豪華寝台列車殺人事件 第4章3節
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リアムがメモワール号に乗車すると、1人の若い女性駅員がチケットの確認をしに来た。
「少々お待ちください…お客様は4号車ですね。案内致します」
メモを見ながら、辿々しく案内を始める。
リアムはその女性の指示に従う。
リアムが乗車したのは9号車で、4号車に着くまで暫くの沈黙が続いた。
暫くの沈黙に耐えかねたのか、駅員はリアムに話しかけ始めた。
「御出張ですか?」
「ええ、そのようなものです」
「そうなのですね。ここのバーはお酒の種類が豊富なので是非」
「それは興味深いです。仕事に支障が出ないくらいに利用させていただきます」
リアムは少し戯けたような表情で、酒を呑む動作をした。駅員は少し緊張が解けたのか、笑顔にぎこちなさがなくなっていた。
「こちらです。アルベール様のお部屋は401号室です。今回の客室を担当します、ウェンディ・アダンと申します。今年入社したばかりで、不慣れな所もありますが、何なりとお申し付けください」
ウェンディはそういうと一礼し、その場を後にした。
リアムは携帯電話を確認したが、以前オリビアからの連絡はなかった。セシルからも連絡がないことから、まだ行方知らずのままなのだろう。
パソコンでアクアラメールとオリビアの消息について調べ始める前に、行き場のない焦燥感を鎮めるためにウェンディに勧められたバーに足を運ぶことにしたのだった。
バーに着くと、そこには1人の女性がワインを嗜んでいた。その女性はリアムに気づくと、微笑み、隣の席に促した。
「こんばんは。先程、可愛らしい駅員さんから、ここのバーを勧められて呑みに来たの。まだ一杯目だけど、良いセンスしているわ」
「それは楽しみですね。私も先程、駅員の方に勧められたんです」
リアムがオーダーをすると、女性は首を傾げる。
「それ、ノンアルコールカクテルじゃない。お酒弱いの?」
「お酒も弱いのですが…少しこの後やりたい作業がありまして。少し気分転換にいただこうかなと」
正直、今のリアムはお酒を嗜むほどの余裕がなかった。この一杯を飲んだら、冷静さを取り戻して、調査を開始しようと考えていた。
そんなリアムを見て、女性は妖艶に微笑む。
「真面目なのね。貴方、気に入ったわ。名前、聞いてもいいかしら」
「リアム・アルベールです。宜しくお願い致します」
「リアムさんね。私はアリエル・エマール。医師をしているの。内科だから具合が悪くなったら診てあげるわ」
「お医者様だったんですね」
アリエルは意外でしょ、と軽くウィンクをしてみせた。
「アクアラメールで学会があって、それに出席するの。面倒な話よね」
「それは…大変ですね」
「そうなのよ。だからリアムさん、これが呑み終わるまで、私の話に付き合ってくれないかしら」
リアムが頷くと、アリエルは満面の笑みを浮かべるのだった。




