22 セクシャルに包まれて
「最近どうだ?忙しいか?」
「相変わらず迷子のネコ探しの依頼ばっかりだよ。ネコ嫌いなのに参っちゃうよ」
「豚平はネコに好かれるからな」
「ネコは薄情で美しくないんだよ。それに比べてウサギは可愛いよぉ」
どうやら豚平さんは美しいものが好きのようだ。美的感覚は人それぞれだが。
「豚平さんはウサギ飼ってるんですか?」
「おぉ月野くん、はじめまして。頑張ってるって日比谷くんから聞いてるよ。ウサギは良いよ。疲れて帰宅しても癒されるよ。生きがいだよ。今度見に来なよ」
「あ、ありがとうございます」
フランクなイケメンだな。それより所長が俺の事を話題にしてくれてることが嬉しかった。本人に言われる以上に第三者から聞く方が信憑性があるからだろう。失敗もあるけど頑張って一生懸命やってる甲斐があるもんだ。それにしてもウサギかぁ。一人暮らしなのかな?こんなイケメンで彼女いないのもありえないし彼女いてもウサギは飼えるか。俺もニートの時に寂しいと思ったけど動物を飼える程心の余裕がなかったな。逆に何か飼って育てる親心が芽生えた方が社会復帰する気持ちになるのが早かったかもしれないな。だけどそれでも気力出なかったら動物と共倒れになるからそれは可哀想だな。
「こちらが今日ペンダントを持って来てくれてる……」
「太田曜子です。はじめまして」
曜子はソファから立ち上がって挨拶した。こういう所が「ども」とか聞こえないような小さい声で挨拶する子達より好感を持てるところだ。育ちなのか性格なのか本人の意思なのか。
豚平さんが来て揃ったところで梓さんは紅茶を淹れてくれていた。
五人は全員ソファに座ってテーブルの上に置かれたペンダントを眺めてながら色々意見を交わしていた。その中でも豚平さんは随分興味を示していた。
「美しい石だね。とても美しい。おばあちゃんに戴いたんだっけ?」
「はい。おばあちゃんもおばあちゃんから貰ったって言ってました」
んー、というウネリのような言葉にならない声をだしながら手に持ってじっと見つめている豚平さんの眼差しは鋭かった。この眼で見つめられたらイケメン好きの女性は皆クラクラするだろうな。黙って名乗らなければって前提だが。
「ちょっと調べたいんだけど、暫く貸して欲しいって言えば迷惑かな?」
「えー?お貸しするのですか?穴開けたりしないですよね?」
「大切に扱うよ。そうそれはまるで生まれたての赤ん坊のように、大人の階段を上る初めての夜のように、言葉では拒否するも身体が許してしまう本能の……」
「止めろ。処女と童貞には刺激が強すぎる」
フゴッ!と悲鳴を吐き出しながら梓さんの特殊武器で豚平さんの顔面はソファの裏にまで届くかのように仰け反っていた。
「フッ。水沢ちゃんは相変わらず顔に似合わず手が早い。君が夜に別人になる……いや僕が別人にさせてみたい、魅力が収まりきれていないその身体を濃縮された僕の……」
フゴゴッ!!再び特殊武器で顔面を強打された豚平さんはその後なんども強打されて鼻血が止まらなくなって洗面所に走って行った。少し涙目だった。
「いいのか?ペンダント」
「うーん、ちょっと無いと不安だけどウタルのお仕事に協力できるなら暫く我慢するよ」
「良い子だねぇ曜子ちゃんは」
「それより無くさないでくださいね。ちゃんと返してくれるんですか?豚平さんは大丈夫なんですか?」
「豚平なら大丈夫。俺が保証するよ」
所長は随分豚平さんのことを信用しているよだった。
「それより今度直島に旅行に行くって聞いたんだけどそっちの方が心配で、保護者として俺も参加して三人で同じ部屋に泊まろうかと思っているんだが」
「所長ー」
俺が制止しようとしたが豚平さんと同じように梓さんの特殊武器で顔面が仰け反る程強打されていた。毎回思うがこの大きな特殊武器をどこに隠し持っているのだろうか。
「梓さんは下ネタに厳しいですね」
「時と場合による。今日はお前ら子供がいるからな」
「俺も子供の部類っすか」
「童貞だろ?」
時が止まった瞬間だった。どれほど止まったかは人それぞれの感覚に誤差があるだろう。
「けど、豚平さんのスキンシップには寛大でしたね。行き過ぎたセリフは制止してましたけど」
止まった時を再び動かすように曜子が口火を切った。
「豚平は見た目がアレだろ?コスプレ仲間として見栄えがいいから連れて行ったりしてるんだ。黙ってたらイケメンだからな、他のレイヤーにも一目置かれたりして便利なんだよ」
「僕の美しい経歴について熱いトークが繰り広げられているのかい?」
鼻にティッシュを詰めてようやく鼻血が止まった豚平さんが洗面所から戻ってきた。
「それに豚平は女に興味ないんだよ」
「興味ないことはないよ。美しいもの全てに興味があるだけなんだ。女性というカテゴリーに拘らず美しければ男性でも女性でも関係ないってことだよ」
「つまり両性愛なんだよ。だからって訳ではないんだが不思議と豚平に胸やお尻を触られても何も思わないんだ。かと言ってこのイケメンに興味が全くない訳でもないんだがな。自分でもよくわからないんだ」
「美しいってことは罪深きことだね水沢ちゃん」
「と言うことは、男性にも同じようにお尻触ったりしてるんですか?」
「もちろん!僕が美しいと思ったら男も女も関係ないよ」
「けど、普通の男性にお尻触ったら嫌がられません?」
「そうなんだよ。美しいから触っているのに拒絶するなんて理解に苦しむよ」
これは相手の方が理解に苦しむだろうが、世の中に同じように苦しむ人は俺が知らないだけで少なくないんだろうな。
「全く同感だ!美しいから触れているのに拒絶するなんて理解できないね」
所長は真剣な顔でそう言いながら梓さんの太ももを撫で撫でして案の定鼻血が出るほど壁にふっ飛ばされていた。まさに美しいと思う人と思われても困る人との温度差の結末を目の前で見せられているようだった。
第二章 終わり
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