18 機会を狙って
王都シャルーフでもベルフォルル地区は治安の悪いことで有名だ。国外からの不法移民や指名手配犯が身を隠すのに都合のいい場所でもある。軒が大きく作られている建物が多く、その陰が犯罪の温床になっていた。騎士隊でも単独で巡回することを禁じている地域に指定されているほどだ。
盗賊たちが身代金の受け渡しに指定した『悪魔の小瓶』は、その界隈では有名な酒場だった。店の表口からは客の出入りがほとんど見られない。裏の通りへ回る者が多かった。これでは、店の者か客なのか区別もつかない。
「いかにも罠が張ってありますってカンジだな」
「だから言っただろう? ここは無法地帯なんだよ」
イーサンとテオが店を見張りはじめたのは、エルシーの身代金の要求があってからわずか一時間後のことだった。
「イーサン、やはり騎士隊に同行してもらわないか?」
「後から来ることになってんだろ? 手配を整えてからなんて悠長なことをやってたら、また逃がしちまう。それに……」
盗賊たちを遺跡で逃さなければ、こんな煩わしい思いはせずに済んだだろうに。
エルシーに危険が及ぶことはなかっただろう。
――あいつ、大丈夫だろうか。
身代金が手に入るまで、エルシーは敵側の保険だ。まだ危害は加えられないはずだが、あの娘の気の強さが仇になりはしないかと気が気じゃない。
「エルシーのことが心配なのはわかる。だが、急いては事を仕損じる。イーサン、冷静になってくれ」
「べっ、別に心配なんかするか! あの盗賊に、俺を敵に回したことを後悔させてやりたいだけだ」
テオに図星をつかれて、早口で言い返す。
イーサンは腹立たしかった。エルシーを人質にとった執念深い盗賊の残党に怒りを覚えた。あっけなく盗賊に囚われてしまったエルシーにも。
だが、最も許せないのは、彼女を放り出して逃避した自分自身だ。
そう、逃げた――自分に協力してくれるエルシーを残して。
現実と向き合い、先のことを考える勇気が足りなかった。
テオはイーサンの言い分をどう理解したのか、肩をすくめて小さく息を吐いた。
「本当に一人でやる気なのかい?」
イーサンは、テオの言葉にうなずいた。
「相手が売ってくれたけんかだぞ。買わないでどうする」
売られたけんかは喜んで買う――それが不良魔法使いのモットーだ。
「久しぶりの不良魔法使い節だね」
すべて承知しているようなテオの言葉だった。本来誘拐事件ともなれば、騎士隊への報告が第一とされるはずなのに、彼はイーサンが動きやすいように手配してくれた。
「ひと思いに店ごと吹っ飛ばしてやりたいもんだ」
テオはやれやれと頭を振る。次いで、二人は足元にある革張りのかばんに目を落とした。




