財閥企業殺人事件 第2章2節
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アルベール社の次期代表取締役。
聞こえはいいかもしれないが、実際は地獄のようなものだった。
大学院を卒業し、リアムはすぐにアルベール社の社員として働き出した。
表向きはリアムの仕事は完璧だった。
何故なら、次期代表取締役として学生時代から人一倍勉学だけではなく、処世術などありとあらゆるものを叩き込まれていたからだ。
しかし、実際のところ、リアムは周囲の好奇の眼差しや嫉妬など様々な事に悩まされていた。
それでも、とリアムは先祖から父までが築いてきたこの会社を支えたいと思い、尽力した。
その矢先での出来事だった。
当時、秘書を務めていたリアムの弟であるセシルが慌てて、会議室に入ってきた。
その時のことを今でも覚えている。普段、セシルは公私混同を嫌うが、この時は違った。
セシルの狼狽した様子を見て、会議を離席したリアムは衝撃の言葉を聞く。
『兄さん…父さんが死んだ…!どうしよう、どうすればいいんだ!』
背筋に冷たい氷が刺さったような感覚を覚えた。混乱しているセシルを宥めながら、リアムは状況を聞いた。
そして暫くして、病院の霊安室で父の遺体と対面した。
冷たくなった父の額に触れた。その拍子に何本かの切られた草が落ちた。
(旧本社ビル周辺に芝生はない…夕方に父さんは死んだ。昼間まで本社にいたのは知っている…)
アランは本社から旧本社に行く際に芝生のところにでも行ったのだろうか?公園で日向ぼっこでもしたのだろうか?
(でも…後髪だけじゃなく、前髪にもつくものだろうか?)
普通のことかもしれない。でもリアムはその時に何かが引っかかる思いをした。
(潔癖症とまではいかないが、父さんはスーツが汚れるのを嫌う。そもそも、日向ぼっこなんてするような性格じゃない)
何かがある、と思った。
それは、悪意のある何か。
警察にもその疑問をぶつけたが、確実な証拠とはならず、うやむやにされ、事故死として片付けられた。
代表取締役の死後、自然とその役割はリアムに回ってきた。
旧本社に向かったリアムは寂れたベンチに腰掛け、空を仰いだ。
(どんな人が死んでも、当たり前に日常はやってくる。実際に社長が死んだ会社も、既にいつもの日常に戻っている)
リアムは虚しさと暗い何かを感じた。
(父さんはこれで報われるのか?)
アランが今まで全てをこの会社に費やしてきたことを家族であるリアムは見てきた。
時には家庭を犠牲にして、会社が大きくなればなるほど、社員を切り捨てなければならなくなって。アランが苦悩していたことをリアムは知っていた。
(こんな結末…あんまりじゃないか)
旧本社ビルの屋上でリアムは悔しげに唸った。
「私が…こんな結末、変えてやる」
そして数ヶ月後、リアムはアルベール社を去った。