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9話 元の世界にも魔法があったら……

「俺が見たところ十班と一班では薬草の鮮度が全く違う。

ただの成績の差で教師にまで差別されてるんだよ。エノーラ、お前もそんな酷い理不尽を受けてきたんじゃないのか?

ただ少し勉強が出来ない、魔法が出来ない、素行が悪い。それだけで自分の全てを否定される。そんな奴らを見返してやろうじゃないか。

エノーラ、頼む。俺たちも出来るってところ見せてやろうぜ?」


「……分かったよ」


それはこの班員の全員に向けた言葉でもあった。誰しも思うところがあったようでエノーラのみならずみんなもさらにテキパキと作業を進めるようになった。


そして、全員の作業が終わって材料が揃った。ここからは俺の領分だ。


 ディオンがすり潰した何種類かの薬草を試験管内の薬品の中で混ぜ合わせる。


今回はシンディに薬草の分量を寸分の狂いもないように叩き込んだから、ただ混ぜるだけでもそれなりのポーションが出来るだろう。


しかし、ゲームではここからさらに魔力を流し込みながら、材料を混ぜ合わせていた。見様見真似で俺は魔力を少しずつ試験管内に流し込んだ。


そしてそれを試験管内で循環させさらに魔力の量を増やしていく。そしてこれ以上ない絶妙なバランスで魔力の供給を止めた。完成だ。


心地良い達成感を感じながら、俺は班員を連れて教師が立っている教室の前へ試験管を持って行こうとした。

すると、周囲からの視線をいくつも感じた。特に特別なことはしていないはずなのに。何の気なしに試験管を覗いてみると、ポーションが輝いていた。


「アムリタだ……!」


 教師がそう呟いた。最上級の効果を持った霊薬で、どんな傷も瞬時に治せられる国宝級のアイテムらしい。流石にやり過ぎたかもしれないな……


「じ、十班には最高点を差し上げます」


最下層グループの快挙にディオンたちは歓喜の声を上げた。しかし、それを快く思わない者もいる。


「おい、シリル!てめえ、俺らの班から薬草盗んだくせに最高点だ!?ふざけんのも大概にしろ!」


一班の班長が前に出て言いがかりをつけてきた。見下す側だった十班が自分よりいい点数をもらったのが気に食わないのだろう。


「……君の名前は知らないけど盗んだとはどういうことだ?」


「そこのクソヤンキーが俺らの班に来て薬草を脅し取っていったんだよ!」


「クソヤンキーとは誰のことを言っている?そんな人は俺たちの班にはいないはずだけど」


「エノーラだよ!!」


一班の班長はキレながら答えた。沸点の低い奴だ。


「エノーラなら班の机にずっと居た。俺だけじゃなくてディオンもシンディも見ているからな」


「落ちこぼれの言うことなんて信用できるか!」


「じゃあ、逆にエノーラがお前の班に行って薬草を盗んだって証拠はあるのか? 


