豪華寝台列車殺人事件 第4章9節
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ウェンディに改めて話を聞こうと思い、4号車を探していると、バジルが慌てた様子でこちらに来た。
「バジルさん、どうしましたか?」
「男性の駅員を探してまして…シャワーが故障していて、立ち入り禁止になっている409号室で物音がしたのですが、鍵を開けても何かが引っかかって開かなくて…くぐもった声が聞こえるんです…!」
耳を立てると女性らしき声が聞こえた。
「オリビア?オリビアなのか!?」
リアムはその声がオリビアだとすぐにわかった。バジルは困惑した様子でリアムに尋ねる。
「オリビア?オリビア様ってあの…」
「話は後にしましょう!とにかく扉を開けます!」
リアムは部屋からハンガー数本とテープで隙間から梃子の原理で扉を力一杯抉じ開けた。
何度か試してみると、ガシャンと大きな物が倒れ、扉が開いた。
そこには、椅子に縛られ、口を塞がれたオリビアの姿があった。
「オリビア!」
リアムはすぐに駆け寄り、拘束を解く。
「リ、アム、さん…ど、して、ここに…」
長時間拘束されていたからか、オリビアの手足は冷え切っており、言葉は覚束なかった。
「君がいなくなって、探しにきたんだ。君こそどうしてこんなところに?誰にこんなことを?」
「それは…」
オリビアが口を開こうとすると、後ろで大きな物音がした。
リアムが振り向くと、バジルが倒れていた。
バジルは唸りながら、身を捩り、すぐに静かになった。
そして、背後から無表情のウェンディが血塗れのナイフを持って、現れた。
「君は…なんてことを」
リアムの声も届かぬようで、ウェンディは一歩ずつリアムたちの方へ歩を進めた。
「どうして?どうしてシナリオ通りに進まないの?何であなたが助手になっているの?犠牲者が減って、物語も変わって…私の描いた物語とは全然違う!!!」
ウェンディは叫びながら、オリビアに襲いかかる。
オリビアは悲鳴をあげて、後ろに退ける。リアムはオリビアを庇い、ウェンディの持っている刃物で腕を傷つけた。
「リアムさん…!」
「私のことは気にしなくていい」
「リアム!何でオリビアを庇うのよ!オリビアはこのシリーズでは犯人役なのよ!」
ウェンディは癇癪をあげて、オリビアを襲おうとするのをやめない。
リアムはウェンディの手を捻り、ナイフを落とさせた。そして、ウェンディの両手を拘束した。
「ウェンディさん、君が何を言っているのか分からないが、私の人生は私が決める。君の世界では違うのかもしれないが、私は物語の主人公でもない。そして、オリビアは紛れもなく私の大切な助手だ」
痺れを切らしたウェンディは拘束を解こうと踠きながら、オリビアに問う。
「オリビア!あんたも転生者なんでしょう?手紙が読めたから、ここに来たんでしょう?私の物語をこんなに滅茶苦茶にして楽しいの!?」
オリビアは戸惑う様子を見せた。リアムはこんなに気弱なオリビアを見たことがなかった。
「わ、私は…」
「オリビアの人生もオリビア自身が決めるものだ。シナリオ通りにいかないのが人生だよ」
ウェンディは悔しそうに顔を床に伏せた。
オリビアは何も言わずに俯いた。
そして、暫くして騒がしさに気づいた他の駅員たちにより、ウェンディは身柄を確保され、バジルだけではなく、アリエルも殺害したことを認めたことにより、事件は収束に向かった。




