6:初めてのギルド
投稿が遅くなってすいません
「ここはずいぶん活気にあふれてるな」
山を下って半日ほど。俺の住んでいた家から最寄りの街は、雪に囲まれているとは思えないほど活気に満ち溢れていた。この程度の雪は慣れてみればどうということはないのかもしれない。
かといって、他の街から人が来ているというわけでもないようで、単純に街に住む人々だけで活気が形成されているようだ。
「それにしても、あれは提灯、なのか?若干形が違う気もするが」
家々の壁や屋根からぶら下がっているのは、四角い形をした縦横三十センチほどの箱だ。色が少しオレンジに見えることから提灯かと思ったのだが
「まあ、あるわけないか」
この異世界に提灯があるとは思わない。
「とりあえずギルド支部は…」
一度もこの街に来たことがないので、この街の施設などに詳しくない。ま、その辺にいる人に聞いてみるか。
「すいません」
「なんだい?あらあんたずいぶん薄着じゃない。丁度いいわ。うちの服を買っていったら?」
そういうおばさんの背後には、解読不能な文字が書かれた看板が。そっか、言葉はわかるけど、文字は読めないのか。
しかし、一文無しである。実際に街行く人の格好を見ると、俺がそこまで薄着というわけでもないのでお断りしよう。
「いや、自分はちょっと今金欠で。それより、ギルドってどのあたりにありますかね」
「そっか冒険者さんかい。ほかの街から来たってのは分かったけど、まさか冒険者とは思わなかったよ。開ギルドはこの道をまっすぐ行って角の酒場を左に折れればいいのさ。酒場は目立ちにくいから気を付けるんだよ」
そういうおばさんだが、わかってた?
「なんで俺がここの人間じゃないと?」
「そりゃああんた、ここの人間だったら腕にこいつを巻いてるからね」
そう言って見せてくれたのは、腕に巻かれた、特殊な模様をした、布?
「それは何ですか?ずいぶん細かい模様してますけど」
「これかい?まあ、もうちょっと滞在するんだろ?だったらそのうちわかるだろうねえ」
にやにや笑いながらそう言うので、とりあえずお礼を言ってから再び歩き出す。
「早く戻らないと月華が切れちまう」
あの巨体をこの街に連れてくるわけにもいかなかったので、留守番してもらっている。土産を買っていくということで何とか納得してもらったのだが…
「急いだほうがいいことには変わりないな」
角の酒場(らしい家)を曲がった先には確かに大きな建物があった。
「これがギルドか。ま、わかりやすい」
まさにギルドですよ、と主張しているような建物の入り口のスイングドアを開けて中に入っていく。
中では数人の男が酒を飲んでいるんほか、パーティーを募集しているらしい者もいる。とりあえずは受け付けのところに行こう。
「こんにちは。本日はどんな御用ですか」
温厚そうな青年が話しかけてくる。
「えっと、ギルドは登録だけしていて来るのが初めてなので、依頼の受け方とかを教えてもらいたいんですけど」
「わかりました」
そう言うと、後方に
「ちょっと外すので代わりお願いします」
そう叫んでからカウンターのこちら側に出てくる。
確かにこの人も腕にあの布を巻いてるな。
「初めまして。私は当ギルドの職員をしております、ラローナ、と申します」
「俺はトーリです。よろしくお願いします」
そう言うと、笑いながら話しかけてくる。
「トーリさんは、冒険者の方にしてはずいぶん話し方が丁寧ですね。普段通りにしていただいて結構ですよ」
「あ、そう?とりあえず知らない人には、敬語で話しとけってのが俺のスタイルなんでな」
そう答えると笑いながらギルド内の立て札のところまで案内してくれた。まさに掲示板かクエストボードって感じか。
「こちらに依頼が張られております。こちらは緊急性を要するものや、比較的新しいものがほとんどですね」
そう言ってわきの机から紙の束を取り出す。
