表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
2/71

2 エルシーの夢と遺跡の調査

 エルシーは、森の中で人を探していた。霧が濃くなり、視界も悪くなる一方だ。


『イーサン!』


 イーサン。

 何度この名前を叫んだことだろう。エルシーは何かに急き立てられるようにイーサンという人物を探し求めていた。

 しかし、どれほど広大な森を歩きまわり、相手の名前を呼んでもイーサンはいない。

 歩いても、歩いても。

 しまいには、自分自身が迷子になってしまった。方向感覚を失って力尽きる寸前、視界を覆っていた霧が晴れていく。

 姿を現したのは、荒れ果てた多くの建物だった。最も目を引いたのは異国の神殿を連想させる巨大な建造物だ。

 屋根を支えている白い円柱の一本でさえ、その大きさでエルシーを圧倒する。

 エルシーはその建物に見覚えがあった。


 ――この場所は……


「この場所は……!」


 疑問を声に乗せた瞬間、エルシー・ハミルトンは目を覚ました。正確には、自分の寝言で起きたのだ。

 地面に横たわっていた体を起こす。厚手の毛布の上に寝ていても寝心地がいいとは言えない。

 夢から覚めるとひどい倦怠感けんたいかんに襲われた。エルシーには夢見が悪いという言葉で片付けられない理由があった。


「どうして同じ夢なんだろう」


 エルシーはボサボサになった白金色の髪を掻き上げながらつぶやいた。

 最近、同じ夢を繰り返し見ている。夢の中でイーサンという人物を探し続けているのだ。


 ――そもそも、イーサンって誰?


 エルシーは、夢のなかで必死に探しているイーサンという人物に心当たりがなかった。

 名前からして男性だろう。だが、親類縁者にイーサンという男性はいない。その名前に注意を向けるようになったのも、夢を見はじめた半月前からだ。


「ここに来てからなのよね」


 完全に目が覚めたエルシーは、枕元の丸眼鏡まるめがねをかけて寝床から抜け出した。

 手早く着替えを済ませると、テントの入口に張られた布を持ち上げる。外は日が昇りはじめたところだった。

 シャルブルーム王国から遠く北に位置する神の足跡あしあと山脈は、複数の国境をまたぎ雄大にそびえ立っている。

 シャルブルームのおとぎ話には、神の足跡山脈を舞台にした龍の物語まである。その山間部に遺跡が発見されたのは今から五十年以上前のことだ。街一つ分に相当する遺跡は、誰がなんのために築いたのか不明である。

 エルシーは、謎を解くために派遣された調査隊の一員なのだ。

 地理的状況を考えても、建材を運ぶ作業でさえ難航したはずだ。人々が都市を作ったのならば、必ず理由がある。

 エルシーは、神か龍を祀るためだと仮説を立てていた。

 神か龍。

 二者択一と考えたのは、前者は遺跡の最奥に神殿らしき建物があること、後者は遺跡に一頭の龍が飛来し、活動拠点にしていた事実があったからだ。

 三十七年前。一頭の龍がシャルブルーム王国の北部に突如現れ、遺跡を含め山脈付近の町村は甚大な被害を被った。

 国の優れた魔法使いや騎士たちで殲滅部隊が結成され、暴走する龍を退治することに成功した。以来、遺跡は立ち入り禁止区域に指定されていたのだ。

 ひと月前までは。

 現国王は、以前から遺跡に深い興味を示し、総力を上げて謎を解明するように国の調査機関に通達した。遺跡への立ち入りも、申請さえすれば許可を出すと太鼓判を押したのだ。


「エルシー、おはよう」


 別のテントから出てきた同僚のウィルことウィリアム・クロイドンが声をかけてきた。ウィルは背の高い優男やさおとこで、今朝は栗色の髪に寝ぐせがついたままだ。彼の顔を見ただけで、エルシーの気分は高揚した。


「おはよう、ウィル!」

「昨日見つけた古代魔法文字、解読できたかい?」


 エルシーの会心の笑みは、彼の研究対象よりも注意を引けなかった。


「半分くらいはわかったけど、あの建物についての注意事項みたい」


 肩を落としながらエルシーが答えたことを、ウィルはまったく気づいていない。


「やはり、あの神殿と関係しているんだな」


 二人はテントが設営されている地点から、調査対象である遺跡に目を凝らす。

 視線の先には調査隊が「神殿」と呼ぶ建造物があり、それはエルシーが夢で見た建物そのものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 興味深い始まりで、ファンタジー要素溢れる設定に胸が高鳴ります。 龍が存在するなんて、ロマンに満ちた物語だと思います。 [一言] 東野さんの三人称は安定していて、私も慣れない三人称に挑戦しよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