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55. 黄金色の扉

「だ、大丈夫ですか……? シュウトさま」


 一人、大広間の外周から中央を見下ろしていると、背後からレーナの声がした。

 振り返るとそこには、心配そうな表情のレーナとオルビークが立っている。


 アリカは闘牛を引き連れ、大広間に伏した文字召喚術師たちを死なない寸前まで治療魔術によって回復させて回っていた。


 レーナの顔は酷く悲しそうだ。

 それほどまでに、俺は醜い姿になってしまったのだろうか。


 彼女は泣きそうに瞳を潤ませて、たったった、と駆け寄ってくると、ハンカチで俺の頬を拭ってくれた。ハンカチには誰のものかもわからない血がついてしまう。

 

 レーナは上目遣いで泣き笑いの表情を作った。


「シュウトさまは優しい人です。きっと、今すっごく辛いんですよね? わたし、わかってるつもりです」


 どうやらオルビークだけではなく、レーナにまで俺の心の内はバレてしまったようだ。

 レーナが気付いているということはアリカも同様だろう。


 しかし、不思議と嫌な気はしなかった。


 俺はずっと、孤高の魔王こそが、正解の在り方なのだと思い込んでいた。

 だが、それは間違いだったのかもしれない。


 こうやって、仲間たちに心配されながら、弱い自分を奮い立たせて進む魔王。

 そんな存在がいても、良いのかもしれなかった。


「この広場を抜ければ、再召喚の宝物は近いみたいですっ」


 俺はいまだ心配そうに見上げてくるレーナの頭をそっと撫でると、「ありがとう」と一言だけ伝えて、配下たちの待つ中央部へと降りていく。






 配下のアンデッドたちも半分ほどが傷ついていた。もはや、この場に散らばるのは血だけではない。

 緑色や青色など奇怪な色をした体液や、欠けた骨の一部なんかが至る所に見られて、それはこちらが受けたダメージを表している。


「負傷した者は後ろに下がっていろ。もう、ここからは大人数でぶつかるような戦闘はないはずだ。ゆっくり休息を取れ」


 傷ついたB級、C級アンデッドたちは、俺がそう口にした後も後方に下がろうとしなかった。


「しょ、召喚主さま……! どうか、どうか我らもおそばに置いてください~~~!」


 アンデッド軍最弱のモンスター『雑魚と呼ばれる死後』たちでさえ、俺に怯えた様子でありながらも、退く様子を見せない。


 なぜだ、と聞く必要はなかった。


 その答えは、とうの昔に皆の心の中に刻み込まれているのだから。


「仕方がないな……」


『地獄骸』の仇を取りたいのは、誰もが一緒。


 傷ついたから、弱いから、というような理由で戦線の離脱を望む者など、今この場にいるはずがなかった。もしそんな奴がいれば、おそらく初めからこんな場所についてきたりしない。


 俺は進行方向に向き直る。

 大広間には、入ってきた側と反対にも同じ巨大な両開きの扉があった。

 だが、雰囲気はさっきの扉と全く異なっている。


 その扉は黄金色に輝いていた。

 派手な装飾が随所に施され、その威圧感に思わず圧倒されてしまう。


 普段から使う扉という感じはしない。

 むしろ、儀式的な時にのみ開かれるような、神聖な雰囲気を感じた。


「地下通路は普段、開放されていないんです。わたしも、あの奥に入ったことはありません。どんな場所なんでしょう……」


 隣に並んだレーナが、ごくりと唾を呑み込んでそう言った。


「あの奥は第十位までの高位文字召喚術師にしか立ち入りが許されていないんですよ。文字召喚の概念を祀る神聖な空間なのです」


 じっと黄金色の扉を見上げて、アリカが呟いた。

 彼女の顔は何かを憂慮するように歪んでいる。俺は不思議に思って問う。


「アリカ、どうした? 何か心配事か?」


 するとアリカは苦い表情を浮かべて、俺と視線を合わせた。


「まだ、出てきていないんですよ」


「……何が?」


「アルギア召喚宮殿に属する高位文字召喚術師たちです」


 確かに、大広間の敵は数こそ多かったが、個々の力はそれほどでもなかった。


『天使翼』なしでアリカを相手にした場合を考えれば、彼女一人と戦った方が明らかにこちらの被害は大きくなるだろう。


 第三位の実力はそれほどまでに強い。


 第一位と第二位、もしくは第四位以下の文字召喚術師とすでに対峙していれば、もっと被害を受けているはずだ。ということは、未だ俺たちは高位文字召喚術師たちと遭遇していないことになる。アリカの言葉は正しいのだろう。


「高位文字召喚術師たちは、個々の任務のために召喚宮殿を離れていることが多いんです。今回もほとんどの高位文字召喚術師がいないことは確認済みでした。ですが、一人もいないなんて、さすがに不自然です」


「じゃあ、あの黄金色の扉を開けられる第十位までの高位文字召喚術師の誰かが、扉の向こうで待っていると?」


「その可能性は非常に高いです。また新しい問題発生ですね」


 だが、俺はアリカほど悲観することはなかった。


 どうせ、アルギア召喚宮殿を襲撃すると決めたときから、属する文字召喚術師全員を相手にする気だったのだ。今更、怖気づいても仕方がない。


「大丈夫。俺は扉の向こうで待つ、どの文字召喚術師も強いんだから」


 アリカを励ますように俺は言う。「そうですね」と彼女はふわり、と安心したように笑った。


 そうして、俺は集団の先頭に立つ。


 高位文字召喚術師。

 それがどんな存在であろうと、俺は必ず勝ってみせる。

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