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18話 幼少期の頃の記憶


名も知らない誰かのツイートでおぼろげだが確かに手がかりが見えた。


とりあえず俺はルミナにpz4に『これに触るな。触れた瞬間爆発するぞ』と書くように頼んだ。


俺のアバターが勝手に歩いていたことからこれまでにもpz4を使った奴がいたのは明らかだ。何も知らないNPCに下手にいじられるより脅してでも何もさせない方がマシだろう。


今日のところはこれで終わり。俺はベッドのような何かに寝そべった。一応俺が自作したものなのだが完成度は悪い。別に俺は雑魚寝でいいんだが、今俺が入っているのはルミナの体だ。床にそのままというのも申し訳なく思えたからだ。


目を瞑ると頭の中で色々なことが思い浮かんでは消えて行く。このカラミティオンラインの世界のこと、これからどうすればいいのか、そして現実に残してきた家族や思い出。少し希望が見えてからかえって現実が恋しくなってきた。この世界に来てたったの三日間。されどあまりに色々なことが多すぎた。


思えば最初のレグリオンとして立ち向かった魔物の侵攻イベントだって下手をすれば死んでいたかもしれない。ただ乗り移っているだけなのだから俺の精神は残るかもしれない。けど、やっぱり死は怖い。


思考は深く沈んで行く。だが、結局はまどろみの中に消えていった。




朝だ。鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。相変わらず目を覚ましたのは知らない場所。しかし、変わったところはない。普通の家だ。

違うものといえば目線の高さだけ……。そう、今回の俺は子供になっていた。


時計に棚、目に映るあらゆるものが大きく見える。子供の頃って世界がこう見えていたのかちょっと驚いた。


クローゼットを漁ると子供服が大量に詰め込まれていたので適当なものを見繕うと俺は寝間着を脱いで着替え始めた。


すると、部屋の扉が開きなんとあのギルドの受付嬢のオリーブが出てきた。


「あら!レオちゃん!一人でお着替えできてるじゃない!」


どうやらオリーブは俺が乗り移った子の母親のようだ。どこか気の強そうだった雰囲気は消えていて完全に子に愛情を注ぐ母の顔だった。

やってしまったと思ったがオリーブは何も疑うような素振りは見せずえらいえらいと俺の頭を撫で始めた。少し恥ずかしかったが別に悪い気はしなかった。それどころか俺は母の温もりというものを感じ家族との思い出を回想した。


「レオちゃん?何か悲しいことがあったの?」


「……え?」


俺は泣いてるらしかった。とっさに俺は涙を拭った。


「いや、別に何もないよ?ちょっと目にゴミが入っただけ」


「そう?じゃあご飯食べよっか」


俺はオリーブについて歩き食卓に向かった。オリーブは俺を座らせると一人キッチンに立った。


料理が出来るのを待つ間、俺はさっきの涙のことを思い出していた。思いの外俺の精神は疲労していて家族の温もりといったものに飢えているのかもしれない。

だが、折角手掛かりが見つかったんだ。今ここで止まることは他でもない俺が許さない。気合いを入れようと俺は手で顔を叩いた。


「レオちゃん?もうちょっとで出来るからあと少し待ってね」


俺が急に顔を叩いたのを料理を催促してるのだと勘違いしてるのか母親がカウンターごしに俺に声を掛けた。今の俺の心を癒すような優しい声だった。まあ、今ばかりはちょっと心を休めようか。


料理が完成し母親が皿を運んで来た。平凡な朝食だが結構美味しそうだ。


その朝食は何でもないごく普通の時間だがとても温かく優しい時間だった。久しぶりに仮初めだが家族の温もりを感じ心の安らぎを取り戻した気がした。


「じゃあ、俺行くよ」


オリーブは不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んだ。


「どこに行くの?」


あ、俺子供だった。そりゃどこに行くか聞くよな。


「えーと、友達と遊びに!」


適当な理由をつけて俺は家を出た。目指すはルミナの住むあのボロ屋だ。俺は今良くも悪くも普通の家庭の子供に乗り移っている。だからか、俺がスラムの方向に走って行くのを周囲の大人は疑うような目つきで見てきた。しかし、こういう本来その人物が起こさない行動をした時の周囲の怪訝な視線にもう俺は慣れた。特に気にしないで例の家に前までやってきた。相変わらずボロボロの今にも壊れそうな家だ。だが、一つだけおかしいことがあった。「売」、そう書かれた張り紙が入り口に貼ってあるのだ。