「そしてこちらが定番のものや長期間放置され、依頼主からも特に何も言ってこないものが系統別にまとめられてます。『討伐・捕獲』『採取』『雑務』の三種類ですね。大体は前の二つなのですが、たまに建築を手伝えだとかいう依頼が入っていることもあります」
そういう手元の束は、確かに二つが厚くて、一つはほんの数枚しかない。
「次に以来の説明ですが、よろしければ何か依頼を選んでくださいますか?今回はそちらを使って説明を行いたいと思います」
「じゃあ、この《ゴブリンの討伐》で」
束の一番上にあってもっとも目についたものを選ぶ。ゴブリンは山間部では見かけなかったが、ここに来るときに比較的傾斜が緩やかなところで見かけた。おそらく山の上の環境はあいつらには厳しすぎるのだろう。
「こちらは十五体の討伐ですがよろしいですか?ゴブリンとはいえ数が集まればそれなりに厄介ですよ」
「一応腕には自信があるんで」
そう答えて紙をラローナに渡す。
「本来ならば、こちらのカウンターまで持ってきてください。また、今の時期は冒険者が少ないですが、夏場になると多くなるため、カウンターを分けさせてもらっています。依頼の受注用と、成果の確認用です」
「依頼は、こちらの依頼書を提示し、さらにギルドカードを提示してください」
そう言われたので。ギルドカードを提示する。俺が寝込んでいる間にローガンが用意してくれたらしい。なんでも伝手があるとかで、入会のための試験もなしだ。
「はい、こちらは白色のギルドカードです。依頼の達成数や成果によって位が上がり、ギルドカードの色も変化していきますので、ご注意ください。依頼の中には、一定以上の位がないと受注すらできないものもございますので高みを目指すのならば、なるべく高い位につかれるといいと思います」
「ちなみに、位ってのはいくつぐらいあるんだ?」
「《白》から始まりまして《青》、《緑》、《紫》、《金枠の紫》、《黒》、《金枠の黒》、《緋色》、《金枠の緋色》までございます。特に緋色と金枠の緋色は冠位者が少なく、重要な戦力として数えられてますね。二つの位を合わせて冠位者は五十名に満たないと思います。先日は、召喚されたばかりの勇者様のうち数名が緋色の冠位者となり話題となりましたね。ご存知ありませんか?」
「いや、しばらく旅をしてたもんで。それより、仮にこの街で依頼を受けて、ほかの街に移動したとき、そっちの街で依頼達成の報告をすることは可能なのか?」
「それは依頼にもよりますので、依頼を受注される際にお聞きください」
そう言って、一枚の紙を取り出す。
「こちらの紙に依頼の内容を記入していただき、それを保管していただきます。依頼を達成した際にはこちらと、討伐ならば討伐部位、採取ならばその素材を提示していただければ達成となります。手伝いなどの場合は、必ず依頼者の確認を取り、その旨を専用の用紙に記入してもらって持ってきてください」
一つ疑問ができたので聞いてみる。
「討伐部位ってのは?」
「それはこちらの書物に記してあります。魔物を討伐した際にその証拠として体の一部を切り取ってきていただきます。それを入れる施用の袋はこちらで用意しますので、お気になさらないでください」
「わかった。じゃあ依頼を受注するので手続きを頼む」
「かしこまりました。なお、基本的に依頼の期限はございませんが、期限のあるものを期限以内に達成できなかった場合は違反金を取らせていただきますので、ご注意ください」
その後いくつかの手続きをしてギルドを出る。街の中には、いくつかの出店もあり、いくつかのものを買っていく。金は、ある程度はローガンの貯蓄にあったのでそれを使おう。
「あっちの焼き鳥みたいなのはうまそうだな。あれと、何かに肉を買っていくか」
月華は絶対に肉をほしがるだろうし。
こうして、俺の初めての街で過ごす時間は過ぎていった。