高級ホテル殺人事件 第1章7節
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レストランに着くと、オリビア達はリアムとばったり会う。
「やあ、さっきぶりだね。そちらの2人は初めましてだね。リアム・アルベールと申します。少しご友人のワトソンさんとマルタンさんに調査の協力をしてもらっています」
「エマ・シモンと申します。よろしくお願いします」
「アリス・デュボアと申します。よろしくお願いします。アルベールさん、私達のことはファーストネームで呼んでいただけないかしら?私、あまりファミリーネームで呼ばれるの好きじゃなくて」
「そうなんだね。分かった、私のこともリアムと呼んでくれ」
リアムがそう言うと、アリスはオリビアに向けて、こっそりウィンクをした。
「…!」
「オリビア、どうした?顔が赤いみたいだが、熱があるのかい?」
「いや、そんなことないです。ご飯が楽しみで!」
オリビアは初めての名前呼びに動揺して、思わず言ってしまった言葉にさらに恥ずかしくなる。
友人達もくすくすと笑っている。
「シュークリームの夢みるくらいだもんな。今日のデザートがシュークリームなことを願わなきゃね、オリビア」
「クロエ!」
クロエの冗談にオリビアは顔を赤らめながら睨む。
「あらやだ、この子良い歳してそんな夢みてるの?」
「アリス、夢の内容は自由だよ。オリビア、私は夢があって良いと思うな」
「エマ、全然フォローになってないよ…」
項垂れるオリビア。ちらりとリアムの方を見ると、子供を見るような優しい目をしていた。
恥ずかしさを隠すため、オリビアは早足で席に向かった。
食事が始まり、オリビア達は話に花を咲かせる。今回の話題はリアムの話で持ちきりだった。
「彼、容姿も性格も良さそうじゃない。オリビアの初恋の人、碌でもない人だったらどうしようかと思ったけれど安心したわ」
アリスはどこか満足気に答える。
「しかも、身なりもきちんとしているし、良いところの出じゃないかしら?アルベールってもしかして、オリビアの就職先の会社が絡んでるかもね」
エマの言葉にはっとする。確か原作でリアムはアルベール社の御曹司という設定だった。
オリビアが就職する予定の企業はまさにその企業だった。
「良い人見つけたじゃない。親友として誇らしいよ、オリビア」
「もうみんなそんなんじゃないから…リアムさんにも失礼でしょう」
そう告げると今度はアリスがリアムさんだって、と揶揄う。
原作では恋人の存在は描かれていなかった。勿論、探偵助手という存在も。
(もしかしたら、今後リアムさんと関係を続けたら、物語は書き換えられてしまうのかしら)
そう思いながら、オリビアは友人達の会話に黙って聞くことにしたのだった。
夕食を終え、アリスとエマ、クロエは先に戻った。
あろうことかクロエはリアムにオリビアのことをよろしくお願いします、と言って、他の友人と帰ってしまった。
そして人気のないレストランで紅茶を飲みながら、2人きりで情報共有をすることになったのだ。
「そうか…2人の証言はわかった。一応、これで全員に話を聞けたな」
「何か怪しい人物とか手がかりは見つかりましたか?」
「そうだな…いまいち決め手に欠けるな。現場にはもともと何も証拠がなくてな。単独犯の可能性が高いとしか言えない。あと気になるとしたら支配人は何も持っていなかったんだ。未だ財布や通帳以外の携帯品は見つかっていないことから金銭的な目的ではないと思う。携帯電話や鍵は、おそらく犯人が盗んだと思う。荷物検査でもするべきか考えているよ」
「先ほど言っていたミアさんはどうでしょう?」
「今のところ彼女の可能性は高いな。痴情の縺れもあるかもしれない」
「携帯電話や鍵を盗んだとしたら、それは何故でしょうか」
「携帯電話に関しては見られたくないものがあるからだろう。支配人と副支配人はマスターキーを持っていて、それ以外の人は持っていないからな。監視カメラのデータの破損などで部屋に入るのに必要だったのだろう」
「今のところ、リアムさんが怪しんでいるのは?」
「先程話したミアさん、それと…」
リアムは口を紡ぐ。その意図はオリビアにも通じた。
「私達4人ですね。バーを利用していなかった唯一の客ですし」
「ああ、すまない。でもあくまで可能性の話だ。ミアさん含め動機も見つからないので確証がない」
「構いませんよ。ミアさんはちなみに事件に関して何て話しているんですか?」
「午前0時前まで2時間ほど仮眠をして、他の従業員が戻ってきたので、午前2時前までは屋内の清掃をして、午前5時までは屋外の清掃をしていたみたいだ。それからはキッチンで仕込みの手伝いをしていたらしい」
「見事に犯行時刻にアリバイがないんですね」
リアムは聞き込みをした時のミアを思い出す。支配人のことを聞いた時、彼女は顔を強張らせた。ロイと同じ、何かを隠していることを感じた。
「とりあえず、もうすぐ22時だ。聞き込みは今日は終わりにして、情報を整理するよ。君もそろそろ休んだほうがいい。部屋まで送るよ」
「はい、ありがとうございます」
オリビアはアリスの部屋まで送ってもらい、クロエと落ち合った。そして、アリスとエマにおやすみと挨拶をして、部屋に着いた。
シャワーを浴びて、ベットに身を沈める。
ほっとしたからか、オリビアは緊張していたからか自分の身体が鉛のように重く感じた。
クロエの方を見ると、彼女は既に眠っていた。
(記憶も戻ったからきっとびっくりしたんだわ。明日もあるし、私も眠らなきゃ)
オリビアはアリバイの整理をしていたからか、時計を見る癖がついてしまった。
23時になろうとしている。時計を確認すると、オリビアは深い眠りについた。