第1章 番外編 後編
閲覧いただき、ありがとうございます。
後日談です。
後編はオリビアsideのお話です。
今日は月曜日。オリビアは探偵業を始めてから早寝早起きを心がけ、すっかり朝型人間になった。
そして、オリビアは出社時間30分前に事務所に着き、ソファで最近のリアムの言動を思い出した。
(最近、リアムさんの様子がおかしい)
先週水曜日の昼間に一本の電話がかかってきてから、リアムはそわそわするようになった。それはオリビアの様子を伺うような、どこか気まずそうにしている感じだった。
何かやましいことでもあるのかと思い、やんわり尋ねても、躱されてしまう。そして、オリビアにも思い当たる節がなかった。
(もしかして…恋人と揉めているのかしら)
リアムとオリビアはプライベートな話はあまりしないー最もオリビアは一方的に話しているのだが。オリビアはリアムに恋人がいるかどうかも定かではないのだ。
もし、とオリビアは思考を巡らせる。
恋人がいたとしたら、平日は朝から夕方までほぼ2人っきりで行動し、休日も事件があれば、2人で現場に向かう現状をどう思うだろうか。
男女の関係にないとしても、恋人は不安がるのではないか。そして、恋人の想いとオリビアの助手としての想いに挟まれ、悩んでいるのではないかー
そうオリビアが考えていると、探偵事務所の扉がガチャリと開いた。
「おはよう、オリビア。相変わらず早いね」
「おはようございます。すっかり朝型人間になりました」
健康志向で良いことだ、とリアムはカバンを置く。
オリビアは当たり前に朝の挨拶が出来る喜びを噛み締めながら、珈琲の準備をする。
(ふふ、もう自分の家のように物の配置が分かるわ)
オリビアが買い出しへ行く時、常連の店では『アルベールさんとこのお嬢さん』と呼ばれるようになったのだ。
オリビアは大好きな小説の世界で、主人公のリアム・アルベールの日常にいる自分は幸せだと日々感じていた。
(でも…恋人がいたら…)
そう思うとモヤモヤとした感情が湧く。
(恋人にリアムさんを取られるのが嫌なのかしら…嫉妬みたいだわ。一時的でも助手になれただけでも幸せなのに)
これが助手としての地位が脅かされた不安なのか女性としての不安なのかはオリビアには分からなかった。
鬱蒼とした気分を振り払うように、オリビアは明るく振る舞うことを務めた。
(とにかく、この珈琲を持っていかなきゃ)
珈琲をトレーに載せて、ソファのある席に珈琲を運ぶ。
「いつもありがとう。オリビアは先に飲んでいてくれ、私はやらなければならないことがある」
そう言ってリアムは台所に消えた。
オリビアは首を傾げながら、珈琲を飲まずにちょこんと向かいのソファを眺めていた。
少し経って、オリビアの背後からリアムの声がした。
「オリビア、少しの間だけ目を閉じていてくれないか?」
「え?は、はい。閉じました!」
オリビアは目を閉じ、両目を手で隠して、リアムがこちらに来る気配を感じた。
いいよ、とリアムの声に目を開けると、そこには宝石のように輝く色とりどりのフルーツのタルトがあった。
そして、何よりオリビアが目を引いたのは、チョコレートのプレートに書いてあったメッセージだった。
「アルベール探偵事務所へようこそ…これって」
オリビアは大きな瞳を輝かせながら、リアムの方を向く。リアムは少し申し訳なさげにしながら話を始める。
「かなり遅くなってしまったけど、君の入所祝いだよ。遅れてすまない…アルベール探偵事務所へようこそ。そして入所おめでとう、オリビア」
リアムがそう告げると、オリビアに可愛くラッピングされた四角い箱を渡した。
「ありがとうございます…これは?」
「開けてみてくれ」
オリビアは、まだ信じられないと言った様子で、おぼつかない手でラッピングを解く。
「…これは、探偵ルーペ」
オリビアはそれを手にして、眺める。
レンズの先には、リアムのブロンドヘアが映し出された。少し離して見ると、オリビアの名前と自分の瞳の色である菫色の石がはめ込まれていた。
「私が探偵業を始めて、ルーペを購入した時に探偵としての自覚を改めて持ってね。オリビアにも是非探偵助手としてのプレゼントがしたくてこれにしたんだ」
オリビアは少し頬を赤らめ、瞳を潤ませ、感極まった様子だった。
「凄く…嬉しいです。本当にずっと前からの夢だったんです。私、幸せです」
まるでクリスマスにサンタクロースからのプレゼントを貰ったかのように、はしゃぎながら、まじまじとプレゼントを見るオリビア。
その様子にリアムは微笑ましく思った。
「喜んでもらえて良かった。改めてよろしく、オリビア」
「こちらこそ!よろしくお願いします…リアムさん」
リアムとオリビアは少し面映ゆい気分になり、ケーキを食べることにした。
「…リアムさんが最近どこか落ち着かない様子だったのは、これを考えていてくれたんですか?」
「私は落ち着かない様子に見えたのか…そうだね、君がせっかく入所してくれたのに何も形に残るようなことをしていなかったから、気がかりでね」
「そうだったんですね。てっきり…」
「てっきり?」
「いえ!リアムさん!」
「なんだい?」
オリビアは口元にクリームをつけながら、満面の笑みでリアムにこう告げた。
「私の長年の夢を叶えてくれてありがとうございます」
リアムは純粋な好意に少し擽ったい気持ちを感じながら、笑顔でこちらこそ、と応えたのだった。
第2章、随時更新致します。
暫くお待ちください。




