12話 これは立派な犯罪である
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「どこ行ってたんですか?ロキレス様」
天界に戻ってきた俺の前には天使がいた。
「いや別に何でもないよ」
適当な返事を返して、俺は信者たちへの加護を与える作業に戻った。
「へー、何でもない、ですか」
背後から視線が突き刺さる。明らかに俺を咎めるような口調だ。もしかしてバレた?
「あ、ああ、ちょ、ちょっと出かけてきただけだから」
動揺がもれてしまったようで声が少し震えている。
ますます天使の視線が厳しいものになっていく。
「ところで……、まあ、私のひとり言なのですが、少し宝物が減ってるんですよねえ。泥棒でも入ったんでしょうかね。だとしたら一大事です。何と言ってもここは神の住まいなのですから」
天使は目の前に積まれた光り輝く宝物の山をさしながら言った。
淡々と無表情で言葉を続ける天使に、俺は恐怖を感じていた。思わず冷や汗が流れる。
もう宝物を勝手に持ち出したことがバレるのは時間の問題だ。俺はある決心を決めた。
「よく覚えていないが俺は何か悪いことをしてしまったのだろうか? ならば、俺を罰してくれ。神たるものとして責任はとる」
「え?は、はあ」
天使の勘違いだが記憶喪失であることを利用して自然に反省している感を出せた。そして、俺の作戦の本番はこれからだ。
「そうだ、ショックボルトを使ってくれ」
「ショックボルトですか……?」
ショックボルトはとてもシンプルな魔法だ。要はスタンガンみたいなもので当たったらダメージを受けて気絶する。
もう一度言う、気絶するのだ。
これまでの経験から俺は寝る、もしくは気を失うと別人に乗り移ってしまう。それを使えばこの場から逃げ出すのだって簡単だ。まあ、俺の代わりに罰を受ける元のロキレスには後ろめたいが……。
「お言葉ですがショックボルトは拷問……、コホン、罰には向いていないかと。出力を弱めたらすぐに気を失えず苦しそうなものですが……」
中々恐ろしいことを言いやがるこの天使。その美しい顔にどこか笑みが浮かんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「いや、ショックボルトを使えばそのショックで記憶が戻るかもしれないだろ。それでも駄目だったらもうお前に任せるよ」
「本当ですか!?じゃあ、チャチャッと行きますね!」
銀髪を揺らしながら天使は興奮した様子になった。いわゆるドSなのだろうか。目が怖い。
えい!という気の抜けた掛け声とは裏腹に通常の十倍ほどのショックボルトを食らった俺は、痛みを感じる間もなく意識を手放した。
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商人たちの宣伝や通行人の喋り声が辺りを包んでいる。どうやら俺が今いるのは市場らしい。中々の活気があって思わず何か買って行きたくなったが、俺は例の路地裏へ急いだ。
街の西端、中心部から離れていて、誰も通らない路地裏に俺は宝石を隠した。路地裏は薄暗く日光が当たらず肌寒かったが宝石を手に入れられる興奮からあまり寒さは感じなかった。
「ふふ、ようやく手に入る。とりあえずこれでこの世界で暮らす資金は出来たな」
ありふれた木箱から俺は隠してあった宝石を取り出した。思わず息を飲むほど宝石は綺麗だ。換金したらどれくらいになるんだろうと胸が弾んだ。
だが、人の財産、それも信仰心から集められたものを勝手に奪ったことに対する罪悪感は重く俺にのしかかっていた。
「………」
俺は壁にもたれかかって地面に座り込んだ。
宝石を手に入れて嬉しかったはずなのに気分は乗らない。
「もらったものは返します、絶対に」
そんな一方的な俺の呟きを聞いたものなどいないだろうが俺は俺自身に誓った。こんなことをするのはもう最後だと。