財閥企業殺人事件 第2章4節
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アルベール社に着くと、1人の青年がリアムとオリビアを迎えてくれた。
「本日から宜しくお願いします」
青年は畏まり、お辞儀をする。それを見て、リアムは苦笑いをした。青年はそんなリアムの様子を無視して、オリビアに挨拶をする。
「ワトソン様、初めまして。セシル・アルベールと申します」
セシルは濃紺のスーツを着こなし、髪もきちんと整えられており、どこか風格のある男性だった。
(セシル・アルベール…リアムさんの弟でもあり、アランさんの次男。小説以上に雰囲気のある人だわ)
凛としたセシルの立ち振る舞いにオリビアの背筋が思わず伸びるのを感じた。
雰囲気に呑まれたからか、セシルのオリビアに対するどこか懐疑的な視線には気づかなかった。
「では、こちらへ。管理室にお連れします」
管理室に着くと、セシルは鍵をリアム達に渡した。
「マスターキーです。本社にはこの鍵があれば、全ての部屋に立ち入ることが出来ます。夏期休暇中ですので、可能性は低いですが、会議中の部屋には立ち入らないようにしてください」
「わかりました」
「旧本社に行く場合は別の鍵が必要です。本社の調査が終わり、必要がありましたら、本社の鍵を戻す際に旧本社の鍵をお渡しします」
両方の鍵を渡せばいいのに、とオリビアは思ったが、セシルの原作上の性格を知っている彼女は押し黙った。
「監視カメラで撮影した物はこちらの部屋で業者と連絡を取って見ることが可能になります。こちらが本社の見取り図です。消灯時間は21時で扉にロックがかかるのは22時です。20時までには鍵を返却してください。翌日10時には、エントランスでお待ちしています」
つまり、セシルとは調査前後に必ず会う必要があるということだ。
全ての説明が終わった時、管理室の扉が開いた。そこには警備員であろう女性がいた。
オリビアはその女性を見て、思わず硬直した。
「あら…社長。こんなところにいらっしゃったのね。トマさんが探していたわよ」
「ルーさん。すまない、今日からお世話になる人たちに会社の説明をしていてね。見取り図があるのが、この部屋だったから、こちらに来ていたんだ」
「そうだったの…お世話になるって、リアムさんじゃない、お元気でした?」
ルーと呼ばれた女性は、リアムに気づくと会釈をした。
「ルーさん。お陰様で」
「あら、そちらの女性は?」
固まっていたオリビアは慌てて会釈をし、自己紹介を始める。
「初めまして、オリビア・ワトソンと申します。リアムさんの後輩でお仕事の手伝いをしています」
「初めまして。メアリー・ルーといいます。ここの警備員をしているの。よろしくね」
笑顔で微笑むメアリーにオリビアは硬い笑顔を返す。それに気づいたリアムは怪訝そうな顔をした。
「ところでリアムさん。あなた、探偵を始めたって噂じゃない。今回はここの調査なの?」
「はい、少し調べたいことがありまして、お邪魔させていただいています」
お喋り好きのメアリーはリアムに様々な質問を投げる。愛想よく返すリアムを横目に、オリビアは高まる心臓の鼓動を抑えた。
(この事件の共犯者…メアリー・ルー。小説通り、プロローグは始まっている)
オリビアはぐっと胸に拳を当てる。それは無意識のものだったが、オリビアの決意の現れでもあった。
(なんとしても止めなければ、原作通りに行けば、これから2人の登場人物が死んでしまう!)
緊張で表情を硬くしているオリビアを、セシルはじっと見つめていた。