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ゲーマーの俺に課せられた「意識が切り替わるたび違うNPCに乗り移る」という試練  作者: 青空啓一
2章 とうとう帰れる日が近づいてきたかもしれない
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28話 巫女に会うために


巫女はとある神殿に一人いる。その神殿は大陸の南端の鬱蒼とした森の中心に位置する聖域に置かれている。


ストーリーの終盤に訪れるエリアのため、もちろんスタート地点であるトレントからはとてもじゃないが行けないのだが……


『ディメンションゲート』という

魔法の力があれば一瞬であった。魔力で形作られた次元の門、言ってしまえばどこ○もドアがその途方も無い距離をゼロにする。


俺に続いて幼女の姿をした波瑠、そして、不思議そうに門を眺めるルミナが出てきた。


……二人は気づいていないが俺はこの魔法がちゃんと成功するか内心ビビり倒していた。


ディメンションゲートは自分が直接行ったことのある場所を繋ぐ魔法。


ゲーム内では攻略のため何回行ったことがあるがもちろんこの世界では一度も行ったことがない。


だから、全く別の場所に放り出されたらどうしようとビクビクしていたが、どうやら杞憂だったようだ。


ルミナはもちろん波瑠もこの森に来たことがないらしく、こんな場所あったっけと首を傾げていた。


全員出たのを確認して俺は魔法の扉を閉じようとそちらを見た。扉の向こうにはあんぐりと口を開けた助手がいる。……言い訳すら思いつかずそっと閉じた。


「あー、突然なことで二人とも驚いているだろうが、ここは大陸の南端の森の中だ。今から中心の聖域を目指すんだけど……」


「ねえ……、暑すぎない……?」


さっきまで興味津々と森を見渡していたルミナだが、今ではぐったりしている。

あの幼女に至っては服が汚れるのも気にせず地面に寝転がっている。それお前の服じゃないからな。


「そういえばそんな()()があったか……」


この森は熱帯雨林、いわゆるジャングルという設定であった。

ゲームとして探索してる上で暑さなんて伝わるはずもなく、現実として体感するまで忘れていた。


「啓太、一旦トレントに戻りましょ……。もう無理。限界」


寝転がったまま波瑠が言う。……まあ、こいつの言うとおりだな。


ディメンションゲートを使おうとする。だが、何も起きない。それどころか疲労が増すばかりだ。


「最悪だ……」


「ちょっとどうしたのよ?」


「魔力切れた……」


この世界に来ており底無しだった魔力がとうとう切れた。ディメンションゲートは、距離に応じて指数関数並みに魔力の消費量が上がる使い勝手の悪い魔法。

ゲーム内でもやったことのないスタート地点のトレントと大陸南端を結ぶディメンションゲートは、相当魔力を使ったようだ。


「波瑠は出来ないのか?」


「あんな効率の悪い魔法覚えてるわけないでしょ。転移石で十分よ」


「でも、転移石は……」


「持ってない……」


「だよな」


俺も波瑠の隣に座り込む。猛暑が思考すらも奪い、二人で死人のようにグッタリする。


「ちょっと二人とも!とにかく進まなきゃ何も始まらないでしょ」


ルミナはまだ活力があるようで、俺たちを励ます。


ただ、俺はもう一つ大きな間違いを犯してたんだよな……。


「無理だ、ルミナ。下手に動いたら魔物に狙われる。あぁ、なんでその場のノリでこんなとこ来てしまったんだ、まともな装備なしで行けるわけねえだろ、おれ……」


ここはストーリー終盤のフィールドだ。もちろん出てくる魔物もそれ相応な強力なものが出てくる。

いくらなんでも装備が無ければ戦えない。しかも、こんな深い森で奇襲でもされたら目も当てられない。


「ああ、私はここで死ぬのね……、呪ってやるわ、岸田啓太」


「俺も自分を呪いたい……」


完全に諦めムードの俺と波瑠。しかし、ルミナの瞳は依然として決意に燃えている。汗はダラダラと流しているが……。


「……あの木は結構弾力性があるし弓が作れそうね。弦は大量にある蔦を使えばいいし、矢も何とか作れそう」


そう言ってルミナは黙々と作業を始めた。彼女は短刀も常備しているようだ。


俺と波瑠がボーッと眺めている内にルミナは一つの簡易な弓矢を作り上げた。


すごい、すごいのだが、流石にそんな弓矢ではここの魔物は倒せない。気休め程度にはなるかもしれないが……。


すると、ルミナが俺たちに向かって弓を構えた。


そ、そんなにダラダラする俺たちに怒っていたのか。


言い訳を考えている間にも、ルミナは弦を引き絞り一心に狙いを付ける。


あ、俺たち死ぬわ。波瑠もそう感じたようで震えている。が、二人とも逃げようとはしない。インドアの根性のなさを舐めるなよ。


限界まで引かれた弦が解放され矢が高速で飛び出す。思わず目を閉じると、背後からナニカの咆哮が響いた。

かなり近くで。瞬間、ヒュッという風切り音が俺と波瑠の間を通過する。

そして、咆哮の代わりにくぐもった呻き声がした。


恐る恐る俺は目を開け振り返った。そこにいたのは曲がった角が三本も生えた黒い虎の化け物の()()

『デスタイガー』というこの森では最強格の魔物だ。それが脳天に矢が突き刺さり絶命している。


恐らく俺と波瑠を狙ったであろうデスタイガーは獲物を目前にして仕留められた、彼女に。


「うん!結構使えるわね、これ」


そう笑顔を浮かべたルミナはデスタイガーに歩み寄り矢を引き抜いた。


「折れてないしもう一回使えるよね?」


俺、ゲームでこの森来た時ミスリルの剣でデスタイガー挑んだんだよね。それでも弾かれんたりしたんだよね。それが何よ、その矢。石の鏃じゃん。


……ルミナさんには逆らいません。未だ震える波瑠も俺と同意見のようだ。


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