リデル家殺人事件 第3章7節
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「オリビア…何故ここにいるんだい?私は君に今日は休めと言ったはずだ」
思わずリアムの眉間に皺が寄る。
オリビアは昨日のしおらしさはどこへやら、満面の笑みで答えた。
「事件のかおりがしたので、探偵助手として、お留守番なんて出来ません!」
敬礼のポーズをするオリビアにリアムは何とも言えない気持ちになり、思わず深い溜息をついた。
そして、隣の男性が気まずそうにしていることに気がついた。リアムは面識があり、すぐにアルノー・リデルだと分かった。
「これは失礼いたしました。ご無沙汰しております。ネージュ様から依頼され、調査を務めています。こちらは助手のオリビア・ワトソンです」
「初めまして」
アルノーは一礼し、リアムの肩口から変わり果てた息子の姿を見た。
「息子は…殺されたんですか」
アルノーは震えた声で言う。
リアムは短く頷く。それを見たアルノーは唇を噛み締めた。リアムとオリビアは息子を失った悲しみに暮れるアルノーをただ見つめるしか出来なかった。
「この匂い…青酸カリですか?」
ふとオリビアはシャルロの口元から匂うアーモンド臭に気づき、リアムに尋ねる。
「ああ、ウォーターサーバー自体に仕込まれていた。おそらく大量に」
リアムはふと先程感じた疑問をアルノーに投げかける。
「アルノーさん。シャルロさんは匂いに鈍感だったりしましたか?」
昨日のシャルロは風邪をひいている様子もなかった。鼻炎のような一過性のもので匂いに気づかなかったというのは考えられなかった。アルノーは少し困惑した様子を見せながら、頷いた。
「はい…シャルロは幼い頃から鼻を悪くしていまして」
「それを知っている人物は多かったですか?」
「いや、元々シャルロは無口で無表情で…鼻を悪くした理由もあまり話せるような内容ではなくて、私達家族しか知らなかったと思います」
「そうですか…差し支えがなければ、理由をお伺いしても?」
リアムがそう尋ねると、アルノーはシャルロを悲しそうな目で見つめた。
「シャルロはエミリアの連れ子なんです。エミリアとシャルロは前の旦那にひどい暴力を受けていて…シャルロの鼻が悪くなったのはそれが原因らしいんです。私と結婚した後もエミリアも家に閉じこもりがちで」
そういえば、とリアムは先程の女性を思い出す。エミリアもシャルロ同様、黒髪だった。一方でアルノー、ネージュ、シリルは金髪だった。見た目の違いはそういうことなのか、と理解した。
「なるほど…それは」
リアムは返答に困った。それを察したアルノーはいいんです、と優しく微笑んだ。
「シャルロは努力家で親の欲目なしでも完璧に仕事をこなしていた。だから、私はシャルロを後継者に選んだ…それに無口で無愛想だったけれども、私はシャルロが誰よりも私達家族を大切にしていた。だから私もシャルロ達を守ろうと頑張ってきたのだが…」
アルノーの瞳にはうっすらと涙が浮かんだ。
それを隠すかのように、リアム達に対して、アルノーは深々と礼をした。
「リアムさん、オリビアさん…息子の無念を晴らしてください。お願いします」
息子を亡くした悲痛な父の想いに、リアムとオリビアは強く頷いた。