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8話 久しぶりの学校生活か……

「っ……今度はどこだ?」


 頭から転んでぶつけたせいかまだ頭痛がする気がする。転んだのはソフィアの体なのに。多分今回も違う誰かに入れ替わっているのだろうに痛みは残るのか。


 俺はベッドから起き上がり部屋の中を見渡した。全く知らない部屋だ。だが、洋風の普通の一般住宅といえるだろう。俺は鏡を探した。

キャラを判別する上で容姿というのは最重要項目であるからだ。鏡はすぐ見つかった。手鏡が机の上に置いてあったからだ。

少し期待しながら俺は鏡を覗き込んだ。だが、鏡に中にいたのは冴えない顔をした少年だった。流石にイケメンとは言えない。


「さて、顔は分かったがこいつが何者か調べないとな」


俺はこの冴えない少年の机を片っ端から調べた。すると、一冊の日記が見つかる。マメな男のようで1日も欠かさず書いているようだ。


他人のプライベートを覗くようで悪い気はしたが日記を読んでみた。どうやらこの少年はソフィアと同級生のようで彼女に片思いをしているらしい。


日記の中身は日々の出来事ではなくソフィアへの愛の言葉で埋められていて俺は何とも言えない気持ちになり日記を閉じた。


「シリル!早くしないと遅刻よ!」


この少年の母の声だろうか。家の中にうるさいほど響く女性の声が聞こえた。


そろそろ学校に行かなければならない時間帯なのだろうか。生憎学校に行く支度など分からない。無造作に置かれていた制服に着替え適当なカバンを取って家を出た。


 国立魔法学園。確かそんなものがカラミティー・オンラインでイベントの一部として組み込まれていた。見覚えのある制服からするに俺が今回乗り移った少年はそこの中等部だろう。


俺もそのイベントをやった記憶はあるのだがいかんせんあやふやだ。どこに学園があるのか覚えていない。

一緒に登校している友達でもいないか探したがそのような人は見当たらなかった。結局学園を探し町中を走り回った。

デカイ建物だったから見つかるには見つかったが俺が校門をくぐったのは始業時間から一時間も過ぎた後だった。


学園の校舎はファンタジー色が強くまるで城のようだった。


そんな学校とは思えない豪華な校舎を見上げていると一人の眼鏡をかけた教師に注意された。こんな時間に何している。早く教室に入りなさいと。


しかし、教室に入ろうにも自分が何年何組なのかも分からない。呆れた教師に自分の名前を伝え学年と組を調べてもらうのにまた三十分ほどの時間がかかった。


この体の少年、シリルに遅刻のことを申し訳なく思いつつも俺は教室の扉を開けた。


今は休み時間のようで多くの生徒が友達と喋ったり思い思いのことをそれぞれがしている。中でもソフィアの周りには沢山の生徒が集まっていた。

昨日盗賊に襲われたこともあるのだろうが素の人気も凄いようだ。対してこのシリルには誰も話しかけてこない。いわゆるボッチというやつだ。

盛り上がる教室の中で一人だけ浮いているような感覚。それは俺の短い高校生活を思い出させた。


「おい、シリル。随分遅刻してきたなぁ」


そんな中一人だけ俺に話しかけてくる男子生徒がいた。シリルの友達なのだろうが彼も影の薄いモブのような雰囲気を醸し出していた。


「えーと、お前名前なんだっけ?すまん、ど忘れした」


「おいおい、どうしたディオンだよディオン」


「それよりさ、ソフィアちゃん、昨日大変だったらしいな。あまりの怖さに昨日の記憶無いらしいぜ。なあ、シリル。お前が好きなソフィアちゃんに話しかけるチャンスじゃないのか?」


