27 仕立て屋ハリソン(1)
次の週末、エルシーはイーサンの魔法衣を作ったかもしれない仕立て屋を探しに街へ出かけた。
魔法衣の新調を急ぐには理由がある。イーサンの回復が目覚ましく、このまま順調に覚醒したら――と気になりはじめたのだ。
手がかりは、魔法衣専門店『魔法の衣』で働く若手職人ダニーから教えてもらった情報である。
「ハリソン魔法衣専門店っていうのは、僕の大叔父にあたる人――ハリーおじさんのお店です」
ダニーが言うには、三十七年前に龍退治に派遣された魔法使いの多くが、大叔父の店で魔法衣をあつらえたという。
――まちがいない。イーサンの魔法衣もその時に作ったんだわ。
しかし、喜んでばかりはいられなかった。ダニーは別の情報もエルシーに教えてくれたのだ。
「昔、自分が魔法衣を仕立てた魔法使いたちが、龍退治の犠牲になったのがショックだったようです。自分の魔法衣が、彼らの死装束になったと……それが原因で、ハリーおじさんは店を畳んだと聞いています」
その言葉にエルシーは肩を落とした。だが、簡単に諦めないのがエルシーだ。
現在のハリソン氏の住所を教えてもらい、直接交渉に出向くことにした。
「もし道がわからなくなったら誰かに聞いたほうが早いですよ。ドリスの店と言えば道案内くらいしてくれますから」
ハリソンの住まいは、魔法衣専門店がある地区からだいぶ離れた街アテ・ランのものだった。
ダニーが言ったとおり、通りがかりの人間に尋ねただけで丁寧に店の近くまで案内してくれた。
ドリスの店というのは、外観だけならカフェという印象が強い。店の外にまで焼き立てパンの香ばしさが漂ってくる。
――ここに魔法衣の職人さんがいるの?
扉を開けるとカラン、コロンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
カウンターから黒髪で褐色の肌の美女が出迎えてくれた。年は三十半ばか、四十を越えているかもしれない。
「初めて見えられたお客さまね。この店の店長のドリスです。わが憩いの場へようこそ!」
店内には先客が三人いて一つのテーブルを囲んでいた。
「あの、魔法衣を作っていたハリソンさんをご存知でしょうか? ここに来れば会えるかもしれないと聞いたんですけど……」
エルシーの言葉に、女性は「あらっ」と声を上げた。
「ハリソンのお客さん? それにしては若いわね」
美女はエルシーをじっくり観察する。
「会えなくもないけど、魔法衣を作ってもらうつもりなら期待しないほうがいいわ。注文にきた昔馴染みのお客でも片っ端から断ってるから」
やはり仕立て屋そのものを廃業しているようだ。
「それでも、お会いしたいんです。お願いします」
魔法衣が入っている手提げ袋を抱えて、エルシーは美女に頭を下げた。
「ハリソン、起きてるぅ? あんたに会いたいってお客が着てるわよ! しかも女の人よ、お・ん・な!」
エルシーが頭を上げる前に、美女は大声でハリソンを呼ぶ。どうやら相手は二階にいるらしい。
ズシッと天井から震動が伝わってきた。揺れが一定間隔なのは、人の歩調と関係しているとわかった。
つまり、探し当てたハリソンの姿が視界に入った瞬間である。




