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第1章 番外編 前編

閲覧いただき、ありがとうございます。

後日談です。

前編はリアムsideのお話です。

雑貨屋や骨董品店が並ぶ女性向きの可愛らしい街並みで顰めっ面の男、リアムが1人立ち尽くしていた。


事の発端は先日、弟から連絡が来たところから始まる。弟との話で、リアムは入所祝いの存在を思い出したのだ。そして同時にオリビアが企業の内定を蹴って、探偵助手として来てくれたにも関わらず、何もしていないことにも。


(オリビアが探偵助手になってから、もう3ヶ月が経ってしまった…)


あの事件以降、小さな事件が頻発し、駆け出し探偵のリアムはその事件を追究するのに精一杯だった。

そして、いつも傍らには明るい彼女の存在。華奢な身体には似合わないパワー溢れる彼女に調査が難航した際は励まされたものだ。


(だからこそ何かちゃんとした物を贈りたい…)


彼女を思い出すと胸のあたりが温かくなる。これがどういう感情なのが、リアム自身分からずにいた。

この感情を分析するのに気を取られそうな自分を律して、リアムは女性向けに作られた可愛い雑貨に目を通す。


「何かお探しですか?」


愛想の良い女性店員がリアムに尋ねる。


「会社の後輩の入社祝いを、と思って。女性なのですが…何か良いものはないかと探しているんです」


流石に自分は探偵で、助手に贈り物をしたいとは言い辛かったのか、リアムはそう告げる。


「なるほど…では、こちらのボールペンはいかがですか?機能性も高く、デザインも女性向きに作られています」


そう言って店員が手渡してくれたのは、ピンク色をした花柄の女性らしいボールペンだった。


「確かにこれなら使いやすいかもしれませんね…少し考えさせてください。良い商品を教えて下さり、ありがとうございます」


いえ、と店員は軽く会釈し、リアムのもとを離れた。


(確かにこのボールペンも素敵だが、折角なら私がちゃんと選びたい。助手としてのオリビアに相応しい物を)


しばらく悩んだ後、リアムはあるものを思い付き、老舗のインテリア雑貨店に足を運んだ。


「いらっしゃいませ。おや、アルベールさん。お久しぶりですね」


初老の男性はリアムに気づくと、レジを離れて、リアムの方へ向かった。


ここは、リアムが探偵業を始めるにあたり、家具だけではなく、周辺の雑貨など殆どを揃えた店である。何度も足繁く通い、検討を重ね、最終的にかなりの量を購入したので、この店の店員とは顔見知りになっていた。


「お久しぶりです。少し探し物をしていまして」


「本日はどのような物をお探しで?」


「前に私が購入したルーペ、まだありますか?」


「ルーペですね。ございますよ」


探偵業を始めた時に探偵らしい物も買おうと形から入った記憶がある。そして購入したのが、カスタマイズ可能なルーペだった。

レンズの度数だけではなく、デザインや石を選ぶことができ、名前も彫ることが出来た。

自分だけのルーペを手にした時、探偵としての自覚を改めて持ったことを今でも覚えていた。


(あれだけの想いを持って探偵助手を希望した彼女だ…きっと喜ぶだろう)


リアムが探偵業を始めたきっかけは、あまり良いものではなかった。だから探偵業を始めた時、リアムには責任感や僅かな薄暗い感情が渦巻いていた。

しかし、オリビアは純粋に探偵というものに憧れを持ち、リアムを慕っている。その想いはリアムにとって、探偵業の良さに気づかせてくれるきっかけにもなった。


リアムは彼女がルーペを手にして、事件解決に奔走する様子を想像し、思わず口角が上がるのを感じた。


「カスタマイズはどのように?」


「そうだな…こちらのルーペにします。石は菫色にしてください。そして、名前はオリビア・ワトソンで彫っていただけますか」


リアムは前勤めていた会社の同僚が女性は誕生石や自分の瞳や髪の色の物を贈ると喜ぶと言っていたことを思い出し、そう注文した。


「かしこまりました。只今御用意致します。少々お待ちください」


店員に促され、ソファに腰掛ける。

ふと、ホテルロイヤルジラールでの会話を思い出す。


『この地域の言い伝えみたいなものなんですけど、大切な人の髪色や瞳の色と同じ石のついた物を持ち歩くと、その人との絆が永遠のものになるっていう伝承がありまして』


『素敵な伝承ですね』


ロイから伝承を聞いたオリビアはその後、頻繁にリアムを覗き見ていたのに、リアムは気づいていた。


(いや…まさかな。最近の私はどうかしてる。まるで子供みたいだ)


何か期待するような瞳をしていたオリビアを思い出し、リアムは否定の意味を込めて、軽く首を振った。


「アルベールさん。お待たせしました」


リアムが悶々と考えていると、店員は出来上がったルーペを見せてくれた。


そのルーペを見て、リアムはオリビアの喜ぶ顔を想像するのだった。

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