19話 俺はとうとうロリ少女になる
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「いった……くない」
目を覚ますと俺はソファーに座っていた。手にはクマのぬいぐるみがあった。ふわふわのキャラメル色の毛とつややかな黒いボタン、クリクリした愛くるしい目とどこにでもありそうな可愛いぬいぐるみだが、どこか目を引く不思議さがあった。
どうやらこの体の持ち主はぬいぐるみを抱きしめながらソファーでうたた寝していたのだろう。多分、いや絶対女の子だろう。
「あら、目が覚めたのね、マヤ」
一人の女性が部屋に入ってきた。この子の母親だろう。一応外見の確認をしようと俺は部屋にあった鏡の前に立った。やっぱり俺が今度乗り移ったのは女の子だった。足首まである丈の長いワンピースを着ている。容姿は結構整っている。ゲームキャラってみんな顔綺麗だよな。
「どうしたの?鏡とにらめっこして」
「ああ、別になんでもない。ちょっと遊びにいってくるね」
「全く忙しない子ね。早く帰ってくるのよ」
呆れるような視線を向ける母親を尻目に俺は家を出た。なんだかついさっき見た風景だ。
「ああ、あれか。さっきのレオって子の向かいの家なのか」
俺が直前に乗り移っていたレオという少年の家の真向かいにこのマヤは住んでいるようだ。もしかしたら関係があるのかもしれないな。
とにかく俺はいつもどおりルミナと合流しようとあの豪邸に向かった。
「あ、靴紐ほどけてる」
俺はしゃがんで靴紐を結び直した。そして立ち上がろうとしたとき俺は慣れないワンピースの裾を踏んで転んでしまった。ちょっと腕から血が出てる。後で人がいない時に回復魔法をかけようと思っていたら一人の女性が必死の形相で駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
「あー、うん」
どうせ後で治すから適当な返事をしておくと女性はどんどんヒートアップしていく。
「まあ、血が出てるじゃない!!ダメよ、女の子なんだから傷なんて残しちゃ!今から私が行くところで手当してもらいましょう」
そう言い終わらないうちに女性は俺を抱きかかえた。しかも、お姫様抱っこだ。思わず恥ずかしさでそっぽを向いてしまった。多分顔も赤くなっているだろう。
「照れちゃって可愛い……。ふふ、これくらいの役得いいわよね?」
「?」
女性が何か言ったようだが聞き取れなかった。彼女の顔を見ると何故か頰が緩んでいる。不思議に思いつつも俺は何も言わなかった。
「ところでどこに行くの?」
「ルミナって人のおうちよ。すごく大きいからきっとお金持ちの人よ」
ルミナ、思いがけない知り合いの名前に驚く。だが、そういえばルミナに貼らせに行った人探しの張り紙には確かこう書いた。「カラミティオンライン、これに聞き覚えのある人は北にある私の家へ来てください。
ルミナ」と。もしかしたら彼女は例のもう一人の現実の人間なのかもしれない。
「ふふふ、マヤちゃんってお人形さんみたいよねえ……」
女性の鼻息が荒くなり目も妖しいものに変わっている。もしかしてあれだろうか。ロから始まる幼女が好きな特殊な性癖の方なのだろうか。そういえばさっき転んだときもやけにやってくるのが早かったし名前も教えた記憶がない。疑わしい点が多すぎる……。
この人がもし俺と同じように誰かに乗り移っているとして元の性別が男だったらどうしよう。背筋に悪寒が走る。とんでもないやつを呼んでしまったかもしれない……。
そんなことを考えながらも女性は俺を抱いたままどんどん先に進んでいく。川にかかった橋を渡ればもう俺たちの豪邸が見えてきた。
女性は俺を一旦立たせるとあの重い扉を開けとうとう敷地に入った。ようやく恥ずかしい思いをしなくて済むと思ったら女性は俺を素早く捕まえると再びお姫様抱っこをし始めた。さっきからずっとハアハア言っていて怖すぎる。早くルミナに会って二人きりの状態を解消したい。