大体薬草なんて盗んだとしたらお前らの班は材料不足でポーションを作れないはずだ。


お前の手に持ってる試験管は何だ?出来立てホヤホヤのポーションじゃないのか?」


一班の班長も丁度ポーションを提出しに来たところだった。班長は苦い顔をしてこちらを睨んだ。その様子を見て俺は言葉を続けた。


「自分の力不足を他人のせいにするなよ。見苦しい。


それにお前らの班は、一班だけ薬草の品質が違うじゃないか。それこそ不正じゃないのか?」


「う、うるせえええ!!!こいつが確かに盗んだんだ!!」


班長は逆上して、あろうことか女子であるエノーラに殴りかかった。プライドはないのか。


まあ、鋭い眼光で班長に殺気を放ってるエノーラならどうにかなりそうだが俺は一応班長の拳を左手で止めた。

対人戦の練習になるかもしれないしな。そのまま力を込めて班長の右手を握った。


「!いだい!いたい!いたい! 離して、くれ!!」


根気もないのか。まあ、いい具合にお灸は据えれただろう。丁度授業の終わりを告げる鐘が鳴った。と同時にクラス一同の拍手が響いた。

恥ずかしくて一刻も早く実験室を出たかった。やはり俺に前に出るのは合っていない。


「……ありがとう、シリル」


エノーラが真っ直ぐ俺を見据えて先ほどの礼をした。


「ん、ああ。やるべきことをやったまでって感じかな」


 さらに顔が赤面したであろう俺はエノーラに背を向け足早に実験室を出た。


その後は教室での魔法史の授業だった。何と授業開始早々にテストと言われてビビったが、問題を見て安心した。

カラミティー・オンラインの設定資料に載ってあるようなことばかりだったからだ。


何に使うわけでもないのに、紙に穴が空くほど設定資料を読みこんだ俺はその全てを暗記していた。


程なくして隣の席の人と交換して答え合わせが始まった。俺は満点だった。まあ、普通だ。俺にとっては難しくなかったしそこまで嬉しくはない。

周りが俺の満点に騒いでいる時一班班長の視線を感じた。また、いちゃもんをつけてくるのかとうんざりしていたがそんなことは無かった。


「……で、最後は魔法実技か」


運動場に等間隔で並べられた的を見ながら俺は呟いた。どんな魔法でもいいから50メートルほど先に立てられた的に魔法を当てたらいいらしい。

しかし、的の直径は30センチほどしかなくほとんどの人が外していた。


「シリル!次お前の番だぞ。今日のお前なら結構いいところいけるんじゃないのか?」


ディオンがそう話しかけてきた。俺は目印が付けられた地面に立った。ここから見るとかなり的が小さく見えるが多分大丈夫だろう。


 俺は特に気負わず魔法を発動した。俺の手に小さな火球が灯った。


そのまま手を前にかざすと火球は真っ直ぐ的を捉えとんでいき、的の中心を貫いた。これぐらい誰でも出来ると思っていたがどうやら違った。

周囲から耳を貫かんとばかりの歓声が湧き上がった。……もうこの1日でこういう視線には慣れた。


次の順番の人に場所を譲ろうとした時、血走った目をした一班の班長が目に映った。嫌な予感がする……。


「ふ、ふふふ……、こーんなところにでっかい的があるなあ。クフフ、死ねえ!」


班長は授業では絶対に使わない規模の火魔法を使った。


奴の体ほどもある火炎を見て俺は舌打ちした。流石に洒落にならないし、これほどの大きさの魔法であれば周りにも被害がある。そんなことも考えず魔法を放った班長がただただ愚かしく見えた。


俺は迫り来る火炎に合わせ魔法で俺の周囲を守れる大きな水の盾を作り出した。火炎はそれにぶつかり激しい音を立てた。


水が蒸発し視界を埋めるほどの湯気が出た。しかし、火炎は水の盾を超えることはなく消滅した。とはいえ、このまま終わらせてやるつもりはない。


俺は奴が出した炎の数倍の炎を圧縮した火球を作り出した。

その形を弾丸のように変え高速回転させる。


その回転を維持したまま俺は風魔法を用いて火球、いや、火の弾丸を撃ち出した。その速度は音を超え刹那の間に班長に迫った。

しかし、寸前で軌道がぶれ班長の顔の横を通り過ぎ、運動場の端で爆音を上げた。班長は腰を抜かしたようで地面にヘナヘナと座り込んだ。


「良かったな、俺のコントロールが悪くて。あと数ミリでもずれてたらお前、死んでたよ?ま、これ以後はもっと謙虚に生きろ」


流石に拍手は起きない。衝撃的な光景に誰もが唖然しそして俺に怯えた目線を向ける。


しょうがない。それほどのことをした自覚はある。ただシリルには悪いと思う。もう取り返しはつかない気がするがとにかく頑張ってくれ、シリル。


それから俺と班長は、教師に連れてかれた。いわゆる生徒指導室のようなところで、こってりしぼられた。


人に魔法を向けるのは、銃口を向けるのと同じである。俺は黙って説教を受けた。


しかし、教師はそれよりも俺、シリルがここまで急成長した理由を聞きたがってるようだった。


まさか中身が違うんですなんて言えるはずもなく、曖昧な返事を返すとさらに時間が長引いた。結局、解放されたのはもう夕日が沈みかけている時刻だった。


俺は誰もいない教室に鞄を取りに行った。教室の扉を開けると何故かソフィアが一人立っていた。


「あ、シリルくん……」


ソフィアは少し後ずさった。やはりあれほど過剰な力を見せた俺に怯えているのだろう。


俺はなるべく彼女に近づかないように、自分の机に向かった。

俺が帰る用意をしているしばらくの間、気まずい沈黙が流れる。


しかし、特に喋る事もないし、元々コミュ力なんて持ち合わせていない俺は黙々と用意をした。そんな俺をじっと見つめていたソフィアは意を決したような顔をして喋り出した。


「……あのね、シリルくん。みんなあなたに怖がっているけど私は言いたいことがあるの」


「えーと、何?」


「ありがとう、私、いやもっと沢山の人を助けてくれて。あの時、あなたは周りにいた私たちを助けるためにあんな大きな盾を出したんでしょ?……私がこうしていられるのもあなたのおかげよ。本当にありがとう」


「あ、ああ。どういたしまして……」


□□の時もそうだったがこうやって面と向かって感謝を告げられるとどうしても恥ずかしい。だが、嬉しくもあった。


またしばらく沈黙の時間が続いた。だが、俺とソフィアの視線は合ったままで離れなかった。


……これはもしかしてシリルにとっての告白のチャンスでは?そんな考えが頭をよぎった。


少し悩んだ。やるべきかやめておくべきか。気持ちを伝えるとかは自分でやるべきだとは思うのだが……、まあ、いいか。散々シリルには迷惑かけただろうし告白代行ぐらいはやってやろう。


「ソフィア、実は俺にも君に言いたいことがあるんだ」


あくまで他人の告白とはいえ緊張する。ギャルゲーなんかとは大違いだ。しかし、今更やめるなんて出来るはずもない。俺は言葉を放った。


「君が好きだ!付き合ってくれ!」


そう叫んで頭を下げた。もう何もすることは出来ない。顔を上げることさえ。ただソフィアの返事を待つばかりだった。


「……いいよ」



良かった……。会ったことすらないのにシリルの恋の成就を俺は祝福する気分だった。ま、これからに関してはシリル次第だけどな。

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