「ん? こんなぼろ家でも俺の持ち家だぞ?」


良く見ると張り紙の下の方に手紙がとめられていた。


『啓太へ


この家はもう売り払ったわ。で、私たちの新しい家はこの街一番の豪邸よ!あの木に囲まれたお城みたいなところ!この手紙見たら早く来てね。


ルミナより』


ぼろ家を買ったあの日、迷ってその豪邸に行ってしまったことを俺は思い出した。その大きさと価格の高さに度肝を抜かれた記憶がある。いくらなんでもあの家は高すぎる。

俺は必死にあの豪邸に向かって走った。


案の定、門に貼られていた売り出し中の張り紙がなくなっている。ため息を吐きながら俺は門の扉を押した。獅子のレリーフがあしらわれた重厚なもので今の子供の力では少々重すぎた。俺は魔法でなんとか腕力を強化して門を開いた。


噴水のある広い庭を抜けて家に突入する。内装もやはり豪華だ。だが、あまりゴテゴテはしておらず品のある印象だ。


カツン、カツン。


目の前の大きな階段からドレスを纏った黒髪の美女が降りて来た。情熱的な赤を基調とした綺麗なドレスはその美女の美しさを際立てていた。


「誰?迷って入って来ちゃったの?」


思わず俺はルミナに見とれてしまっていた。


「俺だよ……。岸田啓太……」


赤くなった顔を見られないようにうつむきながら俺は自分の正体を告げた。


「ああ、啓太!やっと来たのね。遅かったわよ」


「って、この家とかそのドレスどうやって買ったんだよ!?」


「え?啓太いっぱいお金貯めてたでしょ?アレをちょっと拝借しただけよ」


俺が天界から盗んだ金のことをルミナは知っていたようだ。どうしてバレたのか不思議でしょうがない。


「じゃあ、いつこんな豪邸買ったんだよ!?こんな大きいんだしそれなりに時間かかるんじゃないのか!?」


「ついさっきよ。残っていた金貨を全部持っていたら即決してくれたわ。あそこまで大きいと維持費もすごいらしくてね誰も買ってくれないから不良物件?ってやつだったみたいよ。おまけにこのドレスもプレゼントしてくれたしあの不動産屋さんいい人だわ!」


完全に騙されてやがる……!いくら高いといっても残ってた金の三分の二ぐらいの価格だったのに全部取られるなんて……!


「……こんなに大きいのじゃなくても良かったんじゃないか?」


「だって啓太、豪邸でも買ってやるって言ってたじゃない。買ってくれなかったから自分で買っただけよ」


そう言うとルミナは頰を膨らませてそっぽを向いてしまった。え?俺が悪いの?


「もういいや……。とりあえずこれからの計画を話そう」


俺はルミナにルミナが見つけたツイートで分かった俺以外のカラミティオンラインに迷い込んだ人物を探すことを伝えた。手始めに町の掲示板に人探しの張り紙を貼るよう頼んでおいた。


追加でルミナにはとにかく働いて金を稼ぐよう命じた。ぶつぶつ言っていたが流石にあれだけの金を溶かしたのは許しがたい。


「ま、俺は乗り移った人の金があれば生きれるし〜?精々頑張ってくれたまえ」


ルミナにガチで殴られた。強キャラのスペックを存分に生かした一撃は重かった。ていうか体は子供なのに容赦ねえ……。あ、これやばいやつかもしれん。


徐々に意識が朦朧としてくる。足に力が入らず俺は転んでしまった。その衝撃で辛うじて耐えてた気合いもプツリと切れた。慌てて駆け寄ってくるルミナを横目に俺は意識を手放した。

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