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10話 やはり俺の学校生活は最悪だった

俺は気づけば魔法学園の校門の前に立っていた。


「は?」


思わず疑問の声が口に出てしまった。ソフィアに告白した俺はその後帰宅し確かにシリルの部屋で寝ていたはずだ。

そのことは間違いないのだが、今俺の体は魔法学園の前にある。夢、ということでもなさそうだ。


「となるといつものあれか……。ほんと、いい加減もうやめてほしいな」


今は朝の登校時間のようで、登校してきた生徒たちが訝しげにブツブツ独り言をしている俺を見てきた。


恥ずかしくなった俺はこほんと咳払いをし、自分の体と持ち物を確認してみた。男物の制服を着ていて鞄を持っている。

顔は見えないが至って普通の学生のように思える。プライバシーもクソもないなと思いながらも俺は鞄を漁った。


(まあ、仕方ないんだ。俺だってやりたくてやってるわけじゃないし男なんだし許してくれ。)


そんな弁明を心の中でしていると鞄から学生手帳が見つかった。……調べてみるとこの体はあのシリルの友達のディオンのものだった。


とにかくここで立ち止まっていてもどうしようもない。仕方なく俺は校門をくぐった。


「魔法体育祭か。そんなイベントあるにはあったが昨日はそんなこと誰一人として口にしていなかったぞ……」


校門の横には大きく魔法体育祭と書かれた看板が立てかけられていた。大体どんな内容かは察しはつくが唐突すぎる学校行事に俺は若干戸惑った。


運動場にはテントや入場門、退場門、そして、各種競技で使うであろう用具類が準備されていた。昨日、俺が帰るときには何もなかったのにだ。ある意味ゲームらしいと思いつつも俺は校舎に入った。


流石に昨日の今日で行った教室の場所を忘れることはなく、特に問題なく俺は教室に着いた。


扉を開け教室に入るとシリルとソフィアの周りを多くの生徒が囲んでいた。二人を囃し立てる者やしつこくなり、初めを聞いてくる者などなかなかの盛り上がりようである。


……もはや俺が入るような隙間はなかった。二人を遠巻きに眺めながら俺はディオンの机に鞄を置いた。覚えておいて良かった。


それからぼーっとしながら机に座っていたが俺、ディオンに喋りかけてくる人はいない。もしかしたらシリル以外に友達がいないのかもしれない。

ディオンを哀れに思っているとクラスメイトを振り切ってシリルが俺の近くにやってきた。


「よう、ディオン!」


「お、おう……」


シリルってこんなキャラだったのか……。彼女が出来たからかシリルは非常に明るくいきいきとしてしている。


俺は控えめにソフィアのことをおめでとうと伝えておいた。シリルは照れて頭をかきながらも嬉しそうに笑顔を見せた。だが、自分でも疑問に思っているのかシリルは不思議そうな顔で昨日のことを話し始めた


「俺、実は昨日の記憶が全くなくてさ。ずっと夢を見ていたみたいなんだ」


内心ドキリとしつつも俺は昨日のシリルの行動、というか俺の行動を褒めた。


「でも、昨日のお前は神がかっていたぞ。ポーションといいテストといい別人みたいだったし、何より魔法がやばかった。俺らこそ夢でも見てんのかと思ったよ」


「そうらしいけど......」


「今日はその力を存分に発揮してくれよ!」


そうは言ったものの俺は、シリルの評判が急降下するのではないかと恐れていた。


昨日活躍したのはあくまで俺であってシリルではないからだ。だが、心配はいらないかもしれない。昨日シリルに憑依して魔法を使った時シリルの体はとても魔力の流動性が良かった。


これはカラミティーオンラインにおける魔法に関するステータスの一つだ。


魔力を水に例えると流動性はポンプだ。体の中にある魔力をいかに引き出し操るか、その性能がシリルは元々高い。

シリルが今まで思うように魔法が使えなかったのは恐らく技能の問題ではなく精神的な面に問題があったのではないか。だとしたら、今の自信に溢れたシリルなら俺がいなくても活躍できるような気がした。

後はお前自身だと俺は心の中でシリルに念を送った。

だが、俺がこのディオンの体で自分の力を発揮してしまえばシリルの力が霞んでしまうような気がした。とはいえ、あからさまに最下位とかを取ると逆にディオンの評判が落ちてしまう。


