リデル家殺人事件 第3章3節
閲覧いただき、ありがとうございます。
リアムはネージュと連絡を取り、調査依頼の承諾の旨を伝えると同時に事のあらましを聞いた。
ネージュの実家であるリデル家は有名な飲料メーカーだ。リデル・コーポレーションと聞けば、誰でも一度は聞いたことがあり、利用したことがあるだろう。
そんなリデル家に3ヶ月ほど前から脅迫状が届くようになった。
その内容は会社のことだけではなく、リデル家に対するものもあった。
消印はバラバラでリデル家はこの脅迫状に頭を悩ませていた。警察に言うとマスコミの影響を受けると言い、警察には言っていないらしい。脅迫状だけで、今は何もないが、今後会社や家族に影響しては困るとネージュは依頼をしたとのことだった。
数日後、リアムとオリビアはリデル家に赴いた。リデル家とリデル・コーポレーションの本社は近く、リデル家訪問後、本社にも赴くことになった。
「いらっしゃい。今日からよろしくね」
ネージュは快くリアムとオリビアを迎え入れた。客間に案内されると、そこには2人の男性がいた。1人の男はリアム達を一瞥すると、無表情でソファに促した。ネージュは慌てて、紹介を始める。
「こちらの男性は兄のシャルロ・リデル」
「…どうも」
無愛想なシャルロはリアムとオリビアに向かって一礼する。ネージュは苦笑いしながら、シャルロの後ろでリアム達に詫びるように手を合わせた。
「そして、こちらが弟のシリル・リデル」
「初めまして。シリルです。本日から宜しくお願いします」
シャルロと打って変わって優しげな表情をシリルは見せた。冷徹そうなシャルロは髪もスーツも黒、一方で甘い顔をしたシリルは窓から差す光に照らされ、ブロンドの髪がキラキラと輝いた。2人は正反対のような存在だった。
「本日から調査を務めますリアム・アルベールと助手のオリビア・ワトソンです」
リアムの紹介に促され、オリビアは慌てて一礼する。
「父は仕事で母も今手が離せなくて、後で紹介するわ」
ネージュが母の話をするときに目が泳いだことをリアムは見逃さなかった。交際中もシャルロとアルノーには会ったが、エミリアとシリルには会ったことがなかった。
「とりあえず本題に入りましょうか。これが例の脅迫状よ」
ネージュに差し出された脅迫状は何かを切り貼りして作られたものだった。
指の表面で脅迫状を触ったオリビアは首を傾げる。
「いくつかの字…色がついてる。この紙の感触…ハードカバーの本の表紙から切り抜いたのかしら」
「あぁ…その可能性は高そうだな。本の表紙に使われる紙は特殊だ」
リアムは複数の脅迫状を手に取る。ネージュの言う通り、確かに消印はバラバラだった。
(廃品回収も調べてみるといいかもしれないな。あとは焼却処分されていなければ、誰かの手元に残しているかもしれない)
リアムがそう考えているとオリビアの顔色が悪いことに気がつく。リアムは失礼、と告げてオリビアを連れて廊下に出た。
「オリビア、どうした?具合でも悪いのかい?」
「いえ…そうではなくて。少し考え事をしていたんです」
リアムは額に手を当てる。熱はない、むしろ冷たかった。リアムは着ていたジャケットを脱ぎ、オリビアの肩に掛けた。
「最近冷えるからね。これを着ていなさい。少しでも具合が悪くなったら遠慮なく言うんだ」
「本当に大丈夫です。ありがとうございます」
にこりと笑うオリビアには、いつもより覇気がないように見えた。リアムは心配だったが、本人が大丈夫と言う手前、強く言えなかった。
(リデル家殺人事件…確かにあったはずなのに)
オリビアは眉を顰めた。最後はリデル家一家が惨殺される話だったはずだ。しかし、肝心の犯人を思い出すことができなかった。
ぽっかりと穴が空いたように、その記憶が思い出せなかった。
リアム・アルベール探偵の事件簿シリーズで、前世のオリビアが最後に読んだシリーズだった。そのせいなのか、この事件の記憶が曖昧だった。
(何故この家の人たちは死んでしまったんだろう…?)
オリビアはこのままだと何も出来ずに終わりそうな焦燥感と自分の思い出せない記憶にもやもやしてしまう気持ちに駆られるのだった。