表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良魔法使いは更正中  作者: 灯野あかり
第一章 三十七年後の覚醒
1/71

1 はじまり

 ――まだ早い。


 突進してくる巨大なものから目を逸らさず、青年はその瞬間を待った。


 ギュオオオン!


 叫びながら生物が距離を詰めてくる。大きな震動で神殿の壁の一部が崩れはじめていた。

 大穴のあいた天井から日が差し込む。太陽の光にさらされたのは、一頭の龍だった。

 全身を覆う黄金の鱗が日光を反射し、形容しがたい輝きをたたえていた。

 龍は翼を広げて青年を威嚇いかくする。一度羽ばたいただけで風が吹き荒れた。

 青年の着ている魔法衣まほういの裾が強風に煽られる。紫紺しこんの魔法衣に施された文様は、魔法使いによって異なるものだった。それらは古代の魔法文字の形状からヒントを得ていたが、彼の服は破れている箇所も多く、すでに判読できない状態だった。

 建物全体に再び龍の咆哮ほうこうが響き渡り、衝撃が走る。


「ぐ……っ」


 青年は歯を食いしばって耐える。体力の限界が迫っており、立っているのがやっとだった。


 ――チャンスは一度きりだ……


 満身創痍まんしんそういの彼を支えているのは、己に課した使命だけだ。

 目の前に立ちはだかる龍をなんとかしなければならない。

 倒すことができなくても……せめて被害を最小限に食い止めなければ。それが魔法使いである自分の役目だと信じて疑わなかった。


「イーサン!」


 自分を呼ぶ声に青年は振り返った。崩れた壁の向こうに一人の女性が立っていた。


「イーサンやめて! 無理よ、戻ってきて!」

「アンジェラ! 来るな!」


 駆け出そうとした女性を青年は一喝した。


「おまえがいたら技に集中できなくなる。ケガ人の救護に当たれ!」

「でも」


 彼女の双眸そうぼうから涙があふれている。荒れ狂う風に長い金髪が乱れていた。その光景がきれいだと青年は――イーサンは思った。これが今生こんじょうの別れだとしても。

 彼は、覚悟を決めた。


「アンジェラ……俺の分まで生きろ」


 生きていれば、希望はある。

 生きてさえいれば――。


「イーサン・ブレイク最期の賭けだ!」


 迫りくる黄金龍が大きな口を開けた。両者の距離が最も短くなった瞬間に、魔法使いは掌をかざして叫んだ。


「水よ、唸れ! 光のひつぎで永遠に眠れ!」


 次の瞬間、光が辺りを覆いつくした。


 ギャオオオォォン


「イーサン……いやあぁぁっ!」


 龍の悲鳴と神殿が崩壊する音に、アンジェラの叫びはかき消されてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