ニヤニヤしながらそんなことを言うが無理に決まってる。見たところソフィアは人気なようだしシリルには可哀想だがチャンスはないと確信を持って言える。


「……まあ、考えておくよ」


苦笑いを浮かべながらそう返すとディオンはさらにグイグイきた。


「何だよ。随分弱気だな。いいか?ここは勇気を出して押して押して押しまくる時なんだ。シリル、恐れていては恋は始まらないぞ?」


ドヤ顔で親指を立てているこいつは何様なのだろう。若干腹立つが楽しくもあった。


「じゃあ、見本見せてくれよ。ほら、押して押して押しまくる見本を!」


「い、いやー、俺はそのアレだから。見る専門だから」


「見る専門って何だよ……」


この世界に来てからゲームのキャラになっているからなのか苦手だった会話がなぜかできる。そのことにちょっと嬉しく思いつつ俺は休み時間を過ごした。


くだらない会話をディオンと続けていると結構な時間が経っていた。次は移動教室のようで周りの生徒は皆居なくなっていた。そういえば俺は次の時間割すら知らなかった。黒板の横に貼ってあった時間割を見ると王国史、魔法科学、魔法史、魔法実技と書かれていた。


「えーと、ディオン、次の授業何?」


「王国史は終わったから魔法科学だな。ハハ、残り三時間全部お前の苦手な科目じゃん。ソフィアちゃんへのアピール作戦は失敗だな」


「あ、ああ」


そのアピール作戦はいつ出来たのだろう。話半分に流しながら俺とディオンは魔法科学の授業が行われる実験室へ向かった。


実験室にはすでに全ての生徒が集まっていた。まだ授業は始まっていないもののガラガラと扉が開いたとき多くの視線が俺たちに集まった。あれほど騒がしかったディオンはすっかり萎縮してしまっている。


「シリル君、ディオン君。早く席につきなさい」


実験室は四人がけの机がいくつか並べられていてそこにグループ毎に座っているようだった。無論グループなんて分からなかったがディオンとは同じグループだったようで俺とディオンは実験室の端の方の机に並んで座った。


机の上には白い大きめのトレーが置かれている。その上には色々な植物や液体が入れられた試験管が雑多に積まれていた。全てゲームで見たことがあるものだった。


それにしても薬草と毒草が入り混じっていて衛生上大丈夫なのかとは思ったが。


「えー、それではグループごとにポーション作成を行ってもらう。完成次第前に持ってきてくれ。


使った時の効果が高かった順に成績をつける。それと、十班!頼むから今度こそまともなものを作ってくれ!先日は異臭騒ぎで大変だったからな……」


「十班は毒液作りのスペシャリストですからねー。全く我々一班のようにもっと商品レベルのポーションを作って欲しいものです」


教師と一班の班長の言葉にクスクスと笑い声が起きる。このグループ分けというのは完全に成績順のようで俺やディオンの班、十班は最も下の班らしい。その分差別対象にもなるようで十班内はあまりいい空気ではない。


 周りの班はテキパキと作業を開始したが十班は中々作業が始まらない。俺の真向かいに座った眼鏡を掛けた女子生徒、シンディはさっきからオドオドとして何もしようとしない。


ディオンは休み時間と打って変わって何も喋らずディオンの向かいの柄の悪い女子生徒、エノーラに至っては机の上に足を乗せ周囲を威嚇している。まとまりが欠けらもない班だ。


俺もこういう場でリーダーシップを取るのは苦手なんだが勝手にシリルの体を乗っ取ってる身だしここは頑張らなくちゃな。

ま、ポーションの合成なんて飽きるほどやったしレシピも頭の中に入ってる。それなりには出来るだろう。


「よし!俺らもそろそろ始めるぞ。まずシンディは分量通りに今回使う薬草を量りとってくれ。俺ははその薬草をすり潰す。エノーラもディオンを手伝ってくれ」


俺の指示に合わせてディオンとシンディが慌ただしく動き出した。しかし、エノーラは頑なに動かない。


「……アタシに命令するな」


そう言って視線も合わせず無視し続ける。どうしたものかと思案しつつも俺は言葉を巡らせた。


俺の久しぶりの学校生活はどうなるのだろうか……

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