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高級ホテル殺人事件 第1章5節

閲覧いただき、ありがとうございます。

ロイさんは午前2時から5時まで何をされていましたか?」


話題を変えるようにオリビアはロイに問う。


「そうですね。バーが午後10時から午前6時まで開いてるので、バーにいました。昨日は例の土砂災害もあってか、バーは満席でしたよ」


それからロイは利用客の名前と利用時間帯を1人も漏らさずにつらつらと喋っていく。


「凄い、よく覚えていますね」


クロエは感心したように言う。


「元々記憶力には自信がありまして。それと職業柄、お客様のことはよく見てますので」


「おかげでかなりの人のアリバイの裏付けが出来ました。凄く助かります」


リアムもメモにサラサラと書きながら、お礼を述べる。

ロイはどこか誇らしげだ。


「もし差し支えがなければ、リュカさんのことを伺っても?」


「構いませんよ。答えられる範囲ですが」


折り合いが悪いと聞いた手前、聞き辛いと思ったのだろう。リアムは少し申し訳なさそうに尋ねた。ロイはそれを知ってか、肩を竦めた。


「リュカさんはどのような方でしたか?」


「私からしたら羨ましいくらい完璧なやつでしたよ。こんなことを言ったら身内びいきと思われるかもしれませんが、文武両道、眉目秀麗、支配人としても申し分のない働きぶりで部下達にも慕われていました。それに性格も温和で女性スタッフからも人気がありましたね」


少し複雑そうな顔をしながら、ロイは質問に答えた。

「優秀な方だったんですね」


オリビアは告げた。ロイは頷くことで同意の意を示した。


「リュカさんは最近何かトラブルに巻き込まれるようなこと、もしくは変わったことはありましたか?」


「いやぁ、人に恨みを買うようなやつじゃないんですけどね。でも最近ある女性に熱を上げているようなんですよ」


「好きな人?お付き合いはしていないのかしら?」


クロエは年頃の女子ならではの、好奇心剥き出しで聞き込む。


「どうでしょうね…それで願掛けのように最近は紅い石のついたネクタイピンをしていますよ」


ロイの表情が翳ったことをリアムは見逃さなかった。

何か後ろめたい事情があるのだろうか、と詮索したい気持ちを堪えながら話を進める。


「お相手の方はご存知ですか?」


「知りません…でも従業員内ではある女性スタッフじゃないかって話です」


「ある女性スタッフ?」


「この地域の言い伝えみたいなものなんですけど、大切な人の髪色や瞳の色と同じ石のついた物を持ち歩くと、その人との絆が永遠のものになるっていう伝承がありまして」


「素敵な伝承ですね」


オリビアは賛同しながら、ちらっとリアムの方を見る。ふわふわのブロンド髪に透き通るような青色の瞳。

(帰ったら願掛けに私も作ろうかしら)

そんな邪な考えをしていることに気づき、オリビアは小さく首を横にふる。


「ええ。それで紅い瞳をした女性スタッフがうちに1人いまして、おそらく彼女かという噂が立っているんです」


「その方のお名前は?」


「ミアという者です。彼女は特徴的な容姿をしているので、見かければ分かると思いますよ」


リアムは確か、と記憶を辿る。

従業員に聞き込みした時に名前を聞いた記憶がある。白髪で紅い瞳をした若い女性。


「お会いしたと思います。確かアルビノの女性ですよね」


「そうです。彼女です。彼女、容姿のせいで雇われ先がなかなか見つからず苦労していたみたいで、リュカにかなり恩義を感じていましてね。リュカも彼女を妹のように可愛がってまして…それをよく思わない人もいるみたいで」


リアムはなるほど、と相槌をうつ。

既に聞き込みをしていた時に、彼女が疎まれていることを感じていた。

従業員用の部屋は広く様々な部屋があったが、彼女はそこに入れてもらえず、1人で掃除をしていたのを見かけた。


「ありがとうございます。参考になりました。あともう一点お願いがあるんですが、監視カメラの記録を見せていただくことは可能でしょうか?」


それが、とロイは困った顔をし、返答に詰まる。


「監視カメラを記録する機械が壊れていまして、モニターも全て…」


「見ることができないということですか」


「ええ…申し訳ございません」


「いえ…ご協力ありがとうございました」


バーにある時計を見ると19時45分を指していた。


「オリビア、夕食の20時前にエマ達のところに戻らないと」


「そうね。そろそろ行かないとだわ。アルベールさん、聞き込みは終わったの?」


「従業員の方々にはこれで全て聴き終わったかな。利用客も殆ど聴き終わった。ロイさんの証言も裏付けされて、君達以外の宿泊客はバーに集っていたことが分かった。そしてバー利用後は全員、同伴者と一緒に部屋にずっといたらしい」


「単独犯とは限らないのでは?」


オリビアがそう尋ねると、リアムは意表を突かれたような顔をしてから頷く。


「良い視点だね。でもおそらく犯人は単独犯だ。事件現場にはコーヒーカップが2つあった。そして支配人の口元には僅かにコーヒーらしき液体がついていた。おそらく支配人と誰かはコーヒーを飲みながら話していたのだろう。そして支配人が席を立った隙に背後から壺で殴った。警察が来て、DNA鑑定ができれば1番なんだけどね」


「そうなんですね…」


「なるほど。というか私、はじめて事件の状況を知ったわ。支配人の方は撲殺されたのね」


クロエがそうぼやいた。オリビアは確かにそうだと感じた。


「事件の状況を知っているのは?」


「隠しているわけでもないけど、ロイさんと君達以外には話してはいないな」


「私達もあまり公にしないほうがいいかもね」


クロエの言葉にオリビアは頷く。

ふと時計を見ると、もうすぐ20時を指すところだった。


「まだアルベールさんとお話ししたいですが、他の友人達と落ち合う約束があるので一旦こちらで失礼いたします。友人達のアリバイも聞いてみますね」


「私もこれで失礼します。お邪魔しました、アルベールさん」

「こちらこそ、ご協力ありがとう。助かるよ、また後で」


慌ただしく去っていく2人を見送るリアム。

(変わった子達だな…)

そう思いながらも悪い気はしない、と感じるのだった。

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