13話 俺、家を買う
読んでいただければ嬉しいです!
俺は早速宝石を質屋に入れてきた。すると、相当の金額になった。
自分の罪も忘れホクホク顔で俺は街を歩いていた。
さて、この世界に入り込んで 6日経った。しかし、未だに元の世界に戻る手掛かりは見つかっていない。そろそろ本格的にこの世界で生きていく覚悟を決めなくてはならないのかもしれない。
この金はその決意でもある。俺はこれで家を買うことにした。やはり自分の家があった方が安心するし便利だと思ったからだ。
今日は雲ひとつ無い晴天でとても暖かい。まるで俺の心を表しているようだなどと勝手なことを思いながら不動産屋を目指して街を歩いた。
ゲームでも自分の家は買えたらしいが特に必要性を感じていなかったから俺はゲーム時代一度も不動産屋に来たことがなかった。
「ここ、か?」
初めてやって来た不動産屋は他の商店がかすむほどの大きさがあった。あなたの望む物件が見つかるはずと書かれた看板と共に色々な物件の見本が貼られていた。
「広いな……」
内装もとても煌びやかで豪華だった。店員も上品な雰囲気でちょっと場違いな場所に来てしまった感じだ。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
お手本のような営業スマイルを浮かべた男の店員が話しかけてきた。少し体が強張る。
俺はこちらにお掛けくださいと言われた机に掛けた。
「えっと……、この街で家を買いたいんですけど」
「そうですか。何かご希望の方ありますか」
「なるべく安いものがいいですね」
「分かりました。少々お待ちください」
店員は数分後資料を持ってもどってきた。
「こちらの物件などいかがでしょうか?」
何だこれ、安すぎだろ!!その家は店の前の見本と比べ十倍以上安かった。
にも関わらず資料を見る限りでは少し小さめなだけで特に問題は見当たらなかった。だからか、余計怪しい。
「いや、あのこれ安すぎません?なんか問題あるんじゃないんですか?」
事故物件だとか幽霊が出るとかそんな家なのかもしれない。流石に俺もそんなとこには住みたくない。
店員はとんでもないと首を振りいかにこの物件がいかに素晴らしいかを力説し始めた。
さすが商売人といったところか口が上手く思わず購入を決定してしまった。
それからの店員の動きは慣れたもので必要な契約書やその他諸々をササっと書き上げた。
「ありがとうございました〜」
店員に見送られながら不動産屋を出るも手のひらの上で転がされたようで何とも後味の悪い気分で購入した家に向かった。
店員にもらった地図を頼りに俺は道を進んだ。しばらく歩き続けると馬鹿でかい豪邸の前に出た。
周りに並ぶ家とは大きさが別格で周りは木に囲まれていて門は何の金属で出来ているのか輝いているかのように見える。
ちょっと覗いてみると噴水までも見えた。
「もしかしてここが俺の……!」
思わず地図を握る手に力が入る。が、俺の勘違いだった。
知らず知らずのうちに地図を読み違えていたようだ。よく見れば門の端に張り紙が貼っていた。
『売り出し中。詳しくは店頭で』
あの不動産屋、こんな豪邸まで売ってるのか。
張り紙の下の方に書かれていた値段は俺が買った家と比べ何桁も違っていた。
今俺の持っている全財産からしても手を出しづらいほどだ。
今度こそ俺は自分の買った家に向かった。
地図の通りに行くと街の中心から離れ寂れた場所にどんどん進んで行く。暗がりの路地裏を抜けた先に俺の家はあった。
「おいおい、マジ?」
それなりの金を払って買った俺の家は信じられないほどボロく小さかった。
そもそもスラムのような場所に立っていて屋根や塗装が剥げ傾いている。店員の見せてきた外観と全く違う!
唖然としていた俺の目にこんな張り紙が入った。
『嘘はついていませんよ。店頭でお渡しした資料にはいつ書かれたものだなんて書いていなかったでしょう?』
「騙された!こんなん絶対詐欺だろ!」
俺は頭を抱えた。完全に大金を手に入れて浮かれていた。
店員の話した落ち着いた場所に建っている少し小さめ、でもとても素晴らしい家とはどこにあるのだろう?いや、昔はここにあったんだろう。
でも、今となっちゃ大きめの犬小屋だ。
早速、宝石を盗んだことに対する天罰が下ったなんて自嘲した。そのときある重大なことに気づいた。
「そもそも俺寝るたびに誰かに入れ替わるんじゃねえか……!」
よく考えたら寝たらその瞬間俺はこの家の持ち主じゃなくなって終わり。なんて無駄な買い物をしたんだ。
ついでに間取りと部屋の数も詐欺られていた。あの店員は3LDKなどと抜かしていたが実際は部屋は一つしかないしリビングが存在するのか危うい。これもあくまで昔のことですからで通すのだろうか。
あと前の住人が散らかしたのか床にゴミが散乱していてもうここにいる気が失せた。
とにかく外の空気を浴びようと家から出るとある少女が家の隣に座っていた。
みすぼらしい格好をしているが美しい顔をしている。ろくに手入れをしてなそうなのにその黒髪はとても綺麗だ。
肌は透き通るように白くスタイルも良い。ちゃんと着飾れば誰もが振り向く絶世の美女になりそうだ。
俺は彼女を見たことがある。それも何十回と。だからこそ何でこんな場所にいるのか分からない。
「えっとー、一応ここ僕の家なんですけどー」
「ああ、そうなの?こんなボロ屋に人が住んでたなんて驚きだわ。で、何か用?」
取り付く島がないというか全く相手にしてもらえないというか。あまりにひどい対応に少し傷ついた。
「いや、何でこんな場所に座ってるのかなって思って」
黒髪の少女は俺に冷たい視線を向けた。
「……察しなさい。ここスラムよ。……いくあてがないのよ、どこも」
少女は悲しそうに視線を落とした。スラムに住まざるをえないとなるとよっぽど辛い出来事が彼女にあったのだろう。そんな少女を見ていると俺の胸も傷んだ。
やっぱりここスラムだったのかなどというつぶやきは置いておいて、俺は少女の正体が完全に分かった。
彼女はカラミティ・オンライン有数の強さを誇る女性NPC、ルミナだ。
彼女とはゲームの中とはいえ一緒に冒険をした仲だ。あの晩の魔王との決戦の時にもパーティーに入れていた。
一方的な親近感を覚えた俺はこんな提案をした。
「良かったらこの家あげようか?」
「な、何を言ってるの!?あなた!」
ルミナは驚き半分馬鹿にするなという怒り半分で俺を見た。
まあ、無理はない。いきなり家をあげるなんて言われても現実味がないだろう。
「まあ、怪しいと思うから中で詳しい話でもしない?」
ルミナはとっさに身構えた。
「分かった。そうやって家に連れ込んでアレコレしようって魂胆なんでしょ!このクズ!」
見事に勘違いされてんなあ……。
「何もしないってほらこの家何もないだろ。それにいざって時は君の方が強いだろ?」
俺は入り口の扉を開け放って中の様子を見せた。見事に何もない部屋にルミナも少し呆れていた。
彼女も自分の腕に自信があるのか警戒しつつも家に入ってきてくれた。
さて、交渉はこれからだ。