財閥企業殺人事件 第2章10節
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「これで本日の調査は終了です。一日、お疲れ様でした」
「やっと終わったのね」
げんなりとしたメアリーにリアムは申し訳なさそうにする。
リアムとオリビアはその日1日中メアリーと行動を共にした。
最初は怪訝そうな顔をしていたメアリーだったが、終盤になると諦めたのかされるがままになっていた。
(問題は明日からね…今日でメアリーさんの調査は終わってしまったし…)
原作通りにはならなかったが、自殺は明日に引き延ばされただけかもしれない。
どうしたものか…と悩んだところ、セシルが管理室にやってきた。
「メアリーさん、明日の講演会なんだが庶務の1人が体調を崩しまして…代わりにメアリーさんにお願いしたいと思います」
「私が?でも、ここの警備は?」
「別の者にお願いしました。詳細は今から説明しますので、10分程お付き合い願います」
メアリーは頷き、セシルと会議室に向かった。
(セシルさん、ナイスアシストだわ!)
セシルは心配症で家族想いで特にブラコンという設定だったが、彼はオリビアの知っている原作のセシルと少し違う気がした。
オリビアは少し首を傾げる。
(私が現れたことで、やはり歪みが生じているのかしら?)
そもそも、この事件にオリビア・ワトソンという人物は登場しないのだ。シリーズの最初に端折られた事件から登場した異質な存在。
オリビアは自分の存在の異質さに改めて気づかされた。
「オリビア、今日も一日お疲れ様」
オリビアの考えは、リアムの声かけで消えた。オリビアは現実に戻り、リアムとの会話に応える。
「リアムさんもお疲れ様です」
「…オリビア少し気になったんだが」
「はい?」
「今日一日やたらメアリーさんを執拗に追っていたが、何か理由はあるのか?」
「それは…」
この事件が始まって、オリビアは何度言い淀んだことだろう。
オリビアが返答に迷っていると、昨夜のセシルとの会話を思い出した。
『これは個人的なお願いですが、兄はオリビア様を信頼しています。だからオリビア様も兄を信頼して下さい。オリビア様は自分が正しいと思うことを主張して下さい。それが兄の為でもあると思います』
セシルの言葉に後押しされ、オリビアはリアムに本音を伝える決心をした。
「これは私の勘なのですが、メアリーさんはこの事件に一枚噛んでると思うんです」
「メアリーさんが?」
「はい、彼女は思い詰めていることは確かです。私達が訪問してからは更に。現に彼女は昨日よりも顔色が優れないし、寝不足な様子が伺えました」
「なるほど…それで」
「彼女の様子がおかしかったので、変な行動を起こさないか心配だったんです」
例えば自殺とか、とまでオリビアは言わなかった。しかし、リアムはオリビアの意図することを汲み取ったようで神妙な面持ちで頷いた。
「セシルのあの言動、おそらくセシルも気づいていたんだな…そして彼女は正常な状態ではないとセシルも判断した」
リアムはそう呟くと、オリビアに向き直った。
「オリビア、一度状況を整理しよう。そして私が思っていることや疑っている人物、また君が疑問に思っていることを共有しよう」
「はい!」
オリビアの想像以上にリアムは素直にオリビアの意見を受け止めてくれた。
(シナリオを恐れて言わないよりもリアムさんを信頼して本音を伝えるべきだわ)
セシルに感謝しながら、オリビアはリアムと情報を整理していくのだった。




