リデル家殺人事件 第3章10節
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第3章は本節で終了です。
エミリアは無事生還したものの、2人の息子は帰らぬ人となった。この事件は公になり、リデル・コーポレーションの業績は右肩下がりになってしまった。
事務所に行く前の早朝にリアムはシャルロとシリルが眠るお墓に赴いた。
そこには、ネージュがぽつりとその場に立っていた。
「あら、来てくれたの?ありがとう」
ネージュは寂しそうに笑う。
リアムは深く一礼した。
「シリルが母さんと…特に兄さんを嫌っていたのは知っていたわ。会社を継ぐ権利を奪われて、父さんが行っていたものと全く違う方針を取っていたから。でもそれは、シャルロは会社の為…家族の為を想ってやっていた。実際、業績は上がっていたの」
ネージュは2人の兄弟の墓を眺めながら、独り言ちる。リアムは黙って聞いている。
「シリルはきっと寂しかったんだわ。シャルロは無愛想だったけど家族の中で一番出来が良かったから。評価の対象はいつもシャルロだった。どんなにシリルが頑張っても彼の期待通りには事は進まなかった。シリルは甘える癖があったから、私達も厳しくしていたの…それがいけなかったのね」
ふいにネージュは一枚の紙をジャケットのポケットから取り出す。それは事件の発端となった脅迫状だった。
「兄さんはシリルの仕業だと気付いていたの。兄さんが警察や探偵を呼ぶのを反対していたのはそういうことだった。兄さんはシリルと向き合おうとしていたのよ。不器用すぎて伝わらなかったけど…」
脅迫状がぽたりと濡れる。ネージュの涙だ。
暫く俯いていたネージュは、ぱっと顔を上げて、リアムに向き直る。ネージュの瞳は涙で溢れていた。
「私達家族は本当にみんな不器用だったの。自分の気持ちを上手く伝えずにいた癖に、相手に伝わることを期待して…その結果がこれ」
リアムは複雑そうな顔をした。何て言えばいいのか返答に困っていた。
ネージュはリアムに近づき、手を握る。
「ねえ、私、別れてからもずっと貴方のことが好きだったのよ。よりを戻したかった。別れてからも度々連絡して他愛もない話をしてたのは未練があったの…でも貴方にはもう大切な人がいるのよね」
リアムは少し驚き、そしてネージュの目を見て、ああ、と答えた。ネージュは吹っ切れたような顔をして、空を仰ぐ。
「早く言えばよかった。そしたら、もっと早くに踏ん切りがついたのに…リアム、これは友人からの忠告よ。大切な人が出来たら、自分の気持ちに素直になって、伝える努力をしなさい。人って案外鈍感なのよ」
自分にも相手に対してもね、と付け加えたネージュは手を離し、リアムの肩を叩く。
リアムは深く頷いた。そして、何かを覚悟したように口元を引き締めた。
(私も…そろそろ自分の気持ちに正直にならないとな)
ネージュに後押しをされたリアムは大切な人に会いに、探偵事務所に向かうのだった。