いは、気配や魔法を使うときの癖で相手の度量を見極める。マッケンジーは犯人の魔力、技量に該当しない。
「院長の罪は、三十七年前の真相を隠蔽したことだけかな」
「野心を持つ魔法使いにとって、魔法院の頂点に立つこと自体が魅力だからな」
記憶を消されることを恐れてアンジェラはマッケンジーの暴挙を黙認した。
彼女の思い出のなかで自分は生き続けていた――イーサンはそれで納得するしかない。それが彼女の愛情の形ならば、非難することはできなかった。
「イーサン。僕たちは早急にローブを着た男の正体を突き止めなければならない」
「わかってる。エルシーの安全も保証してやらないとな」
イーサンの言葉にテオは笑った。
「君は女性に対して従順すぎるよ。その点では不良魔法使いという呼び名は相応しくないね」
イーサンはテオから目を逸らした。その頬が少しばかり赤くなっている。
「さあ、要件は済んだ。エルシーも研究所で待たせていることだし早く帰るとしよう」
「そうだな」
魔法院に行くと話した直後のエルシーの顔を思い出した。明らかに自分の身を案じてくれているのがわかった。研究所に帰ってことの経緯をエルシーに話してやろうと、イーサンはテオに続いて歩きだした。




