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49. アリカの怒り

 俺たちは召喚宮殿入り口から続く回廊を進軍していた。狭い一本道をなるべく早足で進んでいく。


 突如、大槍が衝撃波と共に前方から投擲されて、こちらに一直線に飛んできた。


『邪神剣』が反射的に叩き落として、俺が通路の先に視線を向けると、そこには峡谷で遭遇した時と同じ、フードを被って顔を隠した文字召喚術師たちがずらっと道を塞いでいる。


「フードの人たちは、序列に入っている文字召喚術師さまですっ! 入り口の人たちとは比べ物になりません!」


 レーナが再び助言をくれるが、その様子を見たフードの男の一人が乾いた笑いをみせた。


「おや、誰かと思えば、何にもできない役立たずのレーナじゃないか。お強い師匠の庇護のおかげで宮殿に留まれていた能無しが、今更何の用だぁ?」


「うぅ……」


 フードの男に罵られ、レーナは涙目になって萎縮してしまう。

 このようなやりとりが常日頃から行われていたのだろう。


「簡単な文字召喚術も満足に行えないお前のことを、俺たちは馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そんな得体のしれない連中につくほどの大馬鹿だったとはなっ! 俺たちが教えてやるよ……! いつかみたいに、意識がなくなるまで殴り続けてな!」


 性根の曲がった連中だと思ってはいたが、まさかここまでとは聞いていて呆れる。

 己らが魔術師たちから見下されているからと言って、その不満をさらに弱い者にぶつけるなど反吐が出るような行為だ。


 救いを求めていたレーナたちにとって、暗黒城はとても住みやすい場所だったに違いない。捻じれた思考の人間はいないし、暴力もない。それでいて、自分たちを守る力は確かにある。


 俺にしてみれば、普段の生活を送っているだけだったが、それは彼女たちには幸せな光景に見えていたのだ。


 耳を塞ぎ、うずくまって震えるレーナを一瞥してから、俺は鋭い視線をフードの男たちへと戻した。

 我慢の限界というものもある。どうやら、目の前の男たちは躊躇せずに倒せそうだ。


 だが、俺が一歩、相手の方に踏み出した時。

 俺の前に、一人の人影が立った。


 彼女の名は、アリカ・リンリー。

 今まで後方に控えていた彼女が、俺に背中を見せる形で、フードの男たちと対峙する。


 その横顔には、確かな怒りが現れていた。

 そうだ。レーナを侮辱されて怒るのは、俺だけではない。


 アリカにとって、レーナは大切な弟子。

 弟子が攻撃されているのに助けない師匠など存在しない。


「はははっ! なんだよ、今度は師匠のお出ましか!」


 フードの男は蔑むように笑みを浮かべて、アリカを睨みつける。


「師弟共に揃って、アホだなんて救えねえよなぁ! 俺はな、お前たちみたいな穏便派のことが常々嫌いだったんだよ。どうせ、第三位召喚術師の座も宮殿内政治だけで手に入れたんだろ? でもな、今日はいいんだよなぁ? 敵なんだから――殺しても?」


 フードの男はレーナと同じようにアリカも威嚇できると思っていたのだろう。彼女のことを、声を荒げて脅せば、委縮するような女性だと侮っていたのだろう。


 だが、アリカ・リンリーはゴミを見るような冷たい瞳で、


「それはこっちの台詞ですよ、いつも口だけの無能な召喚術師さん」


 アリカが指をパチンと鳴らすと、彼女の周囲には五体の牛たちが遠隔召喚された。

 斧を持った巨大な闘牛たちも心なしか、いつもより帯びている殺意が強い。


 フードの男たちは一瞬その圧力にたじろぐが、すぐに全員が遠隔召喚を行う。

 相手側が召喚したモンスターは全部で二十体。全て鉄でできた人型や動物のモンスターだ。


 アリカが一人で相手にするには、さすがに無理のある数だと思い、


「手を貸そう」


 と俺が言うと、アリカはにこやかな笑顔で振り返って、


「大丈夫ですよ」


 と答えた。


 その笑顔の奥に潜む威圧を感じて、俺は思わず舌を巻く。

 そこに不利な状況に対する不安はなかった。相手を征服するという意志だけがそこにある。

 

 どうやら、アリカはここの獲物を独り占めにしたいらしい。


「お好きにどうぞ」


 俺が呆れたようにそう告げると、アリカは満足げに頷いて、フードの男たちに向き直る。そうして向けられたアリカの表情を見て、対面するフードの男たちは「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。


 ――どんなに恐ろしい表情を彼女がしているのか、俺は知りたくない。


 アリカは自分を守護する闘牛たちと一度目を合わせて、逆に怖くなるほど優しい声音で言った。


「それでは参りますよ、闘牛たち。アルギア召喚宮殿第三位文字召喚術師、アリカ・リンリーとの格の違いを、そこの底辺たちに教えて差しあげましょう」

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