15 仕立て屋を探して
「魔法衣の仕立て屋さんも不景気なのね」
最初に入った魔法衣の仕立屋から出てきたエルシーはがっくり肩を落とした。
二年前、五軒あった魔法衣の仕立て屋のうち二軒は店を畳んでいることがわかった。
「一着作るのに手間がかかるからな。いつも注文があるわけじゃないから、普通の仕立て屋のほうがもうかるんじゃないか?」
一軒目の店は看板は残っていても、店を継いだ若者から魔法衣を作ったこともないと言われてしまった。
「ここ数年、魔法衣の注文はほとんどないそうよ。先代の店長さんが引退したときに雇っていた職人さんたちも店から離れていったんですって」
「だから、魔法衣なんて用意しなくても……」
イーサンのぼやきに、エルシーは唇をかんだ。魔法衣一着を仕立てようと思ったとたん、大きな壁が立ちはだかった。
「青月草の布? そんな年代物はうちの店には置いてないよ」
そう言ったのは二軒目に入った仕立て屋だ。店主は五十手前の太った男で、魔法衣を作れる現役の仕立て職人だった。くたびれたイーサンの魔法衣を見た店主は顔をほころばせた。
「こりゃ、ハリソンさんの仕事だね」
「わかるんですか!」
「一応専門家だ。誰の仕事か区別もつかないようじゃ、この仕事は続けていけないよ」
店主は得意げに胸を張ったつもりだろうが、はたからは太鼓腹を突き出しているようにしか見えなかった。
「これと同じものは無理だな。材料もそろわないし、時間がかかっちまう」
他の注文も抱えているからとあっけなく断られてしまった。
「残るのは……『魔法の衣』ってところね」
次の店に移動しながらエルシーが告げると、イーサンは立ち止まり踵を返した。すたすたと歩いてきた道を戻り始めた魔法使いをエルシーは慌てて引き止める。
「待って、イーサン! 最後のお店なんだから、聞くだけでも聞いてみましょうよ」
「いや……そことは相性が悪いんだ」
「じゃあ、前にも行ったことがあるのね?」
歩く速度を緩めたイーサンは、答えに迷っているようだった。
「もう勘弁してくれ!」
それだけ言うと、エルシーに背を向けて人混みの中に消えてしまったのだ。追いかけても、雑踏にイーサンの姿は見当たらず、エルシーは完全に置き去りにされてしまった。
――イーサン、どうしちゃったの?
少しは励ませるかと思ったのに、結果は逆効果だった。彼の気に障ることを言ってしまったのだろうか……エルシーはため息をついて、自分の足元に視線を落とした。
「え?」
そこには、見覚えのある金茶の尻尾がエルシーのすねをなでている。神の足跡山脈ですっかり懐いてしまった猫のルーカスだ。
「ルーカス?」
ミャオォン
目を細めた猫は、甘えるようにエルシーの足に擦り寄った。
エルシーは驚いた。なぜルーカスが王都にいるのだろう。調査隊の荷物に紛れて馬車に乗り込んでいたのだろうか。いまさら追い返すわけにはいかない。ルーカスとの再会に喜んでいる自分自身がいるのだから。
「私のことを慰めてくれるの?」
ミャーという鳴き声が返事に聞こえた。
――せっかく来たんだから、『魔法の衣』にも行こう。
イーサンの魔法衣を抱え直したエルシーは、一歩前に踏み出した。その歩調に合わせルーカスはトテトテと歩く。その様子が可愛らしくて、エルシーは思わず笑みを浮かべた。
自分の背後に忍び寄る影に気づくことなく――。




