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高級ホテル殺人事件 第1章9節

閲覧いただき、ありがとうございます。

一部過激な表現があります。ご注意ください。

リアムはロイと合流し、復旧したデータを見て、僅かに唸った。

ロイは少しばつの悪い顔をしていた。


「ロイさん、気づいていましたね」


リアムがそう告げると、ロイは僅かに首を振る。


「こんな事件が起これば、誰だって人のこと疑いますよ。確証はなかったですし、そんなことをする人だと信じたくありませんでしたから」


悲しげに俯くロイを見て、リアムは何かと言おうとして口を紡いだ。


「オリビア達の部屋に行きましょう。動機も掴めたし、復元を待つ間に新しい情報も聞けましたからね」


部屋に着くと、オリビアが悲しい表情でリアム達を迎えた。


「オリビア、君も気づいたかもしれないが、犯人が分かったよ」


「ということは私の予想は当たってしまったんですね」


「今からそれを話すよ、中に入っても?」


「ええ、どうぞ」


扉の閉まる音が響き、オリビアは思わず逃げたい衝動に駆られた。

部屋に入るとクロエが椅子に座り、俯いていた。アリスも目が覚めたのかベットの上で枕を抱えながら座っている。

ロイはどこか悔しそうな顔をしながら、壁際でオリビア達の様子を見ていた。


「こんな時に聞く気持ちになれないかもしれないですが、聞いてください。私はこの一連の犯人がわかりました」


その言葉に一斉に一同がリアムの顔を見る。

「犯人はアリス・デュボアさん、あなたですね」


「……」


オリビアは友人の表情が読めなかった。ただ、どこか暗いものが垣間見えた気がした。


「理由を聞いてもいいですか?リアムさん」


沈黙の後、アリスはそう尋ねる。


「動機も証拠も見つかった。君が犯人ということを今から説明しましょう」


「まず、支配人の話から始めます。…君はお父様繋がりで支配人と面識があったと言っていた。それはおそらく真実だろう。でもその話には続きがあった。君は支配人の婚約者でもあった」


「…確かにリュカさんとは婚約者だったわ。でもそれは形だけで実際に親交はそこまでなかった。だから言わなかったの」


「いや、それは嘘だ。君はリュカさんのところに足繁く通っていた。ロイさんをはじめ、多くの人が君のことを見かけたと証言している」


アリスはロイのことを一瞥した。ロイは顔を背け、何も言わなかった。


「それで?婚約者だから怪しいの?」


「携帯電話を見せてもらった。君は最近リュカさんと揉めていたね。その理由はリュカさんが別の女性に恋をしたからだ」


アリスは顔を強張らせたが、何も語らない。

リアムはそのまま話を続けた。


「相手はこのホテルの従業員のミアさんだ。リュカさんが頻繁に彼女にメールを送っていた」


オリビアとクロエは黙ってその場を見守っていた。

アリスの表情は髪が顔を覆って上手く見えない。

「そしてリュカさんの最後のメールはあなたからだった。リュカさんが殺された1時間前に地下室の会議室で会いたいと書いてあった」


「!」


「リュカさんの遺体を見る限り、不意をついて殴ったのだろう。それで証拠となりそうな携帯電話と監視カメラを壊すためにマスターキーを盗んで、君は逃げた」


「…エマじゃない理由は何?」


「…エマさんが犯人及び自殺じゃない理由を説明しましょう。そもそもエマさんはおそらくリュカさんと初対面だ。殺す動機はかなり薄い。そして私が1番初めに疑問に思ったのはエマさんの遺体が死後硬直していたことだ。オリビアに先程聞いたんだが、君は1時間浴室にこもっていたと言ったらしいな。しかし、通常は死後硬直は2〜3時間後にゆっくり起こるものだ。でもこれは証拠としては弱かった。最大の証拠は遺書だ。これもオリビアに聞いたんだが、エマさんの筆跡とは随分違うらしいね。そして字に特徴があった。それが君の字の特徴だということも」


