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不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
19/71

19 不良魔法使いブチ切れる(1)

 大きな足音が近づき、再び扉が開くと、盗賊の親玉とは別の男が現れた。大柄で重量感はあるが、胴体に対して足が短いのでバランスが悪い。


「お嬢ちゃん、お迎えが来たぜ」


 男がエルシーの襟首えりくびを乱暴につかみ立ち上がらせた。促されるままに部屋から出る。


 ――あれ、ルーカスは?


 部屋を出た直後、ルーカスの姿が見えなくなっていた。うまく逃げたのかもしれない。

誘導され、石畳の階段を上がれば酒場のカウンター裏に出た。


「釣り餌の本領を発揮してくれよ」


 店内には、人相のよくない男たちが待ちかまえていた。首領以外にも盗賊の生き残りがいたらしい。エルシーはカウンター席に座らされた。ちょうど店の表口が見える位置だ。

 程なくして、扉が開いた。

 ウィルが、大きなかばんを抱えて店に入ってくる。

 当然中身はイーサンなのだが、盗賊たちにとってはどうでもいいことなのだろう。自分たちに損害を与えた張本人に仕返しができればいいのだ。


「よぉ、兄ちゃん。神殿ではずいぶん世話になったな。約束の金、ちゃんと持ってきたか?」

「当然だ。エルシーは無事みたいだな」


 入口から視線を寄こしたイーサンと目が合った。

 魔法使いが短く、深くうなずく。もう大丈夫だと言われた気がした。


「さあ、約束の金をいただこうか。金貨二千枚だ!」

「に、せん?」


 金銭を要求したことはわかっていたが、初めて金額を聞いたエルシーは呆然とした。

 すぐに支払える金額ではない。金貨……いや、銀貨だってかき集めるのに時間が足りない。

 実家と絶縁状態にあるエルシーは公爵家を頼ることはできないし、テオにしても魔法研究所経由でそんな大金を借り出せるわけがなかった。

 身代金は支払えない。支払えるわけがないと悟ったエルシーは背筋が凍りついた。二人は初めから金を払うつもりがない。


 ――イーサンも、テオも、絶対に何か企んでる!


「また妙な魔法を使ったら、お嬢ちゃんはただじゃ済まないぞ」

「わかってる。さっさと用を済ませちまおうぜ」


 遠目から見ても、イーサンが不機嫌そうなのがわかった。

 身体検査を受けた後、イーサンは手に提げた革張りのかばんを床に置く。


「約束の金が中に入っている。だが、全部じゃない。数が数なだけに店の前に袋がもう一つあるから誰か取りに行かせろ」


 首領が手下に目配せすると、一人が表口へ向かった。


「中身を確かめろ」


 こめかみに傷のある男が手下たちに合図する。

 残った者たちがかばんの中身を確認しはじめた。


「すげぇ!」


 かばんを開けた盗賊たちは歓喜の声をあげた。


「ほ、本物の金貨ですかね、親分?」


 一人が金貨をかばんから取り出して、小型ナイフで表面を削った。


「本物だ! 本物の金貨だぞ!」


 興奮を抑えきれない声に、盗賊たちの注意がかばんへ向けられた。


「気を抜くな! 喜ぶのはこいつらを始末してからだ」


 首領は怒鳴ったが、まともに聞いている者はいなかった。


「わああぁぁっ」


 外からの悲鳴に、金貨のかばんを取り囲んでいた盗賊たちがようやく顔をあげた。


「誰か止めてくれぇっ」


 表口から勢いよく飛び込んできたのは、首領の指示で残りの金貨を取りに行った男だった。店内に入ってくるや男は、仲間たちを殴り倒していく。


「ブライ! 何やってんだ!」

「助けてくれぇ! 体が勝手に……言うことを聞かねえんだ!」


 盗賊たちは暴れる男を止めようと飛びかかり、仲間同士の大格闘がはじまった。

 エルシーは、暴れているブライと呼ばれた男の背中を見て「あっ」と声をあげた。大柄な背中にはふだのようなものが一枚貼りつけてある。


 ――傀儡くぐつの魔法!


 おそらく札には魔法文字が書かれている。直接魔法をかけなくても、魔力を込めた札を使えば遠隔的に人を動かすことが可能な技だ。


「くそっ、また変な魔法を使いやがったな!」

「手段を選ばないやつらには、それなりの魔法で対抗するのが俺の流儀だ!」


 イーサンが盗賊たちに向かって手をかざす。


 ――エルシー、床に伏せて!


 頭の中で声が響いた。疑問に思うよりも早く、エルシーは言われるまま床に伏せて丸くなった。


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