かませ犬
俺はいつもいつも幼馴染のあいつに負けていた。
5歳のときは、おもちゃの取り合いでいつも負ける。
あいつは気に入られていたし、俺の方がわがままだと思われて、先生に取り上げられるのだ。
8歳のときは、俺は自分の名前を漢字で書けるようになって自慢していたが、あいつは自慢の名前を習字で書けるようになっていた。
10歳のとき俺は算数が好きで、みんなより早く問題を解けていた。ドリルも予習していたし、暗算も得意だった。
しかし、あいつはもっと凄かった。テストはいつも満点で、そろばんをしていたから暗算も俺の何倍も早い。たいへんモテていたそうだ。
11歳のとき、俺はケンカをした。泣いていた女の子を助けるためだ。しかし俺は成長期前で背が低く、相手は年上なのでボコボコに負けた。女の子を助けられず、悔しかった。
でも、俺が痛め付けられているのを見たあいつが、手助けをしてくれた。あいつは空手をやっていたので強く、すぐに追い払っていた。
周りの人はあいつを絶賛し、俺のことを馬鹿にした。
女の子が何か言いたそうだったが、俺は情けないのが恥ずかしくなって逃げ出した。
12歳のときに、俺は初めて恋をした。その子はよく話しかけてくれたので、俺のこと好きなんじゃね?と一度思ったらすぐに好きになった。
それから俺は勇気を出して告白もした。その結果は、好きな人がいるから無理です、だった。もちろんその好きな人とやらは幼馴染のあいつなわけだが。
13歳のとき、俺は格差を知った。俺とあいつの弁当事情についてだ。俺は家が貧乏で、いつもご飯にふりかけだけだったが、あいつは有名な品種の素材を使った色とりどりの弁当だった。正直羨ましかった。
14歳のとき、家庭科でのこと。俺は家が貧乏なため、普段から自炊をしていたので、料理には自信があった。あいつは金持ちだから料理をしているわけがない、そう思った。
しかし現実は非情で、俺は節約レシピしか知らないから使ったことない食材に苦戦し、あいつは料理教室に通っていたため、料理が上手かった。もちろん女子にモテた。対して俺は貧乏性すぎて女子にドン引かれた。
16歳のとき、俺は虐められていた。正確に言えば、女子に悪口を言われていた。理由は簡単。
いつも秋都様の周りをうろちょろしているキモイやつだから。
俺はトラウマになった。
ちなみに、あいつの本名は刃賀秋都だ。
すげぇだろ?まるで主人公みたいだ。
対して俺の名前は田中 優希。結構普通だろ? ルビ振らなくても読めるし。
そして今俺は17歳の高校二年なわけだが、やはりお先真っ暗な状況だ。
去年のトラウマで女子とは話せず、男子は女子のおこぼれを貰うために刃賀と仲良くしたいから俺には近寄らない。
つまるところ、俺はぼっちだった。
ぼっちアニメとかでよくある、実はオタクの友達がいるだとか、優しい女の子女の子に話しかけられるとかもなく、マジでぼっちだ。
というか寂しい…。たぶん今日でクラスメイトと喋らないのは2ヵ月目だと思う。俺のこと忘れてるのかな?
いや、一方的に悪口は言われてるので、存在は認識されている。
ちなみに悪口は、あいついつも髪の毛長くてきもい、眼鏡がうざい、などなど。
髪の毛はまだしも、眼鏡は関係ないだろ!!
髪の毛については、去年のトラウマ以降切りに行ってない。だって人と話すの怖いもん…。
はあ、今日も友達が出来ず、ついに放課後になってしまったか。
来月の6月には修学旅行があるので、なんとしてでも男子の友達を見つけないと。
ぼっちは辛いので、こそこそと教室を出る。
普通の高校生なら部活をしたり、友達と遊ぶのだろうが、俺はぼっちの帰宅部なので直帰だ。たぶん帰宅部オリンピックがあれば優勝だと思う。
特にラブレターがあるわけでもなく靴を履き替え、校舎を出る。
校門で俺を待っている人が居るわけもなく一人で帰る。
実家近くの商店街を通るのだが別に知り合いは居ないため、喧騒をスルー。
それから10分ほど歩いて、見えてきた路地に入る。すると……
にゃーお。にゃーお。
猫がいる。
ここで、普通の主人公なら持っているパンとか牛乳とかをあげるのだろうが、あいにく今はお茶しかないし、俺は捨て猫に責任は持てないため華麗にスルー。…ごめんな、俺は貧乏だから飼えないんだ。
そしてさらに10分歩いて住宅街に出る。閑静な住宅街だ。
いつも通り住宅しかなく、いつものように通り抜けようとしたが、見てしまった。
黒塗りの車(やくざさん?のくるま)の横で、女の子が口を押さえられていた。
ーーー女の子と目が合う。
まあ俺には関係ない。もしかしたら映画の撮影かもしれないし、そういうプレイかもしれない。ほら、最近よく言うじゃん。痴漢かと思って声をかけたら、そういうプレイでしたって。
ここで俺が間に入ってもありがた迷惑でしょ。
一般人は一般人らしく平穏に生きよう。
俺は見ないようにして歩く。
ーーー女の子の視線を感じる。
振り返る。
ーーー女の子と目が合う。涙で目が濡れていた。
俺は関係ない。俺は関係ない。たまたま目の前で遭遇してしまっただけだ。もし俺がトイレでも行っていたら、遭わなかったはずだ。
俺は関係ない。俺は関係ない。
ーーー本当に?
いや、関係ない。関係ないはず。
……そう言えば、あのときの女の子も泣いていたな…
そう思った瞬間、俺は走り出していた。
すでにセダンは前方を走っていた。走って追い付ける距離ではない。
俺は身近にあった住宅の自転車を拝借すると、全力で漕ぎ出した。
それでもゆっくりと離されていく。だが、信号待ちなどで追い付けるため、追跡は怠らない。
…相手は油断しているようだ。もし誘拐ならば、人通りの少ない道を選ぶものだが、比較的大通りを走っている。
俺は右へ左へ、追跡する。
セダンは特に遠回りをすること無く、工場跡に入っていった。
……手口が甘いな。お陰で助かるが。
俺は乗ってきた自転車を近くにとめ、警察を呼ぼうとした。
しかし、携帯の入った鞄が無いことに気付く。住宅街に置いてきたままだ。
仕方がない。俺だけでなんとかしよう。
視野を広げるため、髪の毛をかきあげる。そして多少準備をしてから、男達と女の子がいる廃工場の中に入っていった…
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