財閥企業殺人事件 第2章5節
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管理室を離れ、セシルとメアリーと別れた後、リアムとオリビアはエントランスホールへ向かった。
受付には1人の若い女性がいた。リアム達は彼女に挨拶をしようと受付に向かった。
「あら、リアムさんじゃないですか!お久しぶりです。お元気でしたか?」
リアム達に気づいた若い女性は少し頬を赤らめて、席を立つ。席を立つと共に花の香りが鼻腔をくすぐった。
「ローランさん。お久しぶりです。元気ですよ」
「また会えて嬉しいです!今日はどうしてこちらに?」
オリビアのことなど、そっちのけでローランと呼ばれる女性はキラキラした眼差しをリアムに向ける。
「少し調べたいことがあって、お邪魔しているんです」
リアムがそう告げると、女性はきゃあと嬉しそうな悲鳴をあげた。
「じゃあ、暫くはこちらに来るんですね!是非またこちらにいらしてください。私は他の同僚とは時期を少しずらしてお休みを取ることになって、暫くはこちらにいるので!」
目に見える好意にリアムは少し戸惑いの表情を見せながらも、笑顔でありがとう、と答えた。
「改めて宜しくお願いしますね。そして、彼女は私の調査を手伝っていただいているオリビア・ワトソンさんです」
リアムはすっかり蚊帳の外にいたオリビアを女性に紹介する。女性はさっきの高揚をなくし、ビジネススマイルでオリビアを迎えた。
「ワトソンさん。初めまして、ソフィア・ローランです。こちらの受付を務めております」
オリビアは薄ら寒いものを感じながら、会釈する。
「ローランさん、初めまして。宜しくお願い致します」
挨拶も終わり、リアム達はソフィアの追究から逃れるように受付を後にした。
「オリビア、少し挨拶したい人がいるんだが、5階の研究室に行ってもいいかい?」
「ええ、勿論構いませんよ」
そう言って、リアム達はエレベーターに乗った。
研究室に着くと、1人の男性がリアム達に気づき、迎い入れてくれた。
「リアム!久しぶりじゃないか。急にどうしたんだ?」
「ハリー、元気そうだな。少し調べ物をしに、ここに来たんだ」
「もしかして、親父さんのことか?」
「ああ」
そう告げると、ハリーは頷き、リアムの肩を叩いた。
「あんまり背負い込むなよ。何かあったら俺も手伝うから言ってくれ」
リアムはハリーの厚意に破顔し、感謝の意を述べた。そして、ハリーはオリビアに人懐っこい笑顔を向け、挨拶をした。
「自己紹介遅れてすまない。俺はハリー・フォーレという研究者だ。今は遺伝子組換の研究をしている。よろしくな」
砕けた言葉でハリーはオリビアと握手した。
オリビアも笑顔で応える。
「オリビア・ワトソンです。リアムさんの助手を務めています」
オリビアはハリーに対して率直に自分の職業を告げる。
「ほう、君がリアムの言ってた助手か! 随分可愛らしい子だ。リアムが溺愛するのもわかる」
「溺愛って…おまえ」
にやけた笑顔を向けるハリーに対し、リアムは小突く。
「この前、ドン・インテリア雑貨のおじさんと話したんだが、おじさん、オリビアちゃんのこと恋人だと思ったらしいぞ」
ドン・インテリア雑貨は先日、リアムがオリビアへ贈ったルーペを購入したところだ。
そんな風に思われてたなど、つゆ知らず、リアムは、ばつの悪い顔をする。
「彼女は優秀な助手だ。君が勘ぐるようなことは何もないぞ」
オリビアはリアムの言葉に何故か少し胸が痛んだ。
ハリーはそれを察したのか、オリビアの頭をぽんぽんと撫でた。
「オリビアちゃん、こいつ天邪鬼でごめんな?俺が後で良く言い聞かせとくから」
おい、と追究するリアムをハリーはひらりと躱す。仲の良さそうな2人に思わず笑顔になるオリビア。
(リアムさんの親友…原作通り、良い人。守らなきゃ、私が)
今回の事件は原作に抗わなければならない、とオリビアは思う。ハリー・フォーレは今回の事件で命を落とす、被害者だ。
(原作に抗うことなんて出来るのかしら…でも私にしか出来ないことだわ)
原作を知っているのはオリビアだけだ。物語を書き換える可能性があるとしたら、それはオリビアが鍵を握っている。
自分の担う責任に押し潰されそうになりながらも、誰も被害者なんて出させないと決意するのだった。




