30. 剣豪―三刀―
銀色の鎧に身を包み、頭全体を覆う鉄製の被り物を装着し、両手で大きな刀を握った武者のような外見。
それが闇から現れた敵の正体だった。
体格は一般的な人間と同じ。これなら空いた穴も容易く通り抜けられるだろう。
だが、不思議とその中身が人間でないことは感じられた。相手は被り物の前面、横に細長く入れられた隙間から視界を得ているようで、顔面は確認できない。
だが、敵が纏う雰囲気は明らかに化け物のそれだ。
敵の外見で一番目を引いたのは、鎧でも手に握られた得物でもなかった。
それは、その両脇に浮遊する二本の日本刀擬きだ。
常にくるくると落ち着きなく縦横関係なく回転を続け、まるで獲物を探し続けているかのようだ。
そのうちの一本は先ほど、オルビークを狙ったものである。
「魔刀使いですな……」
『地獄骸』が険しい表情を浮かべて言う。
「魔刀……?」
「魔力を与えられ、完全に自立して動く刀のことです。奴は一人ではありますが、三人分の頭脳が存在すると思った方が良いでしょう」
ガシャン、ガシャン、と、銀色の鎧は空洞内の光を反射して、こちらとの距離を詰めてくる。俺の後方にいたオルビークはその姿を注視し、やがて何かを思い出したように、苦々しげに呟いた。
「……『グラウンドイーター』に乗っていた時は距離があったせいで、鎧を着たモンスターとしか認識できておらんかったが……最悪じゃ。わらわはあれの正体に心当たりがあるぞ」
「知っているのか? あれを」
「ああ……『剣豪―三刀―』と呼ばれる――召喚モンスターじゃよ」
「召喚モンスター? 誰があんなものを?」
禍々しい気を放った『剣豪―三刀―』は明確な殺意を持って、得物を構えている。あんなに憎しみに染まったモンスターを、俺は今まで見たことがない。
オルビークは『剣豪―三刀―』を鋭く睨みながら呟く。
「帝国じゃよ。わらわたちが生まれるよりも前、遥かなる過去の時代に召喚され、帝国を守り続けてきた伝説的存在じゃ。あらゆる戦場に現れ、敵を滅す。民衆の畏怖の対象……」
オルビークの言葉で、俺は気付く。
召喚モンスターは食事を取らない。寿命もない。だから、何らかの手段で命を奪われる以外、消滅する方法はないのだ。ということは、遥か昔からずっと存在し続けることも可能。
誰にも敗北しない、周囲に畏怖を抱かせるほどの力の持ち主であるならば。
長い月日を生き抜いてきたという事は、それそのものが『剣豪―三刀―』の驚異的な強さを証明する。
銀色鎧のモンスターは一切の感情を表さず、一定の速度で近づいてくる。今回はさすがに対話を持ちかけるつもりはなかった。すでに重傷者が出ているし、相手に会話をする知能があるかどうかも怪しい。
「どうしますか、召喚主」
『地獄骸』は八つの腕に、すでに剣を顕現させていた。
いつでも攻撃できる準備を整え、俺の指示を待っている。
「今回は、対話の試みはなしだ。相手は召喚モンスター、本気でやって構わない」
「了解しました。では、私が先陣を切りましょう」
戦闘の必勝法。それは相手が反応する前に先制攻撃をすることだ。
『地獄骸』は地面を強く踏み込むと、次の瞬間、高速で『剣豪―三刀―』までの距離を詰めた。右側三本目の手に握った剣を大きく横に振り、下段から上段へと切り上げる。
しかし、『剣豪―三刀―』は微塵も反応しなかった。
代わりに、空中を舞っていた日本刀のうちの一本が『地獄骸』の剣戟を食い止め、受け流す。
『地獄骸』はすぐさま、左側の四本の腕を同時に使って、四方向からの追加剣戟を加える。
だが、『剣豪―三刀』が身を躱すことで一本、浮遊魔刀で二本、手に持った大きな太刀で一本。四本全ての攻撃を防いだ。
「ふん、私の攻撃を全て防ぐか。その禍々しい気配は紛い物ではないということだな」
『地獄骸』の言葉に、『剣豪―三刀―』は応答する様子を見せなかった。
というよりも、反応すらない。やはり、敵に会話能力は備わっていないようだ。
ただ、目の前の敵を討つ。
その目的で召喚された殺戮兵器ということだろう。
今度は、『剣豪―三刀―』が動いた。
銀色の鎧を怪しく輝かせ、足を大きく踏み込むと、その両手に握った大きな太刀で『地獄骸』に切りかかる。
「ぬっ……!」
『地獄骸』はそれを正面から受け止めるが、敵の腕力が予想以上に強かったのか、両足が一瞬、大きく折れる。その隙を突くように、魔刀が『地獄骸』の頭上から襲いかかった。
「上だッ!」
俺は鋭く叫んだが、『地獄骸』の反応は間に合わない。
『地獄骸』めがけて、直進する魔刀。
だが、その攻撃が『地獄骸』に当たる直前、今度は撃ち出された拳大の火炎球が魔刀に直撃し、その軌道を大きく変える。
火炎球で『地獄骸』を助けた人物。
それは、魔術師レアナ・オルビークだった。
彼女はツインテールにした長い髪を揺らす。
「これで借りは返したぞ、アンデッド」
周囲に多数の火炎球を発生させながら、彼女はそう言って腕組みをした。