リアムは今朝、アリスがエマに書き置きしたものと先程の遺書を掲げてみせた。


「……」


「これでも君は罪を認めないのかい」


アリスはパッと顔を上げた。その表情は諦めと悲しみに満ちていた。


「エマにバレるくらいだから隠し通せるとは思ってなかったけど、やっぱりバレるわよね」


アリスのその言葉にクロエはおずおずと尋ねる。


「本当にアリスが殺したの?」


「そうよ、2人とも私が殺した…」


「なんで?どうしてよ!」


クロエは悲鳴のような声でアリスに聞く。


「私、本当にリュカさんのこと愛していたの。初めは政略的なものだったし、私も乗り気じゃなかったんだけど…彼の人となりを知ってくうちに本当に好きになった」


アリスは目を伏せ、ゆっくりと話を進める。表情にはみるみると怒りが露わになった。


「でもね、あの女が私の幸せを奪っていったの」


「…ミアさんですね」


ロイが苦虫を噛み潰したような表情でそう告げる。


「ロイさんも気づいてたでしょう?リュカさんのあの女に対するご執心っぷり!きっとあの女が誑かしたんだわ」


「…」


オリビアは何も言わずにアリスをただ見つめていた。アリスは興奮しているのか声量がどんどん大きくなっていった。


「それでも私はリュカさんを信じてた。だからあの夜もやり直そうって話をしにいったの。あなたを幸せにするのは私だって。でもリュカさんは…別れを切り出した。そしてあの女に告白すると言った。そして私の制止を振り払って帰ろうとしたの!」


「それで君は…」


「今までの私の愛、私自身を否定された気がしたの。だから私、飾られてた壺で思い切り…」


「エマは?エマはなんで殺したの?」


クロエは涙を零しながら、尋ねる。

アリスは途端に顔を暗くした。


「あの子は気づいてた。夕食の後、私が殺したんじゃないかって聞いてきた。恋人とうまくいってないの知ってたから。それで揉み合いの喧嘩みたいになって、その拍子にリュカさんの携帯電話を落として。そして、エマは自首を促したわ。でも、私にはまだやることがあった。あの女が許せなかったから…」


「…君はまだ罪を重ねようとしていたの?」


「罪?元々悪いのはあの女よ!私はそれをお返しするだけよ!でもエマも今のあなた達みたいに理解してくれなかった…幼なじみで親友だったのに…だから紅茶を入れて、エマが服用してる薬をいつもより多く入れて眠らせたの。それで湯船に浸からせて、手首をたくさん切ったの」


そう告げるとアリスはボロボロと堰を切ったように涙を流す。


「でも、きっとそれは間違いだった。私は取り返しのつかないことをしてしまったのよ。それでも私は止まらなくて何度も親友の腕を切って、携帯電話もわざと湯船に落として、遺書まで書いて…もうどうしようもなかったの」


アリスは顔を覆って、蹲った。


「このどうしようもない虚無感は、きっとエマを傷つけた罰なのね」


アリスはそう言って、俯いたままだった。


「…どうして、言ってくれなかったの」


ぽつりとオリビアは呟く。

アリスは眉を顰めた。


「あなたが悩んでいたこと、どうして言ってくれなかったの!私達いつも悩みは相談していたじゃない。でもどうして、そんなに人を殺めるほど辛い思いをしていたことを言ってくれなかったの?」


「…それは」


「いつだってアリスは私達の悩みを聞いてくれたし、さりげなくサポートしてくれた…さっきだって…」


オリビアはレストランでオリビアにウィンクをしてきたことを思い出す。


「今まで一緒に楽しい時間を共有して、辛いことは分かち合ってきた。だからこそ、アリスが独りで闘って、このような結末を迎えたことが悔しくてたまらなかった」


オリビアの瞳には涙でいっぱいになり、アリスの顔がぼやけて見えなくなっていた。


「アリスがそこまでして傷つく必要なんてなかったんだよ。そんなに1人で抱え込む必要もなかったんだよ」


オリビアとクロエはアリスのそばに近づく。3人とも顔は涙で濡れていた。

エマだってきっとそうしたかったはず。味方だから罪を認めてやり直そうと勇気付けようとしていたんだとオリビアは心の中で思った。


「気づいてあげられなくてごめんね、アリス」


オリビアはそう告げるとアリスは悲痛な叫び声をあげ、泣き出したのだった。

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