25話 俺があの日に握ったコントローラーの重みは……
「……んあ?どこだ……、ここ」
周りを見渡すと、とても現代日本とは思えない古びた木造家屋。俺は再びカラミティオンラインの世界に戻って来たようだ。
「やっぱり寝たら体が入れ替わるのは継続中か」
とりあえず体を起こしベットから降りた。この体は白衣を着ているようだ。医者に入れ替わったのかと思ったが、鏡を見てそうではないと気がついた。
「こいつか……」
ボサボサの茶髪にゲームらしいグルグルメガネ、そして、ボロボロの白衣。カラミティオンラインでは割と重要な歴史研究家のNPCだ。
様々な伝承や古文書、預言書などを研究している彼の研究を聞くと、それに伴う様々なクエストのフラグが立つのだ。ただそれこそ伝説級のモンスターが相手なので、その難易度も到底クリアできるレベルではない。それゆえか彼の研究からつながるクエストのことを彼の名を冠してヘンリー級クエストと呼ばれプレイヤー達から恐れられている。
なんと俺がやり損ねた魔王討伐のクエストですらヘンリー級クエストだ。
「ヘンリー先生!いつまで寝てるんですか!さっさっと論文書き上げてくだ……、へ、ヘンリー先生がもう起きている……?」
そういえばヘンリーは相当に朝が弱いという設定があったことを思い出した。夕方にならないと彼に会えないほどだ。
だからだろう。ヘンリーの助手らしき人物は大げさに驚いている。しかし論文と言われてもヘンリーじゃない俺にはどうしようもないが……。
ふと俺は机に無造作に置かれていた大量の資料に目を通した。大体知っているものばかりだ。当然といえば当然だ。カラミティオンラインの設定資料をネットでほぼ読み通したからだ。……まあ、引きこもりで暇だったとはいえもっと他にやることあっただろって自分でも思う。
しかし、これで論文に関してもどうにかなりそうだ。論文の書き方なんて分からないが、そのままコピペしたら大丈夫だろう。いや、俺何でそんなに覚えてるんだろう。
助手は集中したいからと言って部屋から追い出した。色々残念なとこがあるヘンリーだが、知識量は物凄いし頭の回転も早いので、 正直ボロが出ると思ったからだ。
「にしても、こんなに大量に資料を集めて整理とか出来るのか?……ん?」
資料の山の中から二つ全く見たことがない資料を見つけた。
『初代魔王封印論』、『異界の救世主論』というものだ。両方ともヘンリーが書いた研究発表らしい。この二つに関してはどんなストーリー、イベントにも出ていないし設定資料にも描かれていない。
『救世主予言論』に関しては情報が一切ないから何とも言えないが、『初代魔王封印論』に関してはストーリーとの矛盾を感じた。
俺の知ってるストーリーではカラミティオンラインで描かれる魔王は二人いる。初代魔王とその意思を受け継いだ二世だ。初代魔王は封印などではなく完全に殺されたとヘンリー自身が語っていたはずだ。
何かがおかしい。俺は『初代魔王封印論』を手に取り目を通した。しかし、全く解読できなかった。内容の難解さもさることながら、何より文章の書き方がめちゃくちゃだ。『異界の救世主論』も同じような感じで俺には読めなかった。
……仕方ない、助手に聞こう。書いた本人が助手に内容を聞くってのは怪しすぎるが、背に腹は代えられない。
部屋から出ようと扉の前まで行くと急にノックされた。……正直ビビった。
「ど、どなたでしょうか?」
恐る恐る扉を開けるとそこにいたのはルミナだった。
「啓太!」
出るなり急にルミナが俺に抱きついて来た。
「無事で良かった……!」
……いやまあ美少女に抱きつかれて嬉しくないなんてことはないんだが、何でヘンリーが俺って分かるんだよ。何で場所分かるんだよ。そのことに若干恐怖しつつもルミナに昨日のことを話した。
「ところで、ルミナはこの文章読めるか?」
「?大体わかるけど……」
何とこの暗号並みの資料をルミナは読めるようだ。
その後、ルミナと協力して『初代魔王封印論』と『異界の救世主論』を解読?した。
結果、この二つには少し関連性があることがわかった。
まず『初代魔王封印論』は初代の魔王は殺されたのではなく一千年前何者かに封印されたのだという説を各地の伝承や文献を出しつつ書かれていた。そして『異界の救世主論』、では同じ一千年前に神が異世界から救世主を召喚したという辺境に残る伝説について掘り下げている。
ヘンリーはこの救世主こそが魔王を封印した人物だと記している。
俺はヘンリーが辺境で入手したという救世主の絵を見つめた。すごく抽象的な絵だ。救世主が巨大な影(ヘンリーが言うには魔王)と対峙しているという絵らしいが、救世主自体も性別不明の人影として描かれている。そのせいで影と影がぶつかっているだけの意味が分からない絵になっていた。
そして、『異界の救世主論』は何とも不吉な文章で締めくくられていた。
『魔王封印より一千年、各地で魔物の大発生や悪魔の台頭など数々の前兆はもう姿を現している。私が訪れたある村では今の時代を再来の時代と呼んでいるそうだ。それが魔王の復活を表すのか、あるいは……』
俺はそこでうっすらと勘づいた。
もう魔王は復活していて神が俺たち(雷族)を呼んだということを。
「へー、ヘンリー先生も研究室に女性を連れ込むなんてやる事やってんですねー、……クソが」
考え事をしていると助手が部屋に入っている事に気づけなかった。
彼の漏れてしまった本音に関してはそっとしておこう。第一、俺とルミナはそういう関係じゃないしな。ルミナの方を見ると顔を赤くして俯いていた。……そういう関係じゃないよな?
一旦、思考を変えようと助手に気になっていたことを聞いてみた。
「この二つの研究について君はどう思う?」
「先生、まだそんなもの残していたんですか?学会で思いっきり批判されてたじゃないですか……」
やはりヘンリーの二つの研究は世間には認められてないようだ。そうでもなければ今頃大パニックになっているはずだ。
しかし、色々とんでもないことが明らかになってきた。頭を抱えたい気分だが、またノックの音がした。
入ってきたのは一冊の絵本を持った幼女。
「ヘンリーに乗り移るって結構レアなとこ引いたわね!」
まあ、波瑠だな……。