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43. あなたを支え続けます。

「レ、レーナ……?」


 夜遅くに俺の部屋の扉を開け、顔を覗かせてもじもじとしているのは、パジャマ姿のレーナだった。


 レーナのパジャマ姿は色々と危うい。


 まず、絶対にサイズが合っていない。いや、よく見ると、身長や肩幅はぴったりのようだ。

 しかし、胸の辺りが膨らみ過ぎていて、ボタンが上の方まで閉まっていない。


 谷間はしっかりと強調されているし、少し動く度に大きな胸は揺れる。アリカさんに少しでも分けてあげればいいのに……と多少思わなくもないほどの大きさだった。


「あ、あの……シュウトさま!」


 レーナの頬はなぜか紅潮していた。緊張しているのか、首筋にうっすらと汗もかいていて、非常に扇情的である。村長でフェイント入れておいてからのこの状況。俺もさすがに想定していなかった。


 俺は瞬時に色々な妄想をする。こればかりは仕方ない。

 そしてそれによって、彼女の呼びかけに返事をできずに固まっていると、


「シュウトさま……!」


 ぐいっとレーナが俺の近くまで寄ってきて、下から潤んだ瞳で見上げてくる。胸が大きく揺れて、谷間が振動、俺の妄想も加速する。


 ……ではなく。


 わかっているのだ。レーナがこんなに緊張して何かを話しにくるということは、間違いなく明日の召喚宮殿襲撃についてだ。そうに違いない。そうじゃないと、俺はこれからどうしていいのかわからなくなる。


 そして、


「シュウトさまっ!」


 ガバッとレーナが俺に抱きついてきた。


 あれ…………マジで?

 薄い布一枚越しに伝わる胸の柔らかな弾力。強く押しつけられることによって、胸の形が変わっていく感触までバッチリと伝わってくる。


 俺は完全に身体を硬直させてしまった。

 不意打ち。

 え、これはラブコメ展開なの? なんて、くだらない考えを頭の中に巡らせていると、


「ぐすっ……」


 俺の身体をぎゅっと抱きしめ、顔を押しつけたレーナは嗚咽を必死に堪えるように鼻をすすった。


「……レーナ」


 俺の緊張もゆっくりと解けていく。彼女を優しく引き離して顔を見ようとするが、俺の背中に回されたレーナの腕には強い力が込められていて、体勢を変えることはできなかった。


「ごめん、なさい……」


「……何がだ」


 俺は子供をあやすように優しく、レーナの頭を撫でてやった。

 彼女の肩にかかるくらいの髪が静かに揺れて、その光景はどれだけ見ていても飽きる気がしない。


「……わたし、シュウトさまのこと、怖いって思っちゃったんです。あの時、峡谷で……」


 彼女が言っているのは、『地獄骸』が殺された後、俺が混乱して攻撃的になってしまった時のことだろう。レーナとアリカは俺に対して恐怖を示し、結果、俺は精神的に孤立した。


「本当なら、弟子のわたしが一番支えてあげなきゃいけないのに……わたしが、一番信じてあげなきゃいけないのに……それでも、わたしは何も言えませんでした。わたしは弟子失格ですっ……一瞬でも、シュウトさまのことを恐ろしい存在のように感じてしまったんです……!」


 一定のリズムで、俺はレーナの頭を撫で続けた。

 優しく、これ以上何物も傷つけないように。

 俺たちの絆も、彼女たちの心も。


「でもっ……!」


 レーナは突然、俺の身体から顔を離した。

 泣き腫らして真っ赤になった目で、鼻水の垂れた顔で、嗚咽を堪えて歪む唇で、


「もう、わたし、怖がったりしませんっ! シュウトさまのこと、ずっと支え続けます! だから、わたしを――これからも弟子でいさせてくれますか?」


 レーナの言葉をそこまで聞いて、彼女が何を心配していたのか、やっとわかった。


 彼女はきっと、怖かったのだ。

 それは怒りに狂った俺に対してではない。

 このまま、俺たちの心が離れていくことを、だ。


 俺は配下たちを守るため、敵を殲滅する魔王にでもなってやると決めた。

 だが、その道は修羅の道。

 普通に目指せば、その絶対的な強さのせいで、孤立し、傷つき、いずれは倒れることだろう。

 俺はその道を歩もうとした。


 だが、レーナはそんな俺の手を掴もうとしたのだ。引き止めようとした。俺が身も心も魔王になり、全てを断罪してしまう前に、温かい平和な日常に繋ぎ留めてくれようとした。


 それは簡単なことではなかったのだろう。

 だから、レーナはこんなにも泣いている。嗚咽を我慢することも限界になったのか、彼女は大声を上げて泣きじゃくる。


 俺が目指したのは、仲間をこんなに傷つける道じゃない。

 俺が目指す魔王は、こんな存在ではない。


 だから、今度は俺が、未だ泣き続ける彼女の繊細な身体をそっと抱き締めた。


「…………え?」


 レーナがぴたりと泣きやみ、涙の残る顔を真っ赤に染めた。


「え、ちょ……シュウトさま! こ、こここれはいったいなんですかっ!?」


「なんですかって、お前がさっき抱きついてきたのと同じ理由だよ」


「え、えええ!? な、なんですかそれぇ!」


 真っ赤な顔でジタバタと手足を動かして抵抗するレーナ。

 自分からは抱きついてきておいて、なんなんだその全力の抵抗は……。


 俺はレーナを解放してやる。

 すると、レーナは一瞬で部屋の端まで距離を取り、両手で己の身体を抱くようにした。


「お、襲われました……」


「今の、いいシーンだったはずなんだけどな……」


「襲われましたーーーーーー!!! シュウトさまに襲われましたーーーーーーー!!」


 動転した様子のレーナは人聞きの悪いことを叫びながら、宿屋の廊下へと出ていってしまった。アリカとかオルビークも宿泊してるんだけど、どう説明すればいいんだろうか……。


 だが、いつもの元気な様子を取り戻したレーナの姿に、俺は思わず苦笑してしまった。

 今の抱擁は別に恋とかそういうものじゃない。


 親しい相手への愛情である。

 それは恋愛とは全くの別物だ。深い絆と言い換えてもいい。


 それは上手く伝わらなかったようだ。しかし、それでいい。

 レーナにはいつものバカな子でいてもらった方がいい。


 だから、俺は特に弁解することもなく、部屋の扉を閉めた。


 どうやら、今日はしっかりとした眠りに就くことができそうだ。

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