11話 俺はとうとうこの世界の神になる!
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「いっった……。ってここどこだよ?」
そこは見慣れない場所だった。ゲームでこんなところを見た記憶はない。
「おぉ、すげえ……」
辺りを見渡して俺は思わず感嘆の声をあげた。
白い大理石で出来た巨大な広間の真ん中に俺は寝転がっていた。洗練されたその空間は神聖な空気が感じられた。広間は開放的なつくりになっていて中から外が見えた。
外は色とりどりの花が咲く庭園となっていた。
何かに惹かれるように俺は起き上がって広間の外に出た。
赤、青、黄、その他にも様々な色の花が庭園で咲き乱れていている。
花はとても綺麗で香りも良い。だが、自分が見たことある花が一輪もなかった。
そのことに少し違和感を覚えつつも俺は庭園を散歩した。だが、少し歩いたところでそれは唐突に終わった。行き止まりというよりは断崖絶壁に阻まれて。
「マジ、か」
眼下に見えるのは真っ青な空と雲海。ってことはここは……。
「ロキレス様!どこほっつき歩いてるんですか!?さっさと仕事始めますよ!」
突然、上から銀髪の少女が落ちてきた。それだけでも驚きなのだがなんと少女の背中には白い羽が生えていてその頭には光る輪が浮かんでいる。
「もしかして天使、みたいな……?」
「今さら何言ってるんですか!時間無いんですから早くしてください!」
少女は俺の疑問を何当たり前のことを聞いているんだといった風に受け流すと、俺を引きずるようにしてさっきの大理石の広間に連れていった。
これから俺は何をさせられんだろう。
最近、あまりに色々なことがありすぎて驚きに対する耐性はついてきたと思っていたが、今は驚きの連続だ。
ゲームで見たことのない風景と空中に浮かぶ庭園、そして天使。今さら言うことじゃないかもしれないがあまりに現実離れしている。
「さ、ぼーっとしてないで始めてください。今日はざっと500件ってとこですね」
天使に急かされているものの何をしたらいいのか見当もつかない。
「えーと、ちょっと何をしたらいいかド忘れしちゃったかも……、なんて」
天使の俺を見つめる視線がとても冷ややかなものになっている。
「ハァー、マジで言ってます?数千年生きてとうとうボケましたか?」
ほら、あれ見てくださいと言われその方向に視線を向けた。
広間の中心、寝転がっているときは分からなかったが、そこだけ少し他より円状に高くなっている。
そこに俺がいた頃には無かった金銀財宝の山が積まれていた。
あまりの光景に俺が息を飲んでいると天使が話し始めた。
「あれはあなたに捧げられたた貢ぎ物みたいなもんです。で、あなたの仕事は貢いできたやつに謝礼として加護を与えたり神器贈ったりすることです。まあ、大抵はちょっとしたラッキーを体験させてあげるだけでいいんですけどね」
分かったような分からないような……。そもそも俺は今度は何になってしまったのだろう。
俺が未だに分かってないことに気づいたのか天使はイライラし始めた。
「もうあれですか?記憶喪失ってやつですか?じゃあ、手取り足取り全部教えてあげますよ。この駄神!」
天使は怒りで早口になりながら話を続けた。
「あんた、この世界の神。この財宝送ってきたのあんたの信者。あんたの仕事それの返し。分かりましたか?どぅーゆーあんだすたん?」
この天使は俺に敬いなどはないようだが俺はどうやら神らしい。
いろんな人に乗り移ってきたがまさか神にまでなれてしまうとは。
「で?どうやってその加護与えたり幸運与えてあげたりするんだ?」
天使はあからさまなため息をついた。
「そんなん知りませんよ!感覚で分かるんじゃないんですか!?」
そんなこと言われても俺は元々神じゃないんだし分からない。
だが、これ以上うだうだしているとさらに怒られそうだ。
「はい、じゃあ、これリストなんで頼みましたよ」
天使は俺に辞書並みの厚さのリストを渡すと飛び去っていってしまった。
「……とにかく始めるか」
リストを開くとそこにはビッシリと名前が書き込まれていた。
やる気を大分削がれながらも、俺は財宝の山とリストの名前を見つめながらとにかく念じてみた。
この人にいい事起こりますように、神が神頼みなんておかしな話だがとにかく念じた。
すると、リストに書かれていた一番初めの名前が眩い光を放った。
思わず閉じた目を開けるとその名前が消えていた。
成功したのか確かめようがないが要領は掴めた。
それから数十分俺はひたすらリストとにらめっこしながらとにかくリストに書かれた人の幸せを祈った。
特に体を動かす必要がない仕事だがあまりに作業感が強すぎてすぐに飽きてしまった。
「今、思えばすごい光景だよな。この宝の山……」
これを全部自分のものにできたら一生遊んで暮らせるだろう。思わず宝の山に手が伸びた。
「何してるんですか?」
「え!?」
突然、背後から声が聞こえ伸ばした手を引っ込めた。
背後にいたのは例の天使だった。
「何やってるんですか?」
「いや、別に?」
「まさかやるとは思いませんが勝手にその財宝持っていかないですくださいね。いくら神とはいえやっていい事と悪い事ぐらいわかりますよね?」
「まさかー、そんなことするわけないじゃないですかー」
「……ですよね?」
無言の圧力を出しながら天使は再び飛び去っていった。
「まあ、さすがにできないよなあ。そんなこと」
そう思いながらもあたたかい陽の光に当たり輝く財宝はあまりに目に毒だった。
「ちょ、ちょっとぐらいいいんじゃないかなぁ、なんて」
一掴み財宝を手に取ると俺はある魔法を唱えた。
それは「我が体を一瞬で移動させよ。テレポート!」。行ったことがある場所に瞬時に飛んでいける魔法だ。その分消費マナも多いのだが今のマナの溜まり具合なら余裕で使える。
魔法を使った瞬間俺の視界が暗転し次の瞬間には俺は見慣れたトレントの街の大通りにいた。たくさんの店の前を素通りしある目的地を目指す。
「ここなら絶対にバレない……!」
そこは大通りから伸びている裏路地の一つの奥にある。ただでさえ誰も通らないような場所なのにゲーム時代俺がガチガチに闇魔法や結界魔法で固めた結果俺以外誰も知らない場所となった。
ゲーム時代に作った秘密の倉庫が思わぬ形で役になった。そこに財宝を隠すと俺は再び天界に戻った。