14話 俺のファーストキスは……
俺はルミナを何もない家の中に入れ、適当にフローリングへと座る。
「で、あなた何でこの家をあげるだなんて言うの?私に対して何もしないとはいえ怪しすぎるわ」
ルミナは凍るような冷たい視線で俺を見ながらそう言う。
だがその通りだ。
俺だってこんな状況に出くわしたら一目散に逃げるだろう。逃げないだけでもルミナはすごいと思う。さすが強いキャラクターなんだなと俺は関心した。
「まぁまずは自己紹介だ。一応俺は岸田啓太というものだ」
俺は適当自己紹介を済ます。
だがつい間違えて一応という言葉を付けてしまった。
これではよりルミナに怪しまれるだけじゃないか。
「一応?怪しいわね。私の名前は……」
案の定ルミナは俺のことを怪しんだ。
「ルミナ!そんなに怪しまないでくれよ」
俺がそういった瞬間ボロ屋の空気は凍り付いた。
ゲーム内では親近感がわいていたためついつい名前で呼んでしまった。俺、終わったな。
かなり強いこのNPCが本気になれば俺は死んでしまうだろう。
だが少し気になることもある、この状態で死ねば別の人へ入れ替わるのだろうか。
だがそんな痛みは味わいたくないものだ。
「あなた!なんで私の名前を知っているの!?」
俺は目を泳がせる。何かないか、嘘でもいい、このままだと一生ルミナに信じてもらえなくなる。
「俺の固有魔法を使ったんだ。名前を読み取る魔法だ。あまり使い道はないがな」
そう、このカラミティオンラインには一人一人アバターを生成したときから、1000種類ある中からランダムで固有魔法が付く。
だが実際は名前を読み取る固有魔法なんてないのだ。
思いっきり嘘だ。だが1000種類もの固有魔法を全部覚えているやつなんて、俺レベルのゲーマーぐらいしかいないだろう。
「そうそんな固有魔法があったのね。それなら納得だわ。それでなぜこの家を?」
俺はルミナが納得してくれたことに安心する。
もしばれていれば今俺はどうなっていたかわからない。
さぁここからが本題だ。
「俺の話を聞いてくれないか?それで協力してもらいたい。それがこの家を渡す条件だ」
「分かったわ、それで話って?」
ルミナが食いついてきた。これはかなりの好感触だ。このまま俺の話を納得してもらえればいいんだが……
「実は俺、何者かに呪いをかけられたせいで意識を失ったり、寝たりすれば別の人の体に乗り移ってしまうんだ。今だってそうなんだ」
俺はこの奇妙な現象のことを呪いとして説明した。
だが実際呪いのようなものである。
「聞いたことのない呪い。それに複雑なもののようね。かなりの高等呪術だわ」
ルミナはすっかり俺の話を信じてくれたようだ。
だがまだ安心はできない。
「それでこの呪いを解くために手伝ってもらいたいんだ!」
「いいわ」
「だめなら豪邸だって買ってあげる!!」
「いいわ」
「だから頼む!!!」
「だからいいって言ってるでしょ!!」
俺は落ち着く。そして俺が一生懸命に頼んでいた時のルミナの言葉を思い出す。
豪邸を買うだなんて言っていないときにもいいと言っていたじゃないか!
俺はなんていう損をしたんだ!
「豪邸なんて買わなくたって了承してたのにね。でも買ってくれるのよね?ねっ?」
ルミナは俺に迫り圧迫してくる。
俺は少し後退りししぶしぶ了承する。
「少しはあなたのこと見直したわ!これからは啓太って呼んであげるわ」
「それならよかった。だが明日になれば俺はこの姿とは全く違う姿になってい待っているんだ。どうすればいい?」
俺はルミナとの関係も安定したところで新たな疑問がわいた。
「それならテレパシーを使えばいいわ」
テレパシー?そういえばそんなシステムがカラミティオンラインの中にはあった。
それはいわゆるチャットのようなものだ。
だが俺はこのシステムを利用したことはない。
なぜなら俺はぼっちだからだ。
リアルでもボッチな俺はゲーム内でもコミュニケーションの取り方が一切わからずボッチのままであった。
「じゃあテレパシーを使うための契約をしましょうか」
「契約って何するんだっけ?」
俺はさりげなく質問をする。
「キスに決まってるじゃない」
「キ、キスだと!?」
自分でこれだけ自虐するもの嫌だがキスとはこんな俺とは全く結びつかないものであった。
「なによ、普通でしょ?」
どうやらこの世界ではキスは普通なようだ。おそらくだが恋人関係になっても手をつなぐことよりもキスの方が下に位置するのだろう。
ゲームの世界とはいえこの世界は少しずれていると思う。
「早く契約するわよ!」
俺がもたもたしているとルミナが俺の頬に手を添え徐々に顔を近づけてきた。
俺はつい目を閉じてしまう。ただし視覚を封じてもまだ嗅覚と触覚がある。
俺は人間だ。当然ながら呼吸をしてしまう。その際にルミナの匂いを嗅いでしまった。
本来ならば俺が嗅ぐことのないはずの匂い。
俺は顔が赤くなっているのを十分に感じる。
俺は一度目を開けてしまう。するとルミナの顔はもう目の前だった。
俺は急いで目を閉じる。俺はとうとうルミナの唇が触れファーストキスになるのだと思うが
その待っている一瞬の時間が無駄に長く感じてしまう。
それもそうだこれだけ長く回想しているのだから。
だがとうとうその時はやって来た。
ルミナの息が俺に少しふれたのちに俺の唇には今までに感じたことのない柔らかいものが当たった。
ルミナは頬に添えていた手を離した。
俺はそれに気づき徐々に目を開ける。ルミナはそうでもないのかもしれないが俺は恥ずかしくてルミナの顔を見られなかった。
「啓太、もしかしてキスは初めて?」
「あ、あぁもちろん」
俺は恥ずかしさをごまかすため胸を張りつつそういう。
「別に威張れるようなことじゃないじゃん」
俺は実際のことを言われ言葉を詰まらせる。
「まぁいいわ。じゃあ私が啓太の初めての契約相手ね!」
ルミナは俺にそう笑顔を振りまきながら言った。
まぁとりあえず誤解は解けた上に怪しいとも思われなくなったのだから
良かったのだろうな。