女性が玄関の扉をノックするとすぐに扉が開いた。そこにはなぜか涙目のルミナが立っていた。
「啓太!」
ルミナは俺に抱きついてきた。大粒の涙が頭に当たる。なぜ女の子の格好をしている俺を俺と分かったのかは分からなかったが、何かただならぬ気配を感じて俺は彼女を抱き返した。俺はここにいるよと伝えるため。
いくらかの間そうしているとようやくルミナも落ち着いたようで涙の理由を話し始めた。
「……グスッ、あの男の子が起きないのよ。私のせいで……」
ルミナはまた泣き出してしまった。きっとルミナは子供の体ということもあって手加減したはずだ。魔法をかければ大丈夫だろう。それにしても見ず知らずの子にここまで泣けるなんてルミナはやはり心優しい人だと改めて思った。
「やれやれ、あんなに強く殴ったらそうなるよ。まあ、お前を煽った俺も悪かったけどな。それは謝るよ。あの男の子、レオはどこにいるんだ?」
その言葉に俺を連れてきた女性が目を見開いて驚いた。急に男みたいな喋り方をしだしたんだから当然だろう。まあそこらへんの話は後にしよう。今はレオのことが先決だ。
ルミナはいくつもあった部屋の一つにレオを運んでベッドに寝かせていた。息はしているから万が一のことはない。俺はレオの胸に手を当て回復魔法と意識を戻す魔法を併用した。
手から魔力の輝きが溢れてレオの胸に入っていく。あたりには優しい光が広がった。光が収まったときレオはゆっくりと目を覚ました。
「ん……、ここどこ?あれ?マヤちゃん??」
見知らぬところで目を覚まし驚いているだろうレオに俺は今度は睡眠の魔法をかけた。ものの数秒でレオはまた寝息を立て始めた。
「なんで寝かしちゃうのよ!」
ルミナは声を上げて怒ったが俺も
「こんなこと覚えられたら困るだろうが!」
とビシッと指を指して怒鳴りかえした。まあ、外見と声は幼女なんだし迫力はないだろうが。
とにかく大事にならなくて良かった。え?ロリコン野郎?俺らを遠巻きに見ながら「ショタもいいけどやっぱり幼女よねえ……」と呟いていて恐怖を感じた以外特に何もなかったよ。
ルミナは今になってようやく女性に気づいたようでちょっと恥ずかしそうにしながら自己紹介をした。
「私はルミナよ。この家の主人ってところかしら。あなたは?」
「分からない」
「え?」
ルミナは呆気に取られたように聞き返した。記憶喪失とかを疑っているのかもしれないが多分そうじゃない。
「あー、えっとねえ、名前はあるにはあるんだけど、今の自分の名前じゃないというか。んー、説明しにくいな」
「本当の名前を教えてくれ。現実での、な」
女性はさっき俺が男の言葉を使っていたのを思い出したのか納得したような顔を見せた。
「……あなたもそうだったわね。いいわ、私は神田波瑠。多分あなたと同じ日本人、で、あのカラミティオンラインのプレイヤー」
「岸田啓太だ。お前と同じようにカラミティオンラインのプレイヤーで三日ほどこの世界にいる。同じゲームに入り込んでしまった者同士協力しないか」
「いいわよ。私も結構不安だったし仲間が出来るのは心強いわ。だけど、一個だけやってほしいことがあるんだけど……」
「ん?」
波瑠がゆっくりと近づいてくる。顔が真っ赤でのぼせているかのような雰囲気だ。
「キス、させて……?」
すごく色っぽくて一瞬クラっとしたが絵面がまずいだろう!俺はダッシュで逃げた。
「ちょっとなんで離れるのよ〜。テレパシーのパス取るための仕方ない行為じゃない」
波瑠の体が一瞬ブレたかと思ったときまるで瞬間移動でもしたかのように俺の目の前に波瑠の体がありがっちりとホールドされていた。なんで無駄にハイスペックなんだ!?
「ふふ、両者合意だし別に良いわよね?」
な に い っ て や が る
二度目のキスは危険な味がした。
徐々にレギュラー出演するキャラクターが増えてきました(笑)