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46. 戦端を開く

 煉瓦や木材を使った建物がどこまでも立ち並び、ギルダム自治区とは比べ物にならないほど、人の往来が激しい、王都アルギア。


 召喚宮殿はその王都の中心部から少し離れた広大な土地を敷地とし、大きな球場のような円形の形をしていた。強度のある煉瓦で固められた宮殿の屋根は緩やかな半円状で、高さは五階建てのビルほど。


 ルフェリア城下町に存在する普通の建物と比較すると、アルギア召喚宮殿は途方もなく巨大である。そんな召喚宮殿の敷地は塀によって囲まれており、正面には両開きの鉄の門、そしてその両脇に見張りの文字召喚術師二名が立っていた。


 どちらの男もスーツのような正装の衣類を身に纏っており、酷く退屈そうな様子だ。

 

 よかった。これから始まる大混乱は、退屈な彼らをさぞ楽しませることだろう。


 城下町の裏道を進軍するのは、120体を超えるアンデッドと召喚モンスターの混成部隊。


 その戦闘を行くのは、もちろん俺だった。

 傍らにはレーナがおり、なるべく人目につかないルートを案内してくれている。


 しかし、ルートの選択など気休めに過ぎない。

 転移ゲートをくぐって、王国の中心部に出た時、そこにはたくさんの王都民たちがいた。全員が全員、復讐の念に包まれて出現した召喚モンスターの集団に恐れをなし、すでに背後は派手なパニック状態になっている。


 意識と感情はとてもいい具合になっていた。


 俺の大事な配下『地獄の骸と腕』。何の敵意も見せていない彼を殺したアルギアの召喚術師たちは、血に塗れ呆然と立ち尽くす俺たちをせせら笑い、すぐに興味を失ったかのような無表情になって去っていった。


 憤怒の感情が湧き上がってくる。


 大丈夫、今の俺は召喚宮殿を破壊し、文字召喚術師を傷つけることを躊躇わないだろう。


 ここで躊躇することは、俺のために傷ついた配下たちの行いを冒涜することになる。

 それだけは許されない。


 対話をすることを目指して、平和的に物事を解決しようとしていた俺たちの理想は、奴らによって踏みにじられた。それを看過しておくことはできない。


 屈辱を思い出し、ぎりっと歯噛みした俺の右手をレーナの両手がそっと包み込む。

 それによって、俺の頭は冷静さを取り戻していく。


 確かな怒りをこの手に握り締め、それでいて冷静に狙うのは、宮殿の最深部だ。


 日がささない薄闇に包まれた裏道の終着地点で、俺は歩みを止める。

 

 一歩踏み出した先は太陽の下。

 その目の前に広がるのは、アルギア召喚宮殿。


 これから俺は少しの間、優しさを捨てる。思いやりを捨てる。慈しみを捨てる。

 そうして、己の立つ場所が血の海に沈んでも、後悔はしない。

 全ては大事な仲間をこの手に取り戻すため。

 

 俺は冷酷な魔王になるのだ。


 今、戦端は開かれる。


「やれ」


 俺のそのたった一言が、開戦の合図だった。

 すぐ背後に控えていた『魔地馬』と、馬車に搭載された『邪神砲』が音もなく、前に出る。

 

 そして。


 穏やかな昼下がり、その全てを地獄に叩き込む一撃が、高速でアルギア召喚宮殿を襲った。


 錐揉み状に回転した闇の砲弾が、アルギア召喚宮殿の巨大な鉄門に着弾し、強烈な爆風を巻き起こす。鉄の門は激しい衝撃で遥か上空に舞い上がり、両脇にいた文字召喚術師二人は何が起こったのか把握することもできずに煉瓦造りの塀へと叩きつけられ、塀に血に濡れた大きな跡を二つ作る。


「行くぞ」


 俺は大量の召喚モンスターを連れて、太陽の下に足を踏み出す。

 

 復讐を誓った化け物たちが次々と日の光に照らされていく。

 俺は血に染まった正門を無心で通過して、アルギア召喚宮殿を正面から見据えた。


 襲撃に気付いた周辺の王国民たちが悲鳴を上げ始める。

 彼らの目には、俺たちが悪人に映るだろうか。


 この歩みの先にはきっと、地獄が待っているだろう。

 だが、それでいい。

 俺の大切な配下は元々地獄の出身なのだ。


 どんな凄惨な光景も、復活する彼への贈り物としよう。

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