10 秘密会議(1)
「それじゃ、イーサンとテオは昔からの知り合いなのね?」
「そのとおり。当時はずいぶんいじめられたものだよ」
研究室の椅子に座ったテオが盛大なため息をついた。当時テオが十代だとしても、イーサンと年齢が近いので馬が合ったのだろう。
「人聞きの悪いことを言うな。ボヤが大きくなる前に魔法で消し止めてやっただろ?」
簡易ベッドの端に腰を下ろしたイーサンが反論すれば、テオはぐっと口をつぐんだ。
エルシーは意外だった。イーサンとテオは性格的に合わないものと思っていた。
イーサンは、テオの魔法具の研究に興味を持ち、彼の研究室によく出入りしていたらしい。
「もっとも、本当の目的は私の研究じゃなかったんだろうがね」
「え?」
テオの意味ありげな笑みに、イーサンは目を逸らした。どういう意味かエルシーが尋ねる前にテオたちは巧みに話題を変えた。
「それで、君が自分の体に戻るために手伝ってほしいと、そういうことかな?」
「察しがいいな、でこ眼鏡! 治癒と回復に関する呪文集を試す」
イーサンは、体力を回復するための魔力を体に注いでいく必要があるという。しかも、一日に試せる呪文は二、三種類が限界らしい。
「本来魔法を使えないウィルの体には負荷がかかり過ぎる。一日に使える呪文の限度は決めておいたほうがいい」
エルシーは、魔法使いの言葉に同意した。魔法を使えば使うほどウィルの体力が消耗されるので、やはり無理はできない。イーサンに早くウィルの体から出て行って欲しくても時間がかかりそうだ。
「不良のくせに優しいところは相変わらずだな」
――優しい?
エルシーは首をかしげた。頭の中では、イーサンの言動と「優しい」が素直に結びつかない。
「うるさい! 文句があるならおまえの研究室を燃やすぞ」
仏頂面のイーサンの脅しにテオは顔を青くした。
「上にどう報告したものかなぁ」
テオは頭を額に手を当てながら宙を仰いだ。
「上って、魔法院のことですか?」
エルシーの問いにテオは無言で頷く。魔法院の許可をもらって遺跡の発掘に出向いたのだから、報告も必要だ。
「報告なんて必要ない。魔法院は、最初から龍が生きていたことを知っていたはずだ」
「「えっ、どうして?」」
エルシーとテオの質問が重なった。
「理由もなく遺跡を封鎖する必要はない。何かの弾みで龍が目を覚ますことを恐れてたんだろう」
龍の生存を隠蔽してきたものの国王の命令には背けず、制限を設けて封鎖解除に踏み切ったのだろう――とイーサンは自分の推測を語った。
「龍の殲滅計画には多くの犠牲が出た。援護役の騎士たちには死者が出たし、多くの魔法使いが負傷した。張り合うことが土台無理な相手なんだからな」
テオの額にしわが浮かんだ。
「それじゃ、どうしたらいいんだ?」
「素直に言えばいい。眠っていた龍が起きちまったって」
――それでは身もふたもないでしょう?
あきれ返るエルシーをよそに、イーサンは腕組みして考え込んでいる。
「でこ眼鏡。今の魔法院の実権は誰が握ってるんだ?」
「マッケンジーだよ。君もよく知ってるはずだ」
そう言われてもイーサンはピンとこないようだ。何度も「マッケンジー?」と繰り返した末、「ああ!」と自分の膝をたたいた。
「あいつが、魔法院のトップだと!?」
魔法院の院長ベンジャミン・マッケンジーと言えば、魔法使いをはじめ魔法に関連する仕事に就いている人間に知らないものはいない。エルシーには雲の上の存在だった。
――この人、現役の魔法院院長とまで知り合いなの?
エルシーは、あぜんとするイーサンの横顔を盗み見た。
「何がどうまちがってあいつが魔法院の院長に?」
「彼は三十七年前に龍を退治した魔法使いの生き残りだったからさ。生存者の多くは魔法使いを廃業してしまったんでね。彼は英雄扱いされた。あのとき犠牲になった魔法使いや騎士たちの名前は、ユイエルタ公園の慰霊碑に刻まれている――君も含めてね」
それを聞いてイーサンは苦笑した。
――そうか……イーサンは三十七年前に死んだことになってるんだ。
今は存在しない人間。
エルシーはようやく、彼が死者として社会から葬られていることを意識した。




