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弐拾五 不幸な時代だ! 善人ほど早死にする!!

弐拾五 不幸な時代だ! 善人ほど早死にする!!

「クッ! み、右目が疼く……」

 刹那は右目を押さえた。

 今、刹那の右目に秘められし能力が発動されようとしていた。その能力は太古の神々による秘められた力であり、人間が持っていて良い能力ではなかった。遥か神話の時代に遡る神々の戦い。その戦いに終止符を打った力こそ、刹那が発動させようとしている能力に違いが無かった。

「お、収まるんだ俺の右目……」刹那は呻く。

 右目の能力を発動する訳にはいかなかった。何故なら発動したら最後、刹那でさえも制御する事は不可能な能力だったからだ。

 そう、その右目に宿る力は神々すら滅する力なのだった。

 遥か太古の神々の戦い。それは古くからその地を収めていた神々とそこに移住して来た新しい神々との戦いだった。始めは古き神々は領土を分け与え、新しい神々とは不可侵の関係を保っていた。だが平和は長くは続かなかった……。

 それまでの古き伝統を守ろうとする古き神々。そして革新を望む新しき神々。この二つの価値観がぶつかり合うのは、出会った瞬間からの必然と言えた。始めは小さな諍いだった。古き神々の子供を新しき神々の馬が蹄に掛けてしまったのだ。不幸な事にその子供は命を失った。

 新しき神々は謝罪をした。だが古き神々の怒りは収まらなかった。当事者同士の話し合いはすぐに勢力と勢力の話し合いに発展した。話し合いは紛糾し、その内お互いの勢力に悪い噂が流れた。古き神々の間では、揉め事を作る為にわざと蹄に掛けたのだと。新しき神々の間では、わざと問題を大きくして自分達を排斥しようとしているのだと。皆、戦が近い事を感じ始めていた。

 そんなある日、古き神々の中の青年が泉に行く。そこには普段見かけた事の無い美しい少女が水浴びをしていた。青年はその美しさに目を奪われる。少女は羞恥に身を捩りながらも青年の誠実な瞳に引き寄せられる。

 何という運命の悪戯か……。

 この青年こそ古き神々の王の一人息子だった。

 この少女こそ新しき神々の王の一人娘だった。

 ここから運命の歯車が激しく動き出すのだが、今はまだ語る時ではないだろう……。

「ヒャッハーッ! その種籾を寄越せーッ!」

 バギーに乗った暴漢が刹那に襲い掛かる。

 暴漢は半裸にプロテクターの付いたレザーを纏い、頭をモヒカンに剃り上げている。

 その右手には血塗られた槍!

「せ、刹那殿っ……。早く逃げて下されっ!」

 ボロを纏った老人が刹那に駆け寄る。

「ジジイッ! 手前ぇの種籾は俺達が変わりに栽培してやるぜえーっ!」

「はうあーっ……!」

 暴漢の槍が老人の背中に突き刺さる!

「き、昨日より今日……」

 老人の手が種籾の袋に伸ばされる。

「そのセリフはTPP不参加を表明してから言うんだなあーっ!」

「はうあーっ……!」

 暴漢の持つ槍が老人の伸ばした手に突き刺さる。

 刹那の右の瞼が開いた。紅い瞳はまるで燃え盛る炎の様に熱い。

「あーん? 手前ぇもこのジジイみたいになりてえのかー?」

「手前ぇらの……」

「手前ぇも種籾を隠し持ってるんじゃねーのかあー?」

 暴漢の手が刹那に伸ばされる。

「手前ぇらの血は何色だっ!」

 チョアッ!

 刹那の怪鳥音が響く。

「ギ、ギャアーッ!」

 暴漢の腕は有らぬ方向に折れ曲がっている。

「て、手前ぇっ! 俺達に逆らおうっていうのかっ!?」

「掛かって来い。纏めて去勢された羊の様にしてやる」

「去勢されるのは手前ぇだあーっ!」

 暴漢の一団が刹那に襲い掛かる。

 振り下ろされる斧!

 突き刺される槍!

 打ち込まれるボウガン!

「ハッ! い、居ねぇっ……!」

 だが其処には刹那の姿は無かった。

「約束通り去勢してやる」

 その声を暴漢の一人は聞いた。

 それは自分の真後ろからの声だった!

「ギ、ギャアーッ!」

 暴漢は股間を押さえたまま地面に倒れ口から泡を吹いている。

 刹那の一連の動作を見た暴漢達は、戦慄に身動きする事が出来ない。

 刹那は暴漢の後に立つと素早く跪いていた。そして暴漢の股間の間に前腕を通すと勢い良く腕を上に振り上げた。前腕は暴漢の股間に強烈な一撃を与えていた。

「ロ、ロウブローっ……!」暴漢の一人が呻いた。

「な、何だそれはっ!?」

「かつて人類が神々に戦いを捧げていた時代があった……。極限まで身体を鍛え上げた戦士レスラー達は血で血を洗う戦いを神々に捧げていた。だがそんな戦士達にも禁じ手が存在した。それは噛み付き、目潰し、拳による攻撃。そしてもう一つが……」暴漢は言った。

「ロウブロー(急所攻撃)っ……!」

「ロウブローっ!?」

「ああそうだ……。男なら鍛え様も無い部分に攻撃を与える。当然そんな技は戦いの神殿リングでは禁じ手となった。もし戦いを裁く神官レフェリーの前でやったら一発で失格になる攻撃だ。だが、もしも神官に見付からずにその攻撃をする事が出来たら……?」

「や、奴はそれをやったと言うのかっ!?」

 暴漢達に動揺が走る。

「と、とんでもねぇ狂犬だっ! い、いや、あいつは狂虎だっ! 狂える虎だっ!」

 慌てて暴漢達はバギーに飛び乗る。

「忘れ物だ」

 地面に倒れている暴漢をバギーに放り投げる。

「て、手前ぇ、覚えてろっ! 俺達は種籾を絶対諦めねぇっ!」

 暴漢達は爆音を上げて走り去って行く。

「せ、刹那殿……」老人が言う。

「もう喋るな」

「き、今日より明日なんじゃ……」

 刹那は種籾を拾い上げる。

「種籾があれば食糧を栽培して……」老人が言う。

 種籾を地面に蒔く。

「実るさ……」刹那は言う。

「下にあの老人が眠っている」

 種籾は地面を風に舞って流れて行った。


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