38 久しぶりの再会
部屋には、ソファーでくつろいでいるウィルの姿があった。目が合うと、彼の顔に笑みが広がっていく。
「エルシー、無事で良かった」
ウィルはソファーから立ち上がり、歩み寄るとエルシーの手をとった。
遺跡での調査をしていたときとほとんど変わらない。あのままの笑顔だった。
ひと月しか経っていないのに、無性に懐かしい。さまざまな感情があふれ出して、エルシーは胸がいっぱいになった。
自然と目頭が熱くなる。
「ウィルこそ、盗賊に襲われたときは本当に心配したのよ」
イーサンが彼の体に憑依していなければ、あのまま死んでいたかもしれない。やはり魔法使いをウィルの命の恩人であると認めるしかなかった。
しかし、エルシーはウィルの新たな発言にショックを受けた。
「そのことなんだけど、僕はほとんど覚えていないんだ」
「覚えていないって、神の足跡山脈でのこと全部?」
ウィルの説明では、遺跡で盗賊団に襲撃された日の朝までは記憶にあるらしい。
盗賊に殴られた衝撃で、直近の記憶を失くしたのかもしれない。
「それじゃ神殿で何が起きたのかも、わからない……わよね」
エルシーの質問に、ウィルは黙ってうなずいた。
神殿に封印されていた黄金龍、ともに眠っていた魔法使いの存在もウィルは忘れてしまったのだ。
「遺跡からシャルーフに戻ってきたことさえ覚えていないんだよ。どうやって戻ってきたのか君は知っているんだろう? 大体でいいから話してくれないか」
――イーサンが憑依している間のことも覚えてないのね。
この一ヶ月の出来事をかいつまんで話すなど不可能だ。何も知らないウィルに、どこまで打ち明けていいのかエルシーだけで判断できなかった。
「話すとかなり長い話になるの。色々あり過ぎて……どこから話せばいいかな」
エルシーは考えた末、神殿で龍とイーサンが封印されていたことだけ伏せて経過を説明した。
遺跡の調査中に盗賊団に襲われたこと、魔法院からの退去命令でやむなく王都シャルーフへ帰ってきたことなど。
「きっと盗賊に殴られたショックで記憶が混乱しているのよ」
「テオ所長もそんなことを言っていた。昨夜、僕が目を覚ましたときには魔法研究所が火事になっていて、君は黒髪の魔法使いに助け出されていた」
エルシーの心臓は跳ね上がる。気を失っていたのでピンとこないが、本当にイーサンが助けてくれたらしい。
「あの魔法使いはテオ所長の知り合いらしいね。君とも親しいのかい?」
「親しいってほどじゃないんだけど」
エルシーとイーサンの利害関係の共通項はウィル本人だというのに、当人はまったく自覚がない。
「僕は九死に一生を得たってことかな」
「そうよ。大切な命よ」
二人の命を救うためにエルシーは努力した。彼らが自分の肉体に戻れたのは本当に幸運なことなのだ。
ところが、その奇跡の意味をまったく理解していない人間が目の前にいた。
「ところでエルシー、僕がぼんやりしていたこの一ヶ月の間に仕事はどれくらい進んでいたんあろう」
「仕事って――」
エルシーはあきれて、ウィルの顔を見上げる。
彼が目を輝かせて聞きたがったのは、遺跡での発掘品に関する調査の進捗状況だった。
――自分の記憶が不確かだというのに、そんなに仕事が大事なの?
ウィルからの質問にがっかりして、エルシーはつないでいた彼の手を放してしまった。




