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4話 モテる女はつらいわね?

「はぁ、疲れたわね。エリス、水飲む?」


「ええ、もらうわ」


あらかた手当ても終わりオリーヴと休憩をすることにした。レグリオンに群がっていた女性たちは相変わらずほとんど仕事をしなかったためほぼオリーブと俺の二人で手当てをすることになった。


おかげでもう空は少し白みがかっている。俺の心配通り徹夜になってしまった。しかし、爽やかな朝の風が徹夜の疲労を吹き飛ばしてくれた。水を飲み干して俺は立ち上がった。


「ねえ、あいつら帰ってるじゃない!ふざけんじゃないわよ!」


オリーヴが指差す方向を見るとレグリオンの周りにいた女性たちはいつの間にか、消えていた。


どことなく一人眠るレグリオンの姿が寂しそうに見えたが今はそんなことより仮眠を取りたい。


診療所内の布団を探していると突然、くぐもったうめき声が聞こえた。


「どうされましたか!?」


駆けつけた先にいたのはレグリオンだった。苦しそうに胸を押さえベッドの上で小さくなっている。


「何でよ!?あんたあの女たちに手厚く看護してもらったんじゃないの?」


オリーヴの叫びはもっともだ。あんなに大勢がレグリオンを見ていたのに何でこうなるまで放っておいたのだろうか。しかし、それもしょうがないだろう。


「これ、ラーク・ビーが持っている遅行性の毒だわ。魔物の襲撃の時に刺されたのかもしれないわね……」


あのときは必死すぎて覚えていないがあれほどの大群ならラーク・ビーが紛れ込んでいてもおかしくない。


ラーク・ビーは超極小の蜂のような魔物でその針に刺されると状態異常である毒にかかる。


問題なのはその毒の発症がゲームにしてはやたら遅れるのだ。そのの小ささも相まって町を歩いてたらもうHPが1割を切っていて慌てて回復するなんてことがゲームではザラにあった。


「ええ!?どうすんの!?解毒用のポーションなんて持ってきてないわよ!」


「行ける、かな?」


「え?」


俺はゲームのスキル、魔法全般を覚えている。その中には当然、解毒魔法も含まれている。


しかし、使えるかどうかは別だ。知識として知っていようが肝心のキャラクター自身がその魔法を覚えていなかったらどうあがこうが使えないのがゲームというものだ。


だが、あのとき俺は弱いはずのレグリオンの体でスパイラルスピアーを使えた。もしかしたら……


「彼に毒からの解放と癒しを!ヒールポイズン!!」


レグリオンに当てた両手から魔法の独特の青白い光が溢れる。その光はレグリオンに吸い込まれるようにして消えていった。少しばかりこわばんだ顔を緩めるとレグリオンは気を失った。


「まだ体力が戻っていないようね……。オリーヴ、ポーションちょうだい」


オリーブは鮮やかな赤色をした液体が入った瓶を差し出した。これほどにもポーションらしいポーションはないだろう。


「え、あ、はい」


渡されたポーションを口に含めると意を決して俺はレグリオンの口にそれを移した。


「ンン、ンン……プハッ……マジで最悪」


ファーストキスをこんなうっとうしいやつに、それも男にくれてやるなど吐き気がしてくる。

が、それ以上に自分のせいで一人の男が死んでしまう方がもっと嫌だった。


「ヒュー、大胆ね、エリス」


「茶化さないでちょうだい。もうホント仕方なくだから、……あ」


もうレグリオンの目は覚めていた。それよりもコイツの目が謎に輝いていることに嫌な気がする。


「ありがとうございます!!薄れゆく意識の中でもはっきり分かりました!あなたが私の命の恩人だということを!」


感謝してくれるのは嬉しいが少し、いやだいぶ鬱陶しい。


「そ、それでも驚きました。まさかあんな寝込みを襲うような……いや、それでも嬉しかったんですが……」


コイツ……!口移し(あのこと)覚えてやがんのか!

くねくねしながら照れるレグリオンに羞恥心から殺意が湧いてきた。


「ですが!ご覧の通り元気になりましたよ!あ、そうだ!これからカフェに行きませんか!どんなものでも奢りますよ!」


急に起き上がったレグリオンが俺の手を強引に引っ張り診療所から連れ出された。オリーヴに助けを求めたがニヤニヤして何もしてくれなかった。


結局、俺はカフェに連れて来られた。そして、オープンテラスの席に座らされた。


このカフェは城下町にあるもので、かなりオシャレに作られていた。だとしても。こんな興奮したバカと二人っきりなんて冗談じゃない。


「あの、離してください。私そういうつもりであなたを助けたわけではないので」


絶対零度の冷たい視線をぶつけそう冷静に断ってもレグリオンは止まらない。


「いいじゃないですか!ほんのちょっとでいいんで!」


「離してください!」


「そこを何とか!」


そんなとき見覚えある人物がやってきた。


「よぉ、レグリオン!お前も診療所出れたのか!いや〜羨ましかったなー。お前ハーレムだったじゃん!……ん?」


彼は確かジョンという門番だ。レグリオンの時に会った印象では気さくな男だったが、今彼は眉間にしわを寄せレグリオンを睨んでいる。


「お前!嫌がる女性を無理矢理になんて人としてどうなんだ!?」


至極正論でジョンはレグリオンを責めた。


「止めてくれるな!ここで止めれば男が廃る!」


「それは犯行を認めたということで良いのか!?」


徐々に言い合いがヒートアップしていき最終的にジョンは強姦未遂で憲兵に突き出すとまで言いだした。

一応、被害者のはずの俺だが何故か蚊帳の外に追い出されている。


「あ、あのー、そんなに大事にしなくていいのでそのバカを連れ帰ってくれると嬉しいです」


とりあえずその場から早く去りたかった俺はそうジョンに提案した。


「あと、レグリオンさん。それでももう二度と近寄らないでくださいね」


俺じゃない本当のエリスのために俺は一言付け加えておいた。


元のレグリオンがここまでのアホだとは想定していなかった。 何で俺はこんなやつを英雄にしてしまったんだろう……?


ジョンに引きずられながらレグリオンが「僕はまだ諦めていませんよーー!!!」と叫んでいた。頼むからもう会いたくない。


「はぁ、何とも濃い1日だった。って今から1日始まるのか……」


しょぼしょぼした目をこすりながら俺は一人冒険者ギルドに帰る。


朝日があまりに眩しかった。


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