「 ま、やるだけやってやろう」


俺はみんなに続いて教室を出た。


魔法体育祭は簡単な開会式と有志の魔法の演舞で始まった。さすが魔法学園といったところか魔法を使った競技の全てはド迫力で見てて飽きなかった。


「おい、ディオン。次お前の出番だろ?早く入場門に行けよ」


ほぼ観客のような状態で競技を観戦していると男子生徒に注意されてしまった。


「あ、ああ、分かった」


そう言って入場門に行ったはいいものの流石に緊張してきた。俺は入場門に並んでいる列の後方で深呼吸をした。


「お、ディオン!お前もこれに出るのか」


なんとシリルが俺に話しかけてきた。俺と同じ競技に出るようだ。複雑な気持ちになりながらも一緒に頑張ろうとお互いを励ましあった。

やがて、今の競技が終わり俺を含む一団が入場を始めた。ていうか、俺今から何やるか分かってないけど大丈夫か!?


……


「……はあ、はあ、なんとかなった……」


俺がやったのは魔法での補助、妨害ありのほぼバトルロワイヤルと化した障害物競争だった。


やはりシリルの体ほど魔法を上手く使えなかった。しかし、敵の攻撃をいなすぐらいは出来た。


とにかく攻撃を受けないように走ると、1位は無理でも上位は取れた。一方、シリルはまるで弾幕のように魔法を放ち周りを押さえつけぶっちぎりで一位だった。


今は満面の笑みでソフィアと話をしている。……やはり心配はいらなかったようだ。


『えー、続いては全体競技となります』


魔法を使った放送器具から声が流れた。漠然とどんな競技がされるのか想像していると、一人の先生に声をかけられた。

俺は先生についてくるように言われた。言われるがまま先生についてくと礼拝堂のような場所についた。学園の敷地の奥まったところにあってここに来て2日の俺には到底分からないところだった。俺は寂しい雰囲気をまとった礼拝堂に入った。


「お、ディオン」


中には6人ほどの生徒がいた。彼らは目を瞑り、礼拝堂の奥に鎮座している女神像に祈りを捧げていた。


先生も彼らに続いて礼拝を始めた。ここにいる人の内俺以外が皆礼拝をしている。何か気まずくなって俺も見よう見真似で礼拝をした。

恐らくディオンの宗教では礼拝する時間が決まっているのだろう。しかし、あまりに人数が少ないのが気になった。しばらくして礼拝が終わり俺は運動場に戻った。


運動場まで戻ると、気が強そうな金髪の男子生徒とシリルがいた。他にも多くの生徒が二人の周りに立っている。


「おいおい、ディオン。イオシフのカスどもはお祈りの時間じゃなかったのか?てめえらに魔法体育祭に参加する権利なんてないんだから礼拝堂に引きこもってろや」


目が合うなり吐かれた暴言に俺は唖然とした。だが、周囲の生徒もさも当然であるかのように俺に侮蔑の視線を向けてくる。待ってくれ、なんか勘違いしてるんじゃ。


そう言う暇すらなく暴言の嵐が俺を襲った。


今思い出した。この世界にはクレタス、エミリオス、イオシフという主に3つの宗教がある。しかし、当然ながら宗教ごとに信者の数や勢力の大きさも違う。


それに加え教義の微妙な違いや信仰されてる主な国の対立関係からそれぞれの宗教はいがみ合っている。そして、ディオンの信仰するイオシフは世界的には広く広まっているのだがこの国の中では極端に少ない。

故にイオシフの信者はこの国では差別、排斥の対象となる……という設定だった筈だ。ただ自分の身をもってそれを味わうとあまりに辛い。


「ふん、シリルもこいつに何か言ってやれ」


「……」


黙り込むシリル。力を手にした今の彼なら俺を助けてくれるのではないか。そんな期待も虚しくシリルは彼らと同じように俺を罵った。


(そりゃそうか……)


今、俺を助けてもシリルは孤立するだけ。なら、俺を切って大多数を選ぶのは当然のことではないか。そうと分かっていても涙が溢れた。

シリルとディオンは親友だった筈だ。友情というのはこうも脆いのか。

少数派を差別し多数派に擦り寄る。


そんな人間の醜さを俺は改めて知った。……怒りよりも悲しく、そして虚しい気持ちが残った。


「テレポート」


ディオンが使える筈もない空間魔法。俺はそれを使って学校のあまり人がいない所へと向かった。そして、一人で泣いた。

やはり学校になんていい思い出はない。



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