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不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
14/71

14 休日

 週末に外出許可が下りたエルシーは、久々にシャルーフの街を歩いていた。

 白衣でも実験用のつなぎでもない私服。丈の長いワンピースに、遺跡調査の前に買っておいたブーツ。服装だけでも休日気分を満喫できる。

 他の研究員も、自宅で過ごしたり、買い物へ街に繰り出したりする者がいるだろう。

 エルシーも、ある目的を持って研究所の宿舎を出発した。


「ほら、イーサン!」


 並んで歩いていたはずなのに、エルシーが気づくとイーサンはかなり後ろのほうで立ち止まっていた。

朝から彼の口数が少ない。魔法院の院長がやってきた時も覇気はきがなかった。

 テオ、エルシー、そしてイーサン。三人で話し合いが終わってから、イーサンは所長の執務室兼研究室で話し込んでいたが、どんな言葉が交わされたのかエルシーにはわからない。

 出会った時から軽口をたたき、魔法を炸裂させていたイーサンがやけにおとなしくては調子が狂う。


「イーサン、体の調子でも悪いの?」

「いや、特に問題ない」


 声をかければハッとわれに返って、イーサンは同じ答えを繰り返すばかりだ。


 ――うそ。絶対に何かあったんだわ。


 数日間一緒に過ごしてわかったのは、イーサンは自信家で何事も態度に出やすい。今は心ここにあらず、という印象だ。


 マッケンジーが帰った後に、テオは面会の内容を話してくれた。


「彼にしては歯切れが悪かったね。退去命令は、あくまで調査隊の安全を考慮したと言っていたが」


 遺跡での発見も含めて、調査隊が現地で何を見聞きしたのか気にしていたらしい。特に神殿への立ち入りの有無を確認したがったという。


「イーサンの言うとおり、神殿に封印されていたものを把握しているようだね」


 だが、調査隊に探りを入れてきたということは、エルシーが見聞きしたことは知られていない。

 イーサンがウィルの体に憑依していること、彼と黄金龍が覚醒したことはまだ伏せておける。


 テオからの報告に、エルシーは気持ちを切り替えた。

 次に何をすべきか考えを巡らせて、外出目的を決めたのである。


「ねえ、イーサン。あなたの魔法衣まほういはどこであつらえたの?」

「魔法衣?」


 突然、魔法衣の話題を持ち出されて、イーサンはきょとんとした。


「あなたが着ていたこの魔法衣、すごく珍しい布を使ってるわよね」


 エルシーが持っていた大きな手提げ袋には、イーサンが発見されたときに着ていた魔法衣が詰め込んであった。

 彼の魔法衣に使われた生地は、五年に一度しか花をつけない青月草から作った染料で布を染め上げられていた。紫紺の色合いも美しく、魔力を高める素材としても知られており、かつては魔法衣や魔法具を包む布として使われていた。

 ところが、それに取って代わる染料が生産されるようになると、需要が一気に激減して市場には出回らない希少きしょうな代物になってしまった。


「ハリソン魔法衣専門店で作った」


 ハリソン魔法衣専門店――初めて聞く店の名前だった。

 魔法使いたちが好んで身にまとう魔法衣。興味を持ったエルシーは、研究所で働く前に魔法衣の縫製や仕立て屋についても調べたことがある。

 エルシーが作った店のリストに、ハリソン魔法衣専門店の名前はなかった。


「仕立て屋のおっさんもいい年になってるし、店じまいしてるか……くたばってるか」


 イーサンは冗談のつもりらしいが、エルシーは笑えなかった。たしかに三十七年も経っていれば廃業している可能性は高い。

 当時三十代の人物でも、今は六十を過ぎているはずだ。イーサンの言うとおり本当に亡くなっているかもしれない。


「どうして魔法衣の仕立て屋なんて気にするんだ?」

「魔法衣を新調するなら、あなたが信頼できるお店がいいと思って……」


 エルシーの答えに、イーサンが苦笑した。


「今のところ俺は死人なんだぞ。いつ元の体に戻れるかわからない。この状態で魔法使いとして復帰なんて考えられるか」


 自分が国で一番の魔法使いと名乗ったイーサンの言葉とは思えなかった。元の肉体に戻れるかどうか――不安があるのは当然だが。


 ――そうよね……あくまでウィルの体なんだから。


 数日間でウィルの体に向かって「イーサン」と呼びかけることに抵抗がなくなっていた。早くウィルの体から出て行って欲しいと願っていたのに。

 それでも、エルシーは気づいたことがたくさんある。


「あなたは大切な時間を犠牲にしてしまったのに……無神経なことを言ってごめんなさい。でも、私はイーサンに魔法使いを続けてほしい」


 うつむきがちだったイーサンが、エルシーの顔を見つめた。怒っているような、おびえているような不思議な表情をしている。


「もし龍が封印されていなかったら、私や私の大切な人たちの生活はなかったかもしれない。なかなか思うようにいかないけど、今はそれでも平和な世界だわ。私は、イーサンのおかげだと思う」

 イーサンは黙ってエルシーの話に耳を傾けている。


「イーサンが神殿で目覚めなかったら、私や調査隊のみんなは今こうして生きていられなかったからお礼もしたいの。それにイーサンが元に戻れるように協力するって約束したでしょう?」


 厳密に言えば、「元の体に戻れるまで」だが結局は同じことだとエルシーは都合よく解釈した。


「魔法使いを続けるかどうかは、もちろんイーサンが決めることよ。でも、準備をしておくくらいはいいでしょう?」


 イーサンは無言のままエルシーを見つめる。エルシーは、沈黙の重圧に負けないようにイーサンから目を逸らさなかった。

 やがて、諦めたようにため息をついたのはイーサンのほうだった。


「……おまえ、本当に変なやつだな」

「前向きなだけよ。簡単に諦めたくないの」


 学校の同級生に陰口をたたかれ、親からは働くことを反対された挙句あげく勘当かんどうされてしまった。前向きにならなければ生活が寂しくなるだけだ。


「じゃあ、魔法衣の仕立て屋さんに行ってみましょう!」


 エルシーが歩き出すと、イーサンは渋々彼女の後に続いた。